2016年度 活動レポート 第398号:九州大学

2016年度活動レポート(一般公募コース)第398号

アジア環境エネルギー教室

九州大学からの報告

2017年2月19日に、5か国10名のアジアからの研修生が福岡に到着し、九州大学筑紫キャンパスから至近距離にあるマンスリーマンションに宿泊し、3月11日までの3週間の研修が開始されました。

九州大学での環境、エネルギー研究に関するさくらサイエンスプログラム「アジア環境エネルギー教室」は、今年度で3回目です。

経済発展著しいアジア地域は、日本の高度成長時代と同様に、発展に伴う環境汚染が人々の生活を脅かしています。

また、発展途上国の急速な発展と人口増加は、エネルギー資源需給や金属等の鉱物資源需給にも大きな変化をもたらしており、現在でこそ中東の石油減産政策とシェール革命により、エネルギー資源価格が低位安定化していますが、潜在的に、エネルギー資源に代表される資源制約が、人類を苦しめる可能性があります。

さらに、温室効果ガスは経済発展に伴い必ず増加する方向に向かい、地球温暖化対策も大きな課題となっています。

このようなアジア圏全体がかかえる環境・エネルギー問題に対して、環境先進国である我が国の大学が貢献できることは、日本の最先端科学技術と、それを支える大学院教育をアジアと共有することです。

九州大学のさくらサイエンスプログラム「アジア環境エネルギー教室」は、アジア各国の大学・研究機関の若手研究者と大学院生を招へいし、九州大学の先端研究の場で研修を行うことにより、アジアが抱える環境エネルギー問題を理解するとともに、その解決につながる科学技術を体験することを目的としています。

過去2年間の蓄積した経験をもとに、今年度は、さらに各研究室とアジアの大学・研究機関の共同研究の場での研修の色彩をより強めた計画を立案し、1か国2名、原則として、若手教員または研究員1名と学生のペアで、モンゴル、マレーシア、タイ、ベトナム、中国の5か国から合計10名を招へいしました。

研修は2月20日から開始し、1日目はオリエンテーションとして、九州大学、および、筑紫キャンパスの説明、相互の自己紹介、キャンパスツアーを行いました。また、2日目以降、各研究室での実験を実施することから、九州大学教員による安全教育が英語テキストをもとに実施されました。夕方には、配属される研究室の学生・教職員も参加した懇親会が開催され、相互の理解を深めました。

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オリエンテーション(九州大学の紹介と実験研究のための安全講習)
写真3
オリエンテーション(タイ・マヒドン大学からの参加者による自己紹介の様子)

写真4
筑紫キャンパスツアー(炭素資源変換研究設備の見学)

研修は、5つのグループに分かれて、のべ6つの研究室で、各研究室と送り出し機関の協議のもとに、共同研究に参画する形で実施されました。

エネルギー問題の解決を目指す課題としては、林潤一郎研究室でモンゴルからの研修生2名が、モンゴルに豊富に存在する褐炭の環境負荷なき有効利用を図る研究、「褐炭および触媒担持褐炭から調製したチャコールの水蒸気ガス化」に従事し、研究室の教員・学生とともに、褐炭の熱分解、ガス化実験を行いました。

大瀧倫卓研究室では、ベトナムからの2名の研修生が、機能性無機材料に関する日本・ベトナム国際共同研究の一環として、熱エネルギーを電気に変える熱電変換材料の合成と物性評価、および、省エネルギーディスプレイの鍵物質となりうる、酸化物蛍光体の物性評価を行いました。

写真5
共同研究活動(熱電変換材料の試料調製の様子)

大瀧研究室と共同研究を実施しているつくば市の物質・材料研究機構(NIMS)の森孝雄研究室の訪問と意見交換も併せて実施しています。

省エネルギー関連研究として、萩島理研究室では、マレーシアの2名の研修生が、熱帯圏における自然通風を活かした省エネルギー建物設計を目指した、風洞装置を用いた実験と、マレーシアの風の流れのシミュレーションを行いました。

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共同研究活動(風洞装置を用いた壁面風圧計測の様子)

また、胡長洪研究室では、中国の2名の研修生が、省エネルギー船舶の最適設計に関する、流体力の予測研究を行いました。胡研究室は、大阪大学の柏木正研究室との共同研究を実施しており、研修生も柏木正研究室での講演と研究交流を図っています。

アジアの環境保全・省エネルギー研究として、タイからの研修生は2つの研究室に分かれて実験を行いました。1名は、永島英夫研究室での、低環境負荷人工高分子合成プロセス研究の一環として、触媒の開発と触媒作用の解明実験を行い、また、もう1名は、高橋良彰研究室で、タイに豊富に産出する天然高分子の特性解析実験を行いました。

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共同研究活動(触媒および高分子の合成実験の様子)
写真7
共同研究活動(浮体式洋上風力発電に関する研究討議の様子)

これらは、アジアの今後の環境負荷、エネルギー危機なき経済発展の観点から見ると、
①モンゴル、中国等、多くのアジア諸国に算出する石炭、とくに褐炭等の低品位炭の有効なエネルギー変換で、安定したエネルギー利用を低環境負荷で達成すること、
②発電や消費で発生する熱エネルギーの電気への変換を熱電素子で達成すること、
③低消費エネルギー社会を、都市設計の面からは風通しのよい建築物の導入、輸送面からは、低消費船舶設計で達成すること、
④アジアの特徴ある再生可能資源であるバイオマスの有効利用と、それに並行して必要な人工高分子の低環境負荷、省エネルギー製造で達成すること、
といった、アジアのサステイナブルな社会構築に必要な基礎技術で構成されており、研修成果が今後の各研究機関での研究の進展に役立つものと考えられます。

また、この研修を通じて、従来から実施していた国際共同研究がより進む形になる、あるいは、新たな国際共同研究発足のきっかけとなる、といった、当初の狙いどおりの成果が得られつつあります。

3週間の研修期間中、休日を中心に、研修生たちは研究室の学生との交流を、さまざまな面で体験しました。

また、ちょうど福岡は梅の花の盛りであり、日本の文化や風景を楽しむ時間も十分に活用したようです。

研修の最後に、九州大学伊都キャンパスの見学と、3週間の研修結果、とくに、各研究室での共同研究の成果発表を行い、恙なく研修を終了し、帰国しました。

写真8
伊都キャンパスツアー(水素エネルギー研究施設の見学)
写真9
最終活動報告会(モンゴル国立大からの参加者による活動報告の様子)
写真10
最終活動報告会(参加者との集合写真)

本研修は、九州大学とアジアの諸大学・研究機関の相互交流に大きく貢献しています。タイ・マヒドン大学やマレーシア日本国際工科院、中国・上海交通大学は、九州大学の学術交流、学生交流協定校であり、ベトナム、モンゴルの2大学も部局間交流協定の締結、あるいは、その準備をしています。

さくらサイエンスプログラムは、アジア、日本の国際交流の貴重な、かつ、またとない機会であり、支援いただいたJSTに感謝します。