2016年度 活動レポート 第7号:京都大学東南アジア研究所

2016年度活動レポート(一般公募コース)第7号

学術情報基盤に関するアジア途上国への継続的支援

京都大学東南アジア研究所からの報告

京都大学東南アジア研究所は、80年代半ばから東南アジア諸国の図書館情報学研究者・図書館員を年2回6ヶ月間招へいしています。2014年度からはJSTさくらサイエンスプログラムを活用し、「東南アジア地域における学術情報基盤環境の構築・整備支援」をテーマとした短期研修を始めました。これは、東南アジア諸国の図書館員・図書館情報学研究者を毎回10名、10日間招へいし、当研究所内図書室・情報処理室・地図室が一体となって構築している学術情報基盤スキームの研修と、国内の各連携先機関における専門テーマに係る視察・実習を組み合わせたプログラムとしています。

これまでの招聘者は平均年齢が30歳代で、業務に習熟し、かつステップアップを狙う世代が主体であり、本事業がOJT研修となっています。招へい側・受入れ側とも毎回複数機関が参加・協力するため、過去の招へい者がもたらした情報により、東南アジアから視察申し込みや日本側受入れ機関から東南アジア側機関視察申し込みなど、プログラム終了後についても参加機関間の交流が継続しています。また、図書館という女性が多く活躍する場がメインであるため、女性の専門職・研究職が多く参加しています。本事業開始以来、東南アジア研究所の招へい研究員図書室枠公募への応募数が約10倍に増えています。

今年度は6月にミャンマーのヤンゴン大学・ヤンゴン東部大学・イエジン農業大学・ヤダナボン大学の4機関から、図書館員4名・図書館情報学研究者6名の全10名を招へいしました。

研修日程前半(6月13日~17日)は、京都大学、立命館大学、国立国会図書館関西館、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)情報学研究所において行われました。京都大学では、東南アジア研究所内図書室・情報処理室・地図室、また学内の附属図書館、北部キャンパスの理学部中央図書室、生物科学図書室で研修をおこないました。また、国会図書館関西館、立命館大学平井嘉一郎記念図書館のほか、NICTユニバーサルコミュニケーション研究所を視察しました。

戦前ミャンマーの航空写真・地図をウィリアム・ハントコレクションと外邦図で実見(東南アジア研究所)
水野広祐教授と共にアウンサンスーチー記念ルームを見学(東南アジア研究所)

iPadで「東南アジア逐次刊行物データベース」を操作(東南アジア研究所)
NACSIS-CAT総合目録データベースやIRDBについて受講(国立情報学研究所)

日程後半(6月17日~22日)は、東京・千葉の東京外国語大学・国立情報学研究所・アジア経済研究所図書館が研修受入れ先となり、招へい側各機関がそれぞれの機関としての特徴に応じて、日本における学術情報基盤環境の全体像と将来的展望、ビルマ資料コレクションなど多様な研修内容を展開しました。

日本におけるビルマ語資料と多言語OPAC開発」について受講(東京外国語大学)

研修に対する反応では、おおむねインフラ建設途上にある同国事情が色濃く反映したと言えます。同国図書館における直近課題である施設整備、図書館業務については関心が集まり、附属図書館のラーニングコモンズ、関西館の自走書庫、立命館大学の新図書館など図書館施設の運用や、京都大学北部キャンパス各図書室における貴重資料修復例や資料管理システムなど日常業務について、活発な質疑応答が交わされました。

自走式書庫による本の出納を実見(国立国会図書館関西館)
図書館の日常業務についてヒアリング(京都大学理学部中央図書室)

講習を担当した附属図書館館員の方々と記念撮影(京都大学附属図書館)

一方で、国立情報学研究所が行っている大規模な情報基盤環境やNICTユニバーサルコミュニケーション研究所・東京外国語大学のICT環境におけるビルマ文字搭載の最先端技術については、提供される日本側技術情報と自国内状況とを比較しながら熱心に理解に努めていた。また、東南アジア研究所、国会図書館関西館、東京外国語大学、アジア経済研究所図書館と、日本国内に所蔵されているビルマ関係資料の蓄積量に感銘を受けたようでした。

「ビルマ語搭載多言語自動翻訳技術開発とその運用」について受講(国立研究開発法人情報通信研究機構ユニバーサルコミュニケーション研究所)

JSTさくらサイエンスプログラムを活用した本プロジェクトは、今回で4回目、東南アジア研究所による招へい者も含めた参加者は延べ50名となりました。東南アジアの経済発展途上にある国々において、学術情報基盤環境構築は切実な克服すべき課題であり、日本側に熱い期待が向けられています。その期待に応えるべく、今後研修テキスト作成など継続的な支援方法を検討していく必要があると感じています。

成果報告会を終えて、東南アジア担当サブジェクトライブラリアンと記念撮影(アジア経済研究所図書館)