2015年度 活動レポート 第35号:ノートルダム清心学園清心女子高等学校 田中福人 教諭

特別寄稿 第35号

日本とマレーシアで考える、地球温暖化防止における森林の役割

執筆者プロフィール

[氏名]:
田中 福人
[所属・役職]:
ノートルダム清心学園清心女子高等学校教諭
 
プログラム
1日目 到着。ホテルにてオリエンテーション
2日目 鳥取大学フィールドサイエンスセンター(岡山県真庭市蒜山)での実習
蒜山の自然、野生生物、生物多様性についての講義
3日目 鳥取大学フィールドサイエンスセンターでの実習
樹木識別実習、林業体験、樹木観測用ジャングルジムから植生の観察、ツリークライミング
4日目 鳥取大学フィールドサイエンスセンターでの実習
森林調査活動(樹種、樹高、樹齢を測定し、測定データを用いて森林の二酸化炭素吸収量を推定する)
5日目 鳥取大学フィールドサイエンスセンターでの実習
火入れ地跡地の植生の観察。鳥取大学農学部の大学生による研究紹介
6日目 鳥取大学フィールドサイエンスセンターでの実習
実習のまとめ
倉敷に移動
7日目 倉敷市立自然史博物館、倉敷科学センター見学
8日目 関西空港にてお別れ
 
活動の様1

森林観測用ジャングルジム

活動の様2

樹高・樹齢測定

活動の様3
火入れ地散策

プログラムの概要及び効果

本プログラムでは、マレーシアの女子学生を招へいし、森林生態についての専門的な講義・実習を含んだ研修を本校生徒と共に行うことを通して、①互いの協力関係を築くこと、②森林生態系の保全及び地球温暖化問題についての共通認識を高めること、③将来を担う女性研究者を育成することの3点を目的とした。

送り出し機関のマレーシア・トゥン・フセインオン大学は、現在16,000人の学生(ディプロマ、学士、修士、博士課程)が在籍しており、土木環境学部、科学技術人材開発学部など、計8つの学部から成り立っている。今回招へいした学生及び大学院生は、生物多様性、保全学科の学士コースに所属していることに加え、マレーシアの豊富な自然環境を活かした環境教育プログラムを受けており、環境保全意識の特に高い集団であった。

本プログラムの大きな特徴は、地球全体で解決すべき地球温暖化問題について、科学的な手法を持って考察するための専門的な研究方法を、マレーシアの女子学生に習得してもらうことであった。そのために鳥取大学附属フィールドサイエンスセンター(FSC)を利用し、同大学教授から直接、森林生態における専門的な講義や、現地での調査活動のレクチャーを受ける機会を設定した。研修中に得られたデータは、地球温暖化の主たる原因となっている二酸化炭素の、森林による吸収量を算出するのに用いられた。科学的な根拠に基づいて、森林生態系の保全が地球温暖化の抑止にいかに大切であるかを考察することが出来た。自身の体験を通して得られた知見は、招へい者の地球環境保全に対する将来的な意識にも大きく影響するだろう。蒜山での研修終了後、岡山(倉敷)に戻ってからは、倉敷市立自然史博物館や倉敷科学センターを訪問し、岡山県を中心とした豊富な化石、動植物の展示標本を見たり、体験的に楽しく科学を学ぶ機会を設定した。

招へい者のプログラムに対する感想としては、FSCでの実習内容、特にフィールドワークが充実していたという声を多数頂いた。自分達が普段暮らしている亜熱帯域の自然環境と比べ、日本の森林内の動植物は異なる点も多く、それらが特に印象的だったようである。研修の半ばで、森林観察用のジャングルジムから見渡した温帯域の森林の相観は、彼女らの目に強く焼きついたことだろう。また、異なる点だけでなく、共通点も理解することで、同じアジア国民ひいては地球市民の一員としての意識も高まったようである。

今回参加した学生は学部の1年生から大学院生まで幅広かった。ゆえに、大学1年生にとっては、連日のフィールドワークは刺激的であり、ハードであったが、大学院生にとっては少し物足りないといった声も寄せられた。また、本校の生徒だけでなく、連携した鳥取大学の学生とも、もっと触れ合いたかったようである。これらについては、研修内容及び招へいする学生の設定について、もっと入念に協議すべきであったし、研修日程をもっと長くし、交流する機会を増やすことで改善できると考える。

下のグラフは、本校生徒のマレーシアの学生に対する印象についてである。1班の人数を6~7人にし、本校生徒とマレーシアの学生が同数になるように構成した。研修前は会話ができるか心配した生徒もいたが、実習だけでなく食事や掃除などの生活全般の活動も共同で行うことで、互いに協力し打ち解けることができたと思われる。また、グラフに乗せた項目以外の「勤勉である」「想像力が豊かである」「親切である」なども、実習前に比べ実習後は肯定的な意見が増えており、研修全体を通して印象が大きく変わったことが分かる。また、本プログラムの遂行にあたり、本校の多くの教員が様々な形で関わった。プログラムが円滑に進むよう、直接、学生達とコミュニケーションを取るだけでなく、歓迎会のための食事の準備、及び交流する本校生徒への指導、更には伝統文化の紹介など、それぞれが出来る形で、招へい者のために尽くそうと動いた。これらのことからも、本プログラムをきっかけとして、校内のグローバル意識が向上したことがうかがえる。

活動の様4
 

招へいした学生及び大学院生の中には、将来、環境学を専攻したいと考える学生もいる。さらに、再び日本に来て学びたいという声も寄せられた。彼女らが再び来日し、自然科学の研究者として今後更に成長することを強く願っている。