2016年度 活動レポート 第379号:高エネルギー加速器研究機構(KEK)

2016年度活動レポート(一般公募コース)第379号

中国の研究者たちが最先端加速器の研究現場で学ぶ

高エネルギー加速器研究機構(KEK)からの報告

7月5日〜14日までの10日間、中国科学技術大学の放射光施設(NSRL)の大学院生とポスドクあわせて10名と引率者1名を高エネルギー加速器研究機構(KEK)に招聘し、講義、実習、見学を行いました。

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ラボラトリーツアーで、実際に加速器を見学。巨大さに皆、圧倒されている様子でした。

KEKは世界でも最先端の加速器研究を行っており、その利点を生かしたプログラムにしたい、との受入れ側の事務局長を務めた、周徳民氏の強い思い入れで、実習に軸足を置いた「さくらサイエンスプログラム:共同研究活動コース」を申請しました。

当機構のSuperKEKB加速器は、世界の注目を集めるプロジェクトで、世界第一級の研究者と共に加速器技術の粋が集まる現場に立つことができるのです。学生達は加速器の講義を受けた後、つくばと東海のラボラトリーツアーでその加速器を実際に見学しました。彼らはSuperKEKBとJ-PARCの巨大さに圧倒され、また装置の違いも実感したようです。

今回のプログラムの中心となる実習は、1〜3名のグループに分かれた研究テーマで行われました。数日の実習で学べることは限られていますが、私たち主催者はできるだけ多くの研究者と話をする機会が持てるような配慮を実習担当者にお願いしました。加速器科学の分野で研究者になろうとしている参加者にとって、研究者同士のネットワークを作ることが将来の貴重な財産になると考えたからです。

最終日には学生達は10分間の持ち時間が与えられ、10日間の日本滞在で学んだこと、感じたこと等を発表しました。その発表内容は、初めて来た日本の印象や感想が中心となっており、日本への好意に満ちたものでしたが、多忙な中で時間を割いた実習担当者が期待したものとは少し違っていました。既に実習の中で学習内容についての発表を済ませたグループが多かったことも影響していましたが、指示をしないで全てを理解してもらえるわけではないことも再認識しました。

しかしながら、改めて招聘した学生達にレポートの提出を要請すると、100ページを超えるレポートが2日の内に届き、学生達の真摯な取り組みが伝わってきました。彼らの真剣さを一般に公開した学生発表で聴衆に伝えられなかった事は残念でしたが、これをきっかけとして、私達受入れ側は今後の若手育成の方法や私達の姿勢、また結果公表のあり方を真剣に考えることができました。

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学生発表会での様子

現在、世界の加速器分野では次々と新たな大型プロジェクトが計画中、建設中ですが、人的資源の不足が大きな問題となっています。将来の研究の担い手を育てることは、世界最先端の研究と共に非常に重要な課題となっています。今回のプログラムのように実習を重視すると、受け入れの研究者には相当な負荷がかかるものの、参加者の人材育成のみならず、将来的な共同研究のための一助にはなったと確信しています。また、周徳民氏は加速器研究施設の優秀な若手研究者であるばかりではなく、これまでも中国と日本のために若手をサポートしてきました。また、採用されたばかりの中国人若手研究者も、日中の若手育成に意欲を燃やしていたことも付け加えたいと思います。

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参加者全員で記念撮影