2016年度活動レポート(一般公募コース)第214号
過疎化・過密化の進む現代社会と地盤災害について学ぶ
横浜国立大学 小長井一男さんからの報告
香港では、1883年に気象台ができて以来最悪の土砂災害とされる1972年「六一八雨災」が人々の記憶に鮮明に残ります。都市と傾斜地が接近する状況は横浜でも深刻で、15度以上の傾斜地の人口密集地域(DID)面積は4700haを超え、これは我が国最大です。
また関東地震による山岳地斜面崩壊個所は、神奈川県を中心に131に達し、被害戸数556戸、死者は1,077人以上という悲惨な結果となっていますが、この状況は2008年の四川大地震を経験した四川省が現実に直面している課題にも通じます。
このような背景から、さくらサイエンスプログラムでは、地盤災害を課題に据え、香港理工大学および四川大学に設けられた香港理工大学災害復興管理学院のそれぞれから5名ずつ、計10名の学生、および引率教員1名を招へいし、11月7日にワークショップを開催、翌日11月8日には国土交通省日光砂防事務所の全面的な協力をいただき、砂防事務所管内の砂防施設の現地見学を行いました。
11月7日は、オリエンテーションおよびキャンパスツアーの後、午後からワークショップ「都市の複合災害対応の最前線-地盤災害の側面から-」に参加しました。
第一部では都市と土砂災害、その軽減への対策について、第二部では複合災害軽減への戦略と危機管理について講演を聞き、質問や意見交換を行いました。
翌11月8日には日光に向かい、砂防見学実地研修を行いました。
大谷川の支流稲荷川は、女峰山・赤薙山の山腹から崩れ落ちた大量の土砂が流出し、大きな災害を引き起こしていました。見学の対象となった「稲荷川流域の砂防堰堤群」は、明治30年(1897)の砂防法の制定を受け、全国に先駆け整備された大規模施設群です。
近世土木史においても貴重な資産であり、7基の国登録有形文化財を含むというばかりでなく、また今後も延々とその整備が進められていくものです。
目もくらむような高所につりさげられた形で作業を行う無人機械の操作、広大な国立公園の圧倒される景観の中でいくつかの堰堤が擬岩など目立たない形で造られていることも、新鮮で驚きに満ちたものであり、引率の周錦添教授や学生たちの質問は途切れることがありませんでした。
研修最終日には、各自が研修で学んだことなどをまとめて研修発表会を行いました。それぞれが興味深い発表を行い、時間が足りなくなってしまうほど質問や意見が交わされ、白熱した議論が展開されました。
発表会後には修了式を行い、一人ずつ修了証書を受け取りました。両大学および本学がこれからもますます研究交流を深めていくことを誓い、全研修を修了しました。