2015年度 活動レポート 第28号:大分大学医学部 内田智久 助教

特別寄稿 第28号

タイ人医師養成を目指した国際交流
内田 智久

執筆者プロフィール

[氏名]:
内田 智久
[所属・役職]:
大分大学医学部助教
 
プログラム
1日目 到着、大分へ移動。太宰府天満宮、九州国立博物館見学
2日目 医学部歓迎行事、付属病院見学、糸結び・腸管縫合体験(消化器外科講座)
3日目 大分舞鶴高校訪問 (日タイのサイエンススクールの交流)
4日目 新日鉄住金大分製鉄所見学、別府自然体験
5日目 研究室セミナー(分子病理、感染予防医学) 、本学女性研究者との交流会
6日目 国立大分高等専門学校との交流 (ミシンボランティア部との交流、タイ舞踊披露、うみたまご見学、市内中心部散策)
7日目 全体まとめ、福岡移動。夢大吊り橋、福岡タワー観光
8日目 福岡空港から帰国
 

プログラムの概要

大分大学医学部ではASEAN諸国への医療技術支援をはじめとした医療の国際化を推進すると共に、医療のグローバル化に対応すべくタイ人医師の養成を目的とした学部留学生を受け入れる準備を進めている。昨年に引き続き日本の先端的医療を見学・体験し、医学部進学・医学研究への興味を深めるとともに、将来を担う日タイの若者の交流を促進することを目的としタイの13名の高校生を受け入れるプログラムを作成した。
招聘対象者として医学部進学者が多い理系の高校生を対象とし、バンコクのマヒドンウィッタヤヌソンスクールから1名と、タイ全土に12校あるプリンセスチュラポーンスクール(PCC)から各1名とした。招聘者の人選はタイ教育省に依頼し、在タイ日本大使館担当者と共にPCCトラン校とPCCナコンシータマラート校に出向き概要について説明を行い、さくらサイエンスプログラムへの協力をお願いした。

大分大学医学部でのプログラムの特徴

プログラム作成にあたっては、学術的な面のみならず、日本文化・自然・生活習慣を体験できる内容とし、大分舞鶴高校(スーパーサイエンスハイスクール指定校)、国立大分工業高等専門学校の協力を得て、年齢が近い生徒同士の交流を盛り込んだ。
大学付属病院見学では、高度に自動化された血液検査システムや、画像診断装置を見学し、ドクターヘリを間近で見学した際には先進的な救急システムに感銘を受けていた。体験型実習として、外科手術体験を行い、手術着に着替えて現役の外科医から丁寧な指導を受け、糸結びとゴムチューブを用いての腸管縫合実習を行った。外科医になりきり、難しいながらも目を輝かせて取り組んでいる姿が印象的だった。
大分舞鶴高校での一日交流では、日タイの高校生がそれぞれの研究を英語で発表し、合同授業では分子量測定の実習を数人ずつのグループで協力しておこなった。英語でのコミュニケーションに慣れてない部分もあったが、言葉で伝わらなくても身振り手振りを駆使して意思の疎通をおこない、溌剌とした若い交流が芽生えた瞬間であった。大分舞鶴高等とPCCロッブリー校とは昨年12月に交流協定が締結された。本年から生徒の相互交流が開始され、今後の息の長い交流が期待される。
宿泊施設は、日本の生活スタイルを味わえる施設とし、畳の上で生活すること、大浴場体験、日本食など生活習慣の違いに戸惑いながらも興味を持って受け入れてくれた。

ドクターヘリ見学

外科実習

大分大学の国際交流の取り組み

大分大学はASEAN諸国との医療交流を活発におこなっているが、中でもタイをその中心と位置づけている。昨年8月には大分大学バンコクオフィスを設置しASEAN諸国での活動拠点とし、本さくらサイエンスプログラムの他、JICAとの共同事業としてタイ人医師を対象とした「応用内視鏡外科手術トレーニング」、ベトナムに医師を派遣し胃内視鏡診断・治療技術の向上事業(経済産業省との企画)等への支援をおこなっている。

また、これまでの共同研究をきっかけとして博士課程への大学院生の受け入れも進んでおり、本年からチュラロンコン大学医学部、マヒドン大学医学部との医学生の相互交流を開始する。このように大分大学とタイとの結びつきは多様かつ深化を遂げている。タイの医師のキャリアのすべての段階に大分大学が関与する取り組みは、医師の育成を持って完成され、益々発展していくものと期待される。

顕微鏡実習(右から2人目が筆者)
舞鶴高校訪問

さくらサイエンスプログラムに対する希望と期待

今回のさくらサイエンスプログラムにより、受け入れた生徒が日本に対して予想以上の好印象を持ってくれた。アンケートでは、参加者全員が「非常に満足した」と答え、日本ほど素敵な国はなく、次は是非留学生として再訪したいと答えてくれた。
さくらサイエンスプログラムは学術的な交流の端緒を作る事を目的としたプロジェクトではあるが、未来を背負うアジアの若者に対して学校で学ぶ“知識”としての日本ではなく実際に自分の目で見て触れた“体験”に基づく日本を知ってもらう事業である。これはアジア地域の平和と繁栄をもたらす人材を育てることに直結する。今回の参加者は、帰国した後もソーシャルネットワークを通して、プログラムで経験した事や日本の良さについて何度も発信してくれている。これまでの参加者がバンコクに集い同窓会を開く動きがあり、大分大学バンコクバンコクオフィスでも支援をおこなう予定である。
タイ教育省からも、本学の取り組みは非常に高い評価を頂いており、昨年12月にペッチャブリ県で開催された、日タイ高校生サイエンスフェア(TJSSF 2015)では、シリントーン王女との昼食会に招待される栄誉に浴した。さくらサイエンスプログラムのような意義あるプログラムは継続してこそより真価を発揮する。教育省からも大分大学でのさくらサイエンスプログラムの継続を切望されており、引き続き日タイ交流の架け橋として尽力していきたい。