2016年度 活動レポート 第284号:九州工業大学大学院生命体工学研究科

2016年度活動レポート(一般公募コース)第284号

カーロボ連携大学院「ミニロボ製作総合実習」における共同研究活動

九州工業大学大学院生命体工学研究科 我妻広明さんからの報告

さくらサイエンスプログラムにより、インド工科大学カンプール校から学生7 名(博士課程3名、修士課程3名、学部生1名)が2016年12月8日から12月28日まで九州工業大学大学院生命体工学研究科に滞在し、知能ロボット研究開発の現場に参加し、実習及び共同研究活動、研究成果発表会を行いました。

九州工業大学大学院生命体工学研究科が所在する北九州学術研究都市(学研都市)は複合キャンパスであり、北九州市立大学、早稲田大学を含む国・公・私の工学系3大学院が連携し、北部九州の基幹産業である自動車産業及び先進技術である産業用・サービスロボット産業におけるリーダーシップを発揮する人材の育成プログラムとして、連携大学院インテリジェントカー・ロボティクスコース(カーロボ連携大学院)が運営されています。

そのプログラムの一環として海外短期滞在生のための特別プログラムが企画されました。

九州工業大学大学院では、脳型知能創発システム(我妻)研究室に在籍する博士前期(修士)課程、博士後期課程の大学院生(インドからの留学生を含む)が、脳・身体・社会の3つの要素から得られた理論をロボット工学や身体支援システム設計に応用する研究を行っており、彼らが補佐する研修・研究支援体制において、本特別プログラムが実施されました。

本年は、事前に参加者との綿密な研究計画の相談から始まり、研究室でも要素技術に留まっていた「BMI・ミニロボット設計」の総合課題に取り組むこととなりました。

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多脚ロボット機構設計・製作の経過

BMIとは、脳信号を読み取り、機械との情報伝達を行うブレイン・マシン・インタフェースの略称で、身体や脳の一部の機能不全のために障がいを持つ人に対して、その人が何をしたいかの意図を読み取り、ロボット機器がその人の身体に代わって動作支援するという最新の研究開発です。

写真2
第一週に行われた脳信号についての基礎講義の様子。参加者が積極的に質問し、どのような信号特性があるのかについて議論している。

つまり脳信号、計測、ロボット制御など、複合技術の集大成であり、3週間ですべて完成することは容易ではありません。

そのため、第1週では、脳信号解析班とロボット設計班の2班に分れ、各要素技術について、講義・演習を行い、第2週から、両班要素技術の達成目標の見直しと総合討論を行い、ロボット設計や脳信号計測予備実験を始め、最終週で総合的な研究成果の達成へとプログラムが進められました。

写真3
機械設計・3D CADソフトウェアInventorを用いて、ロボット身体の一部を設計する様子。

その結果、脳信号解析班では、リアルタイムの周波数解析までは実現しなかったものの、既に計測済みの脳信号については処理システムが完成し、デモ実演まで可能となりました。

写真4
計測予備実験の様子。脳信号増幅器 g.USBampで計測精度の確認。

ロボット設計班では、ROS(ロボット・オペレーティングシステム)と脳信号を受信するArduinoマイコン回路を組み合わせて、ロボットが脳信号をリアルタイム受信して動作するシステム開発が完成しました。

参加者は、工学系やデザイン系の学生で、十分な基礎知識はあったものの、数理的な理論基盤から、実機製作を通して現実の有効性検証を行う融合研究に参加するのは初めてのことです。

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脳・身体・社会の3つの要素から得られた理論をロボット工学に応用する方法論を、脳地図を描きながら理解している様子。

本特別プログラムを通して、日本の科学技術の先端的・学際的な研究に触れ、その具体的方法論を学ぶ研究活動ができ、これまで体験したことのない有意義で刺激的な体験となったと感想が得られました。

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参加者らが、計測された脳信号の分析結果について自主的に議論し、最終課題達成に向けて問題分析と解決を模索している様子。

最終的な研究成果の発表会では、参加者がそれぞれ独自性のある提案で総合課題を実現した成果が得られ、同大学院生命体工学研究科教員、並びに大学院生らと活発な議論が展開されました。

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最終発表会で、ROS+Arduino+EEGの統合システムを完成させ、計測された脳波を用いて、ロボットを動かすデモ実演をしている様子。

また、それらの成果は高く評価され、さくらサイエンスプログラム修了証に加え、カーロボ連携大学院より特別修了証も付与されました。

研究活動の合間となった週末には、科学、環境、歴史、日本文化について研修を行いました。

世界文化遺産登録となった「明治日本の近代化産業遺産―九州・山口と関連地域」の一つである、旧官営八幡製鐵所関連施設、北九州イノベーションギャラリーにおいては、日本の戦前・戦後の産業技術等に関する展示・体験施設に触れ、日本の産業技術発展の歴史を学びました。

北九州市立いのちのたび博物館(北九州市立自然史・歴史博物館)では、世界最大級の恐竜標本を展示し、地球誕生から現代に至るまでの自然と人間の歩みを展示・解説しています。

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北九州市立いのちのたび博物館において、日本の地形の成り立ちや生物進化の歴史を、恐竜に組み込まれたロボット技術のデモ実演を含め、体感しました。

国内有数の自然史・歴史博物館に驚き、ロボット技術(恐竜の動作再現)が博物館においても先端技術として活用されている事例を体感することができました。

北九州市環境ミュージアムでは、北九州市が戦後復興を支える工業地帯の一つとして多大な貢献をした一方で環境破壊など様々な問題に直面し、社会運動、技術革新により公害克服した歴史を知り、熟考しました。

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北九州市環境ミュージアムにおいて、戦後復興期、工場排出ガスによって空気汚染が進み、市内の小学校で公害に苦しむ子供の姿を、英語音声ガイドつきジオラマで学習。

その後、皿倉山登頂において、北九州市全景を見渡しながら海も空も澄んでいる様子を見学し、当時は環境汚染によってスモッグで覆われた空や真っ黒になった海は今やそこになく、環境問題を克服し、その環境技術を世界中に提供している成果を実感し、参加者全員が感慨を覚えていました。

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皿倉山登頂において、北九州市全景を見渡し、環境問題を克服した様子を実感。

また、北九州市に本社を置き、ロボット開発・製造において世界的に知られる(株) 安川電機が、100周年事業として2015年にオープンしたロボット村も訪れました。

これまでのロボット開発の歴史を探訪する「安川電機歴史館」、実際のロボット生産工場を見学する「ロボット工場」そして、最新の企業研究成果とその未来を紹介する「安川電機みらい館」を次々と体験し、日本企業のロボット開発・製造の現場に感銘を受けていました。

また、参加者らは北部インド出身のベジタリアン(菜食主義者)も多く、3週間のプログラム期間中は、本学在学の留学生と協力し、食事当番を順番に担当し、インドー日本の交流の現状、そして、日本でどのように留学生が研究活動を行い、生活しているかを話し合いながら、生活体験し、心に刻みました。

最後に参加者から、「日本が精緻な科学技術で目覚ましい進歩をし続けている理由が、仕事に誇りを持ち、ルールを守り、互いの価値を認め合い育む文化であることを知ったことは大きな意味があった」と、謝辞を受け取りました。

アンケートにおいても、非常に有意義であったという多くの感想を得て、このようなプログラムを実施する機会を与えてくださった、さくらサイエンスプログラムにこの場を借りて心から感謝の意を表します。