2016年度活動レポート(一般公募コース)第52号
ベトナム国立自然博物館の研究者との共同研究
熊本大学大学院先端科学研究部からの報告
本プログラムでは,熊本県の天草地域で現世やオストラコーダという化石を採取し,ベトナム産の試料と比較することや、微生物や微化石の研究手法をベトナム人研究者に紹介することを活動の目的としました。
今回来日したのはベトナム国立自然博物館の研究員4名で、2016年9月12日~24日の13日間の日程でプログラムを実施しました。
ベトナムで準備した主な研究試料は,南部ベトナムのフーコック島西海岸の泥質堆積物と北部ベトナムのハーザン省で採取した下部デボン系の石灰岩および泥岩試料でした。
日本側の試料は,上天草市前島の沿岸で採取した泥質堆積物と松島町や龍ヶ岳町に分布する上部白亜系姫浦層群や古第三系赤崎層から採取した泥岩で(写真1),現世試料については予察的な比較研究を目的とし,化石試料については,オストラコーダの採集・抽出・研究手法と保管方法などを学ぶためのサンプルとして準備を進めました(写真2-5)。底質堆積物は,サンプラー(ソリネット)を用いて採取し,その後,篩などを用いてオストラコーダを分別し,オーブンで乾燥させた後に実体顕微鏡や電子顕微鏡で観察を行いました。
ベトナムの試料からは,Cytherura kianomikadoi,Paratanella pulchra,Tanella gracilis, Loxoconcha lilljeborgii, Loxoconcha malayensis, Neomonoceratina iniqua, Stigmatocythere cf. indica, Venericythere papuensis, Cytherella sangiranensisなどの東南アジア(ボルネオ,インドネシア,インドシナ半島)に特徴的な種が産出しました(図1)。上天草市前島の沿岸からは,日本の他の地域でも見られる典型的な干潟および内湾の種が産出しました。一方で,Aurila cymba, Bicornucythere bisanensis, Coquimba ishizakii, Loxoconcha ocellata,Loxoconcha uranouchiensis, Pistocythereis bradyformis, Pistocythereis bradyi, Pontocythere miurensis, Pontocythere subjaponicaなど,日本とベトナムおよび南中国の沿岸で共通する複数の種が確認されました。このように,地理的な分布がやや広い種が確認された一方で,多くの種は,ベトナムあるいは日本の固有種である可能性が高く、今後,汎世界的な温暖化が続けばベトナムの固有種が北上し,日本沿岸に移入・分散することが考えられます。