2016年度 活動レポート 第4号:東海大学情報理工学部

2016年度活動レポート(一般公募コース)第4号

さくらサイエンスプログラムによる学生ジョイントワークショップ

東海大学情報理工学部情報科学科教授 高雄元晴さんからの報告

<はじめに>
報告者は、2013年にタイ王国バンコク市で行われた照明工学分野の国際会議である第7回Lux Pacificaに、参加しました。本国際会議は、King Mongkut’s University of Technology, Thonburi(モンクット王工業大学トンブリ校:KMUTT)の教員が中心となって企画・組織されており、ここで多くの教職員や学生と知己を得ることができました。その中で、同大学の教員と研究と教育の両面にわたって連携できることを確認し、国際共同研究体体制を構築することで合意しました。その後、複数回にわたってお互いの研究室を相互訪問することを通じて、共同研究を実施してきました。

KMUTTは、Timesの大学ランキングで世界ランク376位に位置する、非常に優秀な理工系専門国立大学です。(The World University Rankings 2014-2015)。また同大学は理工系国際大学を目指していることから、講義の半分は英語で行われるとともに、英語のみで卒業が可能です。そのため、欧米を中心に多くの留学生を有しており、学内はインターナショナルな雰囲気に満ちています。タイ人学生の質が非常に高いとともに、卒業生もタイ国内において強い技術系ネットワークを構築していることが知られており、(株)東芝をはじめてとして、日系大手企業に多くの技術系幹部を輩出していることから、日本との縁も深くなっています。

2014年度、KMUTTから招へい教授就任の依頼が報告者にあり、休暇期間中に2回に分けて渡泰し、人体生理学と視覚の感性工学に関する講義と実習を大学院生および学部生を対象に行いました。この際、同大学の教員と今後の教育面でも連携していく可能性について議論しました。そして、東海大学情報理工学部の学生とKMUTTの建築デザイン学部の学生とのジョイントワークショップを行うことを企画しようということでまとまりました。

タイの人間工学研究およびユーザビリティ評価において、心理学的手法を用いた主観評価や行動評価が主体であり、脳波や心電図のような生理学的指標を交えた、より実証的な手法はまだほとんど導入されていません。ジョイントワークショップは技術移転の目的も兼ねて、脳波の記録とその評価法、そしてユーザビリティ評価への応用について、講義と実習を交えて行うとともに、両大学の学生がお互い最大限語り合い、議論し、主体的にワークショップを構築できるようなものを考え、第1回のジョイントワークショップを2015年8月に6日間にわたって東海大学において行いました。

<第2回ジョイントワークショップの実施>
第1回ジョイントワークショップが、両国の学生たちから大変好評だったため、翌2016年の8月に第2回ジョイントワークショップを実施することにしました。実施にあたって、2016年3月に科学技術振興機構(JST)の公募プロジェクト「さくらサイエンスプログラム」に報告者がKMUTTと相談の上応募し、4月に採択の通知を受けました。

写真1
学生たちによるディスカッション風景

同プランの要求条件に則り、KMUTTに成績優秀かつ日本への渡航暦のない学生および引率教員の紹介を求めたところ、10名の学生(うち大学院生3名;専攻の内訳は、デザイン専攻8名、コンピュータサイエンス1名、機械工学1名であった)および1名の引率教員の推薦がありました。なお、学生のうち1名はKMUTTの修士課程に在籍する中国人留学生合ったでした。中国から日本への渡航へはビザが必要ですが、JSTから在バンコク日本大使館への事前に登録した上で申請することになっており、通常のビザ申請手続きに比べやや複雑でした。彼はかなり不安になっており、何度も報告者に問い合わせがありました。しかし、JSTのスタッフの方々のご尽力によりスムーズにビザが発給され、彼から感謝の言葉が寄せられました。

第2回ジョイントワークショップは、第1回と同様6日間にわたって行れました。第1日目は、KMUTTからの引率教員が「太陽光に対する不快グレアの研究」というタイトルで、報告者が「脳波の測定と神経生理学」というタイトルでそれぞれ講義を行うとともに、本学工学研究科情報理工学専攻の学生2名が、それぞれの研究を紹介しました。その後、学生たちは報告者の研究室で脳波記録実験設備や産学連携研究の成果を見学するとともに、説明を受けました。本学学生の参加人数は、本人の事情により毎日人数は異なっていましたが、おおむね7名でした。

第2日目は、本学付設博物館において本学の歴史、展示されている無装荷ケーブル等の通信機器や、古代エジプト遺物に関する説明を報告者が行いました。その後、報告者が顧問を勤める学生プログラミングサークルのメンバー4人が、バーチャルリアリティー技術の原理説明と体験会を行い、大変好評でした。

写真2
バーチャルリアリティの説明
写真3
バーチャルリアリティの体験風景

第3日目は、研究テーマの策定と実験準備を行いました。第1回ジョイントワークショップでは、報告者とKMUTTの教員2名とであらかじめ研究テーマと実験計画を決めた上で、これらを学生に行わせました。今回はそれらをすべて学生たち自身に任せました。すなわち、それぞれの学生に事前に創意工夫のもと、自分たちで研究計画を立案させ発表させました。その後、教員が関与することなく、学生たちだけで議論させ、報告者のアドバイスのもと、最終的に一つの案に絞り込ませました。実験準備に関しては、報告者の研究室で脳波実験を行っている学生が中心となって、両大学の学生たちが共同して準備にあたりました。

第4日目に、事前に立てた実験計画に基づいて実験を実施しました。研究テーマは、「液晶画面の色の作業集中度への影響」でした。時間の制約上、一つのテーマしか実験を行えなかったのですが、翌日に行うグループごとの成果発表でバラエティを出すために、事前に簡単な性格判定テスト(KMUTTの学生が提案したもので、科学的には妥当性が低いものであったが、教育上敢えて否定せず、実施を許可しました)および出身国(日本、タイ、中国)でカウンターバランスをとって被験者を決定しました。作業集中度の評価は、脳波をスペクトル解析することによって計測される、Fmθを指標にして定量評価しました。

写真4
脳波実験風景
写真5
脳波実験風景2

第5日目は、17名の学生が3グループにわかれて、データを見る着眼点を変えることによって、様々な研究テーマを提案させました。そしてそのテーマに基づいて、グループごとに実験結果を解析し、最終発表させました。最終発表には、本学の教員1名、職員1名、非常勤講師1名、学部生1名にオブザーバとして参加していただき、質問やコメントをいただきました。そして、その後、JSTから発行された「さくらサイエンスプログラム修了書証書」を参加者全員に報告者が授与し、すべてのワークショップを終えました。

写真6
グループディスカッション風景
写真7
グループディスカッション風景2

写真8
修了証書授与風景

第6日目は箱根方面に出かけ、参加学生の関心と専門性の点から、ガラスの森美術館および箱根寄木細工からくり博物館の見学を行いました。学生たちは、西洋と日本の工芸技術の繊細さに一様に驚き、今後の彼らの学びに対して大いに影響を受けたとの声が多々聞かれました。

写真9
寄木細工製作体験
写真10
寄木製作体験風景2

写真11
ガラス細工製作体験風景
写真12
ガラス細工製作体験風景2