2016年度活動レポート(一般公募コース)第101号
災害医学と産業保健の接点を探る日中交流
産業医科大学からの報告
産業医科大学は、平成28年11月6日~12日の7日間、中国の山東省医学科学院より大学院生9名、引率者1名の計10名を受け入れました。本事業で同学院の学生らを受け入れたのは今回で2回目です。
世界で唯一、働く人の健康を守る産業保健を推進している産業医科大学は、東日本大震災時の原子力事故に際して、対応にあたる原発労働者等の健康と安全確保のため、専門的人材の派遣を含む組織的対応、国際シンポジウム開催等を行い、現在も支援活動を続けています。
また、熊本地震の際には、災害医療チームを派遣し、重大災害時の医療対応の仕組みに関する国際標準作り等の面で、貢献しています。一方、山東省医学科学院は、中国で産業保健をはじめとする保健医療分野の専門家を養成しています。
山東省をはじめ中国は、近年、大規模地震等の自然災害に見舞われた他、原発も立地していることから、災害医学と産業保健の接点を探る意義があると考えています。今回のプログラムでは、本学において重大災害の産業保健について蓄積した知見や技術を、山東省医学科学院の若い院生らに講義や実習を通じて伝え、共同的に考えを深めるねらいがありました。
初日、福岡空港に元気に降り立った一行を国際交流センター長らが出迎え、宿泊先である大学のゲストハウスにて簡単なオリエンテーションを行いました。
翌日、本学学長の歓迎の挨拶の後、様々なプログラムがスタートしました。学内では、廣教授による精神保健学、盛武准教授による放射線健康医学、久保講師による公衆衛生学の講義が実施されました。いずれも日本国内で発生した災害時に実施した貢献、協力に基づく講義で、熱心に聞き入る院生達の積極的な姿勢が印象的でした。
また一行は、本学が毎年実施している国際遠隔講義にも参加し、国立台湾大学、コンケン大学(タイ)、ブルネイ大学、アテネオデマニラ大学(フィリピン)の大学院生らと、インターネット回線を通じた意見交換も行いました。さらに、引率教員であるFuhui Li准教授および学生1名の側から、本学の外国人留学生を含む関係者に対し、山東省医学科学院の紹介を行う時間を設けたため、双方向での交流が出来ました。
学外では、まず、救急救命九州研修所を訪れ、郡山教授から救急医学、産業医学両方の視点で見た救急医療(搬送)システムに関する講義等を受けました。中国と日本、および諸外国の制度の違いを比較する内容等について、一行は興味深く聞いている様子でした。
また、熊本大学医学部附属病院では、本年4月の熊本地震時の救急対応等の経験に基づく、貴重なお話を谷口先生より伺いました。実際に地震で破損した大学内の設備や、耐震、免震構造も見せていただきました。
国立水俣病総合研究センターの訪問では、先生方に水俣病の歴史や現状についてご紹介いただきました。ロボットを活用したリハビリテーション等斬新な内容で、招へい者だけではなく私ども引率者にも勉強になりました。
その他、本学留学生との交流会や北九州市内文化施設の視察も行いました。特に本学に在籍中の中国人研究者や大学院生との間では、日本での生活や研究内容について、話が弾んでいる様子でした。
小倉城とその庭園では、天気にも恵まれたことから、招へい者は多くの写真を撮っていました。TOTOミュージアムや いのちのたび博物館でも、様々な側面から日本文化に触れ、日本への理解、興味がより一層深まった様子でした。
7日間という交流機会は短いですが、ご支援のお陰で中身の濃いプログラムを実施することができ、参加者一人一人が日本への理解を深めるきっかけにできたのではないかと思います。今後はさらに大学同士の継続的、実質的な協力関係の構築につなげることを目指しております。
最後に、さくらサイエンスプログラムの皆様に厚く御礼申し上げます。