2016年度活動レポート(一般公募コース)第206号
砂漠化進行地域における持続可能な環境保全のための日中共同研究
九州大学大学院理学研究院 鹿島薫さんからの報告
2016年10月23日から11月1日まで、日中友好会館、富士山麓、千葉大学および九州大学で開催された砂漠化防止技術に関する「砂漠化進行地域における持続可能な環境保全のための日本中国共同研究教育プログラム」研修内容を紹介します。送り出し機関は、中国新疆ウイグル自治区の新疆大学で、引率教員1名と学生10名を受け入れました。
(1) 準備
2015年7月に実施した砂漠化防止技術に関する研修終了直後から、2016年度開催のための準備を始めました。そして、研修コースの設定、千葉大学、立正大学および産総研への協力要請、さらに東京における宿泊施設と研修会場提供を日中友好会館に依頼しました。
これらの手配・予約は、2016年度研修事業の採択結果通知よりも以前に済ませておりました。無理を承知での協力依頼と施設予約でしたが、これを受け入れてくださった関係諸機関には感謝をいたします。
さらに、参加学生に対する事前研修と事後研修を充実させることを図りました。具体的には、新疆大学からの参加学生選抜を速やかに行ってもらいました。そして、2016年5月に鹿島が新疆大学に渡航し、全参加学生の面談を行い、さらに事前講習会を実施しました。
学生は全員が初めての海外渡航であり、日本への渡航に関して夢と不安を抱えておりました。
また、その中の数人は将来日本への留学を積極的に考えていることがわかりました。その結果を踏まえ、九州大学への留学経験のある引率教員と一緒に、研修プログラムの詳細を検討しました。
その概要は以下の通りです。
① 日程プログラムに余裕を持たせ、日本国内の移動についても無理がないように配慮する。また期間中に体調不良者出た場合の対応についても、事前に準備しておく。
② 参加学生の半数がイスラム教徒であることから、食事の手配に特に注意を行う。イスラム食のレストランのほか、多種の食材が用意されているスーパーを事前に調べておくなどの対応を行う。
③ 新疆ウイグル自治区からの留学生との面談の時間を設ける。具体的には千葉大学に留学中の2名の大学院生に依頼し、日本への留学のための留意点、準備すべきことなどについての情報交換ができるようにする。
結果として、期間中に体調不良となり病院などの受診が必要となったもの、日々の食事に不自由したものもおらず、皆元気で日本での10日間を過ごしました。また、事故などで中止・変更を余儀なくされた予定・行事もありませんでした。
(2) 日中友好会館、富士山麓、千葉大学における研修
10月23日夜から28日朝までは、東京・飯田橋駅に立地する日中友好会館に宿泊しました。23日夜に羽田空港に到着した後、24日と25日は日中友好会館会議室での講習、26日は富士山麓における野外見学、27日は千葉大学環境リモートセンシング研究センター施設見学を行いました。
室内における講習に加えて、野外における見学、実験観測機材の見学を加えたことが、今回の研究実施に関しての工夫点でした。
日中友好会館は交通の便がよく、宿舎や会議施設も整っておりました。講義は英語で行いましたが、スライドの表記に注意し、学生全員が無理なく理解できるように工夫しました。
富士山ろくの野外見学は、富士山周辺の湖と湧水地見学を主眼とし、立正大学と産総研の協力のもと、研修を実施しました。当日は天候が極めてよく、富士山の全景を堪能することができたなど、参加した学生に大きな印象を与えました。
千葉大学環境リモートセンシング研究センターは、リモートセンシングを用いた乾燥地域の環境モニタリングに関して、最先端の研究を行っています。また、新疆ウイグル自治区からの留学生を多く受け入れてきた実績があり、参加学生も留学生との面談から将来の留学計画について、多くの知見を得ることができました。
(3) 九州大学における研修
10月28日午後から10月31日までは、九州大学において研修を実施しました。新疆大学からの引率教員が九州大学への留学経験があること、九州大学においては砂漠化防止に関わる研究教育に全学的な取り組みがあることから、研修はスムーズに行われました。
九州大学箱崎キャンパス、および伊都キャンパス(新キャンパス)において、研修を実施しました。昨年までの研修内容に加えて、今回、九州大学学生との合同授業を企画しました。
これは、九州大学理学部の選択実験科目に新疆大学からの学生が参加するものでしたが、日本人学生と中国からの学生が1名ずつ班を作り、藻類を指標とした環境計測に関する実験を行いました。
もちろん日本人学生にとっても初めての経験でしたが、日中の学生は、簡単な英語と漢字による筆談で、驚くほどスムーズにお互いの意思疎通ができることを、双方の学生が実感することができました。
(4) 事後研修と今後の計画立案
今回プログラムでは、参加学生に対する事後研修も実施しました。具体的には、11月に鹿島が新疆大学に渡航し、参加学生との合同セミナーを実施しました。
それ以前に、学生は独自に報告会を新疆大学内で実施しており、その様子も聞くことができました。参加者全員が病気やトラブルなしに、10日間の日本での研修に満足できたことを実感することができました。
また、日本への渡航滞在についての学生自身の障壁がなくなったこと、日本人とは漢字を用いると驚くほど容易に意思疎通ができることを知ったことなど、今後の国際交流にとって大きな成果が得られたことを実感することができました。
新疆大学においては、担当学部長、および大学学長との面談も行いました。今回の学生受け入れについては、極めて丁寧な謝意が両名から述べられました。
そして、参加学生の勉学と国際交流意識にとって、目に見える形で、よい影響が得られているという意見が述べられました。
そして、2017年度も継続的な研修をぜひ実施してほしいという希望が寄せられました。
今回の研修は、その準備に1年以上をかけており、九州大学内外の多くの方にご協力をいただきました。その結果、研修はスムーズに、しかも目立ったトラブルもなく遂行することができました。そして、青少年の国際交流の推進という点について、特に大きな成果が得られたと確信しています。