2016年度活動レポート(一般公募コース)第160号
核融合プラズマ生成のためのNBI加熱装置研究開発
核融合科学研究所助教 池田勝則さんからの報告
2016年11月7日から11月13日の7日間、中国安徽省合肥市にある中国科学院等離子体物理研究所から、若手研究者3名、大学院生1名がさくらサイエンスプログラムの支援を受けて来日し、自然科学研究機構核融合科学研究所において中性粒子ビーム加熱装置研究開発に関する日中交流プログラムを実施しました。
中国語の「等離子体」とは、日本語ではプラズマのことを指します。等離子体物理研究所および核融合科学研究所は、磁場閉じ込め型プラズマ核融合の研究を行っており、以前から密接な交流を進めております。
筆者はプラズマ加熱分野を担当しており、高速の水素中性粒子を使って磁場で閉じ込めたプラズマを1億度の温度まで加熱する研究(中性粒子入射加熱:NBI)を行っています。
今回の招へい者は、等離子体物理研究所のトカマク装置(EAST)用のNBI加熱装置開発研究グループにおいて、第一線で活躍する優秀な若手研究者たちです。
本プログラムでは、NBI加熱装置に関して互いの理解・交流を促進するとともに、今後の共同研究・研究協力への端緒とすることを目的として実施しました。
また、将来の総合研究大学院大学の大学院生や、ポスドクとして招へいの可能性も含めて、当研究所の研究実施体制などの紹介にも注力しました。
招へい者は11月7日に中部国際空港に到着したのち、核融合科学研究所まで移動しました。当日は、筆者が受け入れ手続きおよび研究所の宿泊施設へのチェックインを行ったのち、日本での生活に対する簡単なガイダンスを実施しました。
プログラム内容としては、まず若手のリーダーであるXie博士から、等離子体物理研究所のNBI加熱装置、および研究開発活動の概要について講演してもらいました。
つづいて、筆者からNBI加熱装置の長時間運転における問題点と、開発項目について問題提起を行い、イオン源ならびにビームラインにおける熱負荷の分散や、ビーム収束の最適化などについて全員でディスカッションを行いました。
さらに、筆者から核融合科学研究所の大型ヘリカル装置(LHD)、ならびにNBI装置の概要、およびテストスタンドにおける水素負イオン源の最近の研究成果について、講演を行いました。
核融合科学研究所のNBI装置では、水素負イオンを用いて180keVの高速ビームを生成しています。
現在、国際熱核融合炉(ITER)用のNBIとして欧州でRFタイプの水素負イオン源が開発中であり、本研究所が実用化したアーク型水素負イオン源は、核融合プラズマ加熱分野の先駆的な存在になっています。
招へい者からは水素負イオンの生成やビームの収束に対して、多くの質問が寄せられました。
次に招へい者個々の研究テーマについて、2件(「EASTのNBIにおける高圧電源の伝送」「イオン源のリアルタイムコントロールシステムの構築」)を発表する機会を設け、その課題について当研究所の研究スタッフと共に議論をしました。
若手研究者の研究の質、および議論に対する貪欲な姿勢は、当研究所のスタッフも大変感心しました。
また、当研究所のLHD装置、ならびにNBIテストスタンドの見学を行っています。LHDは世界最大のヘリカル型プラズマ閉じ込め装置で、プラズマの直径が約8mのねじれたドーナツ状をしており、プラズマの体積は約30m3です。
当研究所の長壁教授からLHDの説明と、見学のための入域ガイダンスを受けました。
管理区域の実験室に入室すると、巨大なLHD装置がそそり立つように鎮座しているため、その巨大な迫力に圧倒されていました。
同様にNBI加熱装置も巨大でNBI用の負イオン源について、活発な質問と議論が行われました。
本プログラムの最後に科学技術体験として、名古屋市科学館の見学を実施しました。
見学当日は筆者が案内を務めました。名古屋市科学館では、直径35mのプラネタリウムを見学し、技術が生み出した満天の星空を鑑賞しました。
また大型展示として、高さ9m人工竜巻発生装置では、プラズマの不安定性と似た現象が起きるため目の前でうねる竜巻の挙動に、興味をそそられていました。
また元素の重さを体感できる常設展示では、イオン源に使われる素材(銅、鉄、モリブデン、タングステン等)を直接比較することができ、招へい者共々、たいへん有意義な体験をすることができました。
招へい者は11月13日に中部国際空港から飛び立ち、無事に帰国したと報告を受けております。