2015年度 活動レポート 第37号:高知大学農学部 市栄智明 准教授

特別寄稿 第37号

タイ・ベトナム・マレーシアの学生が高知の環境や農林水産業技術について学ぶ

執筆者プロフィール

[氏名]:
市栄 智明
[所属・役職]:
高知大学農学部准教授
 
プログラム
1日目 到着、オリエンテーション、歓迎会
2日目 学長・理事面談、企業訪問
3日目 高知県農業技術センター見学、高知県立牧野植物園見学
4日目 特別講義受講、農業技術実習
5日目 刃物工場見学、龍河洞見学、製菓工場見学、学内研究施設見学
6日目 室戸ジオパーク見学
7日目 日曜市見学、市内見学
8日目 林業技術実習
9日目 特別講義受講、報告会、送別会
10日目 東京へ移動、日本科学未来館見学、帰国
 

プログラム概要

高知大学農学部では、四国・高知の温暖な気候や恵まれた自然環境を活用し、フィールドサイエンスに特化した教育・研究プログラムを通じて、アジア地域で今後予想される環境・食料問題を解決できるリーダーの養成を目指しています。昨年度に引き続き、今年度もさくらサイエンス交流事業の一環として、タイ、ベトナム、マレーシアの大学間協定校4大学から11名を招聘し、我が国の最先端の科学技術や持続可能な農林水産業の取組み、自然資源の利用・管理技術を紹介・体験する実習を行うプログラムを実施しました。全てのプログラムには、常に農学部国際支援学コースの学生が同行し、安全確保などの補助的役割を務めるとともに、アジアの学生たちとの交流を深めました。

プログラムの前半は、高知県内の企業・研究所等の施設見学を中心に実習を行いました。高知県立牧野植物園では、日本の植物学の父と言われる牧野富太郎博士の業績や、標本作成などに関する説明を受けました。牧野博士のフィールド研究への心構えに、参加学生たちは皆感銘を受けていました。また、特別講義として、東京海洋大学海洋科学部・教授の有元貴文先生の、持続的な漁業を目指した定置網の技術移転による漁村振興に関する講演を受講しました。講演後の質疑応答では多数の質問があり、伝統的かつ技術革新を続けながら確立された漁法とその海外での応用事例に、高い関心を持った様子でした。

プログラムの中盤は、工場や施設見学に加え、招聘学生が実際に体験するプログラムを組み込んで実習を行いました。高知大学農学部南国フィールド(農場)では、ハウス栽培技術を見学するとともに、ミカンの収穫や餅つきを体験しました。また、国指定史蹟天然記念物の鍾乳洞である龍河洞の体験ツアーに参加し、自然の造形を保護しながら観光に生かす様子を体感しました。土佐刃物や高知の製菓会社の工場等では、最新の機械による効率的な製造と、人間による最終的な仕上げや品質管理の過程の重要性について学習しました。室戸世界ジオパークでは、展示施設で室戸のユニークな地形の成りたちを理解したのち、白亜紀から現在に至るまでに地球が動いた痕跡が残る海岸線を散策しました。あいにくの雨の中での見学になりましたが、黒潮を臨む壮大な景観に参加学生は皆驚きの声を上げていました。

プログラムの後半は、高知の中山間地の実情や地域活性化の取組みを踏まえた実習を中心としました。300年以上の歴史を持つ高知の日曜市を見学し、買い物を楽しむだけでなく、出店者の高齢化や客足の減少などの課題を知り、日曜市の活性化に取り組む高知大学の学生の活動を見学しました。また、高知大学農学部嶺北フィールド(演習林)では、林業を中心とした中山間地の実情や、森林の管理技術に関する説明を受けた後、最先端の林業機械の操縦、及び重要な林業作業の1つである枝打ちを体験しました。最初は慣れない山の斜面や梯子での作業に戸惑っていた参加学生たちも、すぐに慣れて枝打ち作業を楽しんでいる様子でした。

高知での実習最終日には、高知大学名誉教授・諸岡慶昇先生による、技術移転や緑の革命の功罪に関する講演を受講しました。その後、参加者と高知大学生が合同でプログラム全体を総括する報告会を行ない、参加学生が実習で学んだことや、日本と参加国間の文化の違いなどについて議論しました。その日の夜に行われた送別会では、国境を越えて学生同士で夜中まで語り合い親睦を深めました。最後は涙ぐんでいる学生も多く見られました。翌日の日本滞在最終日は、早朝から東京へ移動して日本科学未来館を訪問しました。最先端の科学技術を体験できる様々な展示に、参加者は興味津々で取り組んでいました。

今回学生を招聘した3ヶ国4大学とは、高知大学の大学間協定校として以前から教育・研究両面での連携を図ってきましたが、今回のプログラムの実施は更なる連携強固につながるものと期待しています。プログラムに参加した学生たちも皆大きな刺激を受けたようで、プログラム終了後のアンケートにおいても高い評価を得られました。今後はさらに多くの国、大学に連携を呼びかけ、充実したプログラムを実施していくとともに、フィールドサイエンスを通じた様々な共同研究プロジェクトへの展開も積極的に進めていきたいと考えています。

活動の様1

ミカンの収穫体験

活動の様2

牧野植物園で標本作成の説明を受けている様子

活動の様3
枝打ち作業に取り組む参加者
活動の様4

報告会の様子

活動の様5

日本科学未来館の見学