特別寄稿 第40号
エコ農業に踏み出す中国寧夏回族自治区の人々
執筆者プロフィール
- [氏名]:
- 八島 継男
- [所属・役職]:
- 一般社団法人国際善隣協会顧問
プログラム | |
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1日目 | 羽田空港到着 |
2日目 | 千葉県農業研究センター訪問(鎌取)(講義・見学) |
3日目 | 農業環境技術研究所(筑波市)(講義・見学) |
4日目 | 東京農工大学農学府(府中市)(講義) 武蔵野クリーンセンター(府中市)(見学) |
5日目 | 太平洋セメント中央研究所(佐倉市)(講義・見学) |
6日目 | TEPIA(見学)、デンカ(講義) 国際善隣協会(交流会) |
7日目 | 帰国 |
寧夏自治区の農業環境
寧夏自治区は中國の西北部に位置し、気候的には乾燥から半乾燥地域に属する。しかし、幸いなことに主要な乾燥地域には黄河の本流が貫通し、北半分の水を賄っている。中央部から南に下がったところでは400mm/年、さらに下がるとそれが600mmとなる。したがって真ん中から北部にかけて降水量が200mm/年と非常に少ないので、黄河からの自然流下による部分とそこから南の中間地域では揚水灌漑による農業である。こうした状況下では窒素肥料の過剰投与による窒素汚染や重金属汚染の影響は極めて重い意味を持つ。
送り出し機関と参加者の特色
今回の送り出し機関は寧夏回族自治区対外科学技術交流センターという同自治区の科学技術に関する援助の受け入れ、発展途上国への援助の実施、諸外国との科学技術交流、研修生の送り出し、専門家の受け入れ等その業務は多岐に亘る。
今回の訪日者は農林科学院農業資源環境研究所、農林科学院荒漠化研究所等から研究員、寧夏大学教師、同大学院生、寧夏職業技術学院の教師が中心であった。その人達の訪日研修の統一テーマは「農地の汚染防除」というものである、しかし、日本における農地の汚染問題は主として重金属なかでもカドミウム汚染除去である。ここで当初この関心の違いに不安を感じたが、寧夏の工場跡地の農地にも同じ問題がることを知り、安堵した。実際いずれの訪問先においても熱心に講義を聴き、活発に質問をし、研修に活力を与えた。
大学や研究機関を訪問して研修
今回の訪日期間は平成28年6月12日から18日の7日間であった。訪日に先だって、先方に参加者の関心の所在に確認したところ統一テーマとして「農地の汚染防除」ということになり、上記の通り日本では現在は重金属のカドミウ汚染除去が中心となっており、中国側の主として求める肥料の過剰投与による「窒素汚染」とは距離があるように見えるが、日本もかっては風評被害としてダイオキシン汚染の洗礼を持ち、現在は少し角度は違うが、原発事故以降は放射能汚染が大きな問題となっている。
こうした汚染に対し、国レベルの研究機関、地方自治体レベルの研究機関、大学レベルの研究機関さらに民間企業の研究機関においてどのような取り組みをしているのかを見るために、これらの研究機関を訪問した。まず、千葉県農業技術研究センター土壌研究室では土壌中の「重金属モニタリング調査手法」の解説があった。ついで筑波の農業環境技術研究所ではダイオキシン汚染除去のため、代替作物としてウリ科の植物を採用し、低吸収性品種として、接ぎ木における台木と穂木の選択、土壌中への活性炭の散布による汚染除去等の対策を示した。
大学では東京農工大学を訪問し、「ヘアリベーチ後の田植えの方法」(ヘアリベーチはマメ科の植物で大気中の窒素を固定化し、エコ肥料とし、化成肥料による窒素の使用を控える)。この方法は寧夏側の問題意識に最もマッチしたようである。次いで民間企業の分野では太平洋セメント(株)及び「デンカ」を訪問した。前者は科学的洗浄法による水田のカドミウム汚染除去の実用化技術を開発した。これはさきに紹介した国の農業環境技術研究所とこの分野で共同研究をしており、当初両者でカドミウム汚染対策の紹介でバテイングする危惧が出たのでそれを避けるため、農業環境技術研究所の方にはダイオキシン対策を担当してもらった。
「デンカ」は日本有数の肥料メーカであり、ここでは窒素肥料施用による環境汚染対策の講義を受けた。こうした多様な現場を視察し、活発な質疑と交流がなされた。TEPIAでは日本の最先端技術の展示があって、驚きとともに毎日農業攻めに会っていた彼らには良い息抜きとなったようである。
今回の訪日の効果及び将来への展望
寧夏からの参加者は今回各研究機関、大学を訪問し、得たものは大きいものがあったと高い評価を示していた。もちろん短時日の視察研修であり、時間的制約もあり、季節的にも1月という時期であり、屋外の実験施設を十分見られなかったことは残念であった。
しかし今回の訪日を通じて、参加者は日本ではカドミウム汚染対策、窒素肥料の弊害対策にしても様々な対策を探求する状況を目の当たりにし、日本の科学研究の層の厚さを実感じたようだった。そうした多様な対策のうち寧夏で適用できるものを選択し、或いは今回の体験から新たに自身で対策を生み出し、寧夏の農業の健全な発展に寄与することが望まれる。