特別寄稿 第43号
「地域発展と科学技術」をテーマとした交流
執筆者プロフィール
- [氏名]:
- 加島 潤
- [所属・役職]:
- 横浜国立大学国際社会科学研究院准教授
プログラム | |
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1日目 | 羽田空港に到着 |
2日目 | 横浜国立大学訪問、レセプション&オリエンテーション 学部学生との英語討論会1 |
3日目 | 神奈川県政策局・県西地域活性化担当者による特別講義 国際社会科学研究院・伊集守直准教授による特別講義 |
4日目 | 都市イノベーション研究院・張晴原教授による特別講義、施設見学 |
5日目 | 学部学生との英語討論会2、歓迎パーティー |
6日目 | 神奈川県南足柄市での地域発展への取り組みに関する視察 |
7日目 | 学部学生との交流、東京都内文化施設訪問 |
8日目 | 羽田空港より帰国 |
相互交流で軌道に乗る
横浜国立大学では、平成28年1月18日から1月25日にかけて、さくらサイエンスプログラムの科学技術交流活動コースにより、中国・北京師範大学資源学院(College of Resources Science and Technology, Beijing Normal University)から学部学生10名、引率教員2名を招聘した。資源学院とは、日本ではあまり耳慣れない学部・学科名であるが、1997年に同大学内に成立した資源科学研究所を前身とし(2003年に現在の名称に変更)、主に自然地理や生態環境、資源マネジメントなどを扱う文理融合型の研究・教育機関である。
この招聘プログラムの特徴は、本学経済学部が平成24年度以降継続的に実施してきた北京師範大学資源学院との学部学生相互交流プログラムをベースとし、本学の自然科学系を含む研究機関(都市イノベーション研究院)と連携して実施する点である。「相互交流」とは、学部学生同士の相互訪問を含むもので、北京師範大学学生の招聘に先立ち、平成27年9月に本学学生9名が北京師範大学に1週間程度滞在し、交流を行った。つまり今回の招聘は、北京での「アウェイ戦」に対する「ホーム戦」という位置づけであり、学生同士はすでに気心が知れている状態での受け入れであった。
英語討論で盛り上がる
プログラムの内容としては、(1)本学教員による特別講義、(2)関連する施設等でのフィールドワーク、(3)本学学生との英語でのテーマ・ディスカッションを中心とする相互交流という3つの要素を組み合わせて行われた。そして、これらの3つの要素をつなげあわせる軸として、「地域発展と科学技術」をテーマとして設定した。科学技術を有効に活用して地域経済をいかに発展させるかという課題は、日本では高度経済成長以降に継続的に取り組まれてきたが、送出し国である中国においては日本以上に地域間格差が深刻である。その意味で、中国の次代を担う学部学生が、日本の関連分野における先進的な科学技術に触れ、また日本人学生と直接ディスカッションしつつ地域発展に対する理解を深めることは、非常に意義深いと考えられる。
実際にプログラムで来日した北京師範大学学生からは、一様に満足の声が聞かれた。とりわけ最も盛り上がったのは、やはりメインである学部学生同士の英語での討論会であった。討論会では、双方の学生が事前に準備した40₋50分程度のプレゼンテーションを行い、テーマについての日本・中国の現状と課題、それに対する解決策を提示した後、1~2時間におよぶディスカッションを行った。このプレゼンテーションの準備過程で双方の学生がテーマに関する理解を深めたことにより、交流はより意義あるものになったと思われる。また、6日目の南足柄市での視察では、通常の観光旅行ではなかなか訪れることのない日本の非都市地域の現状とそこでの地域発展に向けた取り組みを実見することができ、大変好評であった。
これまで築いたノウハウを生かす
このプログラムを通じて、受け入れ機関が得たものとしては、やはり本学の学生が刺激を受けたことが最も大きい。これは外国の学生と専門的なテーマについて討論するというアカデミックな部分だけにとどまらず、ホストとして外国からの訪問者をどのように「おもてなし」をするかという課題に取り組んだことは、実践的な国際交流の能力のトレーニングという意味で学生にとって大変貴重な経験になったと思われる。
今後の展望としては、すでに述べたように、本プログラムは本学が継続的に行っている学生交流活動の延長上に位置づけられるものであり、これまで築いてきたノウハウを活かしつつ、より満足度の高いプログラムとして維持していくことが目標である。また、本学で取り組んでいる日本の学生の現地訪問と組み合わせた形での招聘プログラムの実施というスタイルは、事前準備のコストはかかる。しかし長期的な交流を通じて送り先国学生の日本への関心を高めるのみならず、日本の学生の国際コミュニケーション能力の向上という面での効果も期待でき、有益であることを強調したい。