特別寄稿 第42号
「発想」を促すためのワークショップを運営
執筆者プロフィール
- [氏名]:
- 西尾 浩一
- [所属・役職]:
- 福井工業大学環境情報学部 デザイン学科 教授
プログラム | |||
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1日目 | 午前 | 到着 | |
午後 | 福井の技術と産業(講義)、学生交流 | ||
2日目 | 午前 | 福井めがね工業株式会社見学 | |
午後 | 越前漆会館、山口工芸本社見学 | ||
3日目 | 午前 | 松文産業株式会社見学 | |
午後 | 勝山市街地見学 | ||
4日目 | 午前 | 越前陶芸村見学 | |
午後 | 和紙の里紙の文化博物館、杉原商店見学 | ||
5日目 | 午前 | ワークショップ | |
午後 | ワークショップ | ||
6日目 | 午前 | ワークショップ | |
午後 | 成果発表 | ||
7日目 | 午前 | 日本科学未来館見学 | |
午後 | 帰国 |
送り出し国・機関
タイ王国ネーション大学(ネーション大学)の大学生5名(内女子学生3名)と研究生1名の構成でした。ネーション大学はタイメディアグループ「ザ・ネーション社」が主導的に運営しており、ランパーン校(ランパーン県)、バンナ校(バンコク)経営学、行政学、コミュニケーションアート、国際ビジネス、文芸、経理会計、法哲学、公衆衛生学、科学技術コース、科学コース等を有します。
プログラムの概要
平成25年10月5日より11日までの7日間にかけて実施し、ネーション大学から選抜された6名と本学から選抜された6名が参加しました。「生業」や「商い」につながる地域の技は、世界へ展開する高度な技術、産業の礎となっていることを両校学生に体験的に学んでほしいとの願いから、ネーション大学と福井工業大学学生は、「共に学び、発想する」ことを重点に、科学技術、伝統技法、地域産業について講義と見学ツアーに臨みました。
学んだことを共有し教え合いながら「科学技術・伝統技術を活用した産業イノベーション」をテーマにアイデアをまとめてゆくワークショップを実施しました。連日見学の後は、ミーティングを行い1日の成果を共有しました。
プログラムの成果と受け入れ機関の効果
国外大学から学生が訪問してくれるという貴重な機会を頂きました。そこで、この機会を相乗的に活かすために日本人学生との交流を通し、単なる見学会として終わるのではなく、両校学生が得たものを共有し、お互いの視点の共通点と相違点を話し合い、そこから発生する「発想」を促すためのワークショップ運営を目指しました。
否応無しのディスカッションではありましたが、自然と学生間の交流が生まれ、さくらサイエンスプログラム終了後も盛んにフェイスブックを通して情報の交換が続いております。日本人学生のための教育についても大変意義ある機会となったことを実感いたしました。
将来の課題と展望
ワークショップと講義の内容を組み立てる段階で、「サイエンスの概念」について受入側がどのように捉えるべきかを大変慎重に考えることになりました。科学から技術、そして産業へと身を結ぶ「ものづくり」の基盤的サイエンスとは実は「伝統」の中に存在するものでもあります。
それは「福井」という地が生業の中で会得してきたプロセスの中に捉えることのできるもので、論理的な方法論では語れないものであるのかもしれません。サイエンスを自然科学・先端技術についての「知識」として与えるのではなく、暮らしと生業の中に古くから在る知的活動の結集と解釈し「体験することで学ぶ」というプログラムのあり方を模索し試行した取り組みでした。少しハードな日程でしたが学生たちは非常に活きいきとした時間を共有し活動してくれました。
振り返ると、ミーティング後の食事や、何気ない近所の散歩の時間が学生たちには大変重要であったようにも思います。私たちが気に留めない普段の生活活動や空間の中に、ワークショッププログラムという設計された時間の中にはない大きな興味と共に活動したことによる人と人の共感が生まれるのかもしれません。ネーション大学との交流の「基礎」を今回のさくらサイエンスプログラムによって固めることができました。次回ワークショップについては、ネーション大学において開催の計画を進めてまいります。