2016年度活動レポート(一般公募コース)第413号
持続型社会の構築を目指した沿岸・海洋管理研究最前線
高知大学からの報告
高知大学の黒潮圏総合科学専攻と黒潮圏部門では、2017年1月17日~1月22日の日程で「持続型社会の構築を目指した沿岸・海洋管理研究最前線」をテーマにして、フィリピン・台湾から5名ずつ計10名の大学院生・若手研究者を招へいし、日本と高知大学の科学研究の最前線を見学・体験してもらいました。
プログラムの中から主要なものをピックアップしてご紹介します。なお、黒潮圏とは、狭義には世界最大の海流の一つである黒潮の流れに面する、フィリピンや台湾、日本といった地域を念頭に置いており、招へい者もそれらの地域からお招きしています。
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物部キャンパスにある海洋コア総合研究センターは、世界最大の海底掘削船ちきゅうにより得られた、海底下数千メートルの堆積物(海洋コア)解析拠点として世界的に有名です。参加者は、このセンターの施設を見学しレクチャーを受けると共に、実際に使われている最先端の設備や試料に触れ、解析の簡単な手ほどきを受けました。
2
土佐湾は高い生物生産性を誇り、外洋から多くのクジラ類が集まってくることでも知られています。高知大学では、昔から土佐湾の生物相や生態などを調査研究してきました。近年は気候変動によって沿岸域の藻類が温帯性のものから熱帯性のものに入れ替わっていることが見出され、IPCC報告書にも論文が取り上げられました。
プログラムでは、宇佐海洋生物研究教育施設の実習船で、土佐湾を巡検すると共に、施設で講義を受けたり、藻類の調査法や培養法などについての実習を行いました。
3
朝倉・岡豊両キャンパスでは、室内実験の手ほどきを受けました。たとえば、造礁サンゴは黒潮圏沿岸域でサンゴ礁生態系を形成し、その生物多様性の基礎となっていますが、生物学的にはまだまだ未知の部分が多いです。高知大では、2013年に世界で初めて造礁サンゴの染色体観察法を確立し、サンゴの形態による分類と遺伝子による分類が一致しないという混乱を解決する新手法として注目されています。
参加者はこの手法の手ほどきを受けた他、高圧凍結装置を用いて加圧固定した造礁サンゴ試料を用い、透過型電子顕微鏡でナノレベルの細胞内微細構造を観察する実習を行いました。その他、蛍光測定を利用した海藻の光合成測定、生物資源から得られる抗アレルギー物質を探求するフローサイトメーターによる、リンパ球・サイトカインの解析、タンパク質分析手法等の手ほどきを受けました。
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黒潮圏諸国の沿岸環境や自然資源の劣化問題に対処するために、総合的海洋管理の考え方を導入し、政策や取り組みを進めていくための研究が、当部門では進められています。このようなテーマに関し、横浜国立大学の松田裕之教授や専攻教員の講演会を行った上で、最後の総合討論ではそれぞれの母国の状況を念頭に置いてもらい、当専攻の大学院生も交えて、沿岸自然資源の管理や保全を総合的に行っていく方途について、熱い議論を戦わせてもらいました。
上記のようなプログラムや議論を経て、黒潮圏域での持続可能な社会のあり方について参加者に考えてもらいました。