2016年度 活動レポート 第311号:総合地球環境学研究所

2016年度活動レポート(一般公募コース)第311号

最先端の樹木年輪分析手法を体系的に学ぶ

総合地球環境学研究所からの報告

さくらサイエンスプログラムの支援を受け、2017年2月6〜19日の日程で、中国・蘭州大学や韓国・忠北大学、台湾・成功大学から、学生・ポスドク計6名を総合地球環境学研究に招へいし、最先端の樹木年輪分析手法の体系的な習得を目指して研修を実施しました。

招へいした学生・ポスドクが所属する各国の研究室では、複数のスタッフを擁して、樹木の年輪を利用した気候復元研究に取り組んでいるため、サンプルの取り扱いや年輪幅の測定など、基礎的な知識や技術が参加者間で共有されています。

今回の研修は、次の2点を期待して実施しました。

①その素地を活用しつつ、酸素同位体比という、全く異なる分析手法を体得することによって、より包括的な古気候研究を進めるための礎になること
②複数国の学生やポスドクが実験・分析を通して交流することにより、日本・中国・韓国・台湾間での共同研究が活性化すること

プログラムの初日は、樹木年輪の酸素同位体比にもとづく過去数百〜数千年間の気候変動解析の概要を解説するセミナーを開き、参加者に新しい分析手法の学問的な潜在力を紹介しました。

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セミナーで討論している参加者

次いで、実験室や分析装置を見学しながら、2日目以降の作業内容について説明しました。

受入機関となった総合地球環境学研究所では、過去10年間にわたる研究手法の改良によって、短時間で大量のサンプルを精度良く測定出来る体制を整えてきました。

その過程で作成した分析マニュアルを使いながら、実際に参加者が自ら手を動かし、サンプルの加工やセルロースの抽出といった実験をプログラムの2〜5日目に実施しました。

写真2
セルロース抽出実験の解説

今回のプログラムで分析する年輪サンプルは、招へいした学生・ポスドクが自国で採取したものです。したがって、プログラムを通じて分析手法を習得できるだけでなく、得られたデータを使って、参加者が最新の成果を公表することも可能となります。

セルロースを抽出した試料から、1年輪毎の酸素同位体比を測定するためのサンプルを作成する作業を、プログラムの6〜9日目に実施しました。

写真3
セルロース抽出のため、薄板にした年輪サンプルを専用の容器に封入する作業

具体的には、実体顕微鏡を用いて、セルロース試料を観察し、精密ナイフを用いて年層毎にサンプルを切り分けたうえで、ミクロ天秤を用いて年輪サンプルを秤量し、それを銀箔に封入する作業です。

写真4
実体顕微鏡を使って板状のセルロース試料から年輪サンプルを切り分ける作業

プログラムの10〜11日目に、前処理の済んだ年輪サンプルを同位体比質量分析計に導入して酸素同位体比を計測しました。その後、得られた測定データを較正する方法や、最終的なデータから古気候情報を抽出する方法の概要について参加者に解説しました。

写真5
同位体比質量分析計の概要と操作方法について解説

なお、今回の滞在で測り切れなかったサンプルについては、帰国後にそれぞれの研究室で作業を進め、前処理の済んだサンプルを総合地球環境学研究所に送付して、データを取得していくことにしました。

プログラムの最終日には、さくらサイエンスプログラムの修了式を執り行いました。

参加した学生・ポスドクは、プログラムの全期間にわたって熱心に作業を進めたため、本手法の全容を掌握することができました。

今回のプログラムをきっかけとして、今後は、本技術の他研究者への継承を通じて、年輪研究の先進国であるアメリカやヨーロッパと伍して研究が進められる環境を、東アジア各地で整備していきたいと思います。

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修了証を手にした参加者