特別寄稿 第25号
学生たちの視野が確実に広がった研修内容
松尾 直規
執筆者プロフィール
- [氏名]:
- 松尾 直規
- [所属・役職]:
- 中部大学地域・国際教育研究連携センター長
中部大学では、平成27年10月3日から10月10日の8日間、中国の同済大学浙江学院の学生10名、付添い教員3名を招聘し、環境・エネルギーの課題をテーマに科学技術交流活動を実施した。送り出し機関の同済大学浙江学院は、浙江省嘉興市に在り、国家重点大学である同済大学のバックアップで設立された私立独立学院である。本学とは、2011年12月より交流を開始し、2014年3月には学術交流協定を締結している。
活動内容 | |
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1日目 | 到着、オリエンテーション、学内見学、歓迎会 |
2日目 | トヨタ産業技術記念館、名古屋市内の市街地再開発事業の見学 |
3日目 | 工学部、応用生物学部の紹介、学長訪問、環境・エネルギー関連の研究紹介、学内研究施設見学 |
4日目 | 超伝導直流送電、スマートグリッドなどの科学技術研修、環境・エネルギー関連の諸研究室における科学技術研修 |
5日目 | 王子製紙春日井工場での廃ガス、廃液処理に関する見学、名古屋特殊鋼の工場における先進的生産工程の見学 |
6日目 | 中部電力技術研究所での環境・エネルギー技術、東邦ガスエネルギー館での省エネルギー技術の見学 |
7日目 | 大和エネルフでの廃棄物処理技術の見学、学内での研修成果発表と修了式、歓送会 |
8日目 | 帰国 |
主要な活動概要
1日目は、特徴的な学内施設を見学した後、研修プログラムのオリエンテーションと、参加者の自己紹介を行った。夕方の歓迎会には、浙江学院からの大学院留学生6名も参加し、体験談を交えて活発かつ和やかに交流した。
2日目は、トヨタ産業技術記念館を見学し、繊維産業から自動車産業がどのように発展したかを実際に稼働する展示物等から学び、先人の“ものづくり”に対する工夫や気迫を実感した。また、名古屋駅前の都市再開発における環境配慮を見聞した。
3日目は、中部大学工学部、応用生物学部の研究内容が紹介され、環境・エネルギーに関連する本学の研究教育に関する取組を学ぶとともに、日本固有の建築手法による木造家屋の建て前を、中部大学建築学科の学生と一緒に体験した。また、先端的な国際GISセンター、CAD教育施設等を見学した。
4日目は、超伝導・持続可能エネルギー研究センターでの直流超伝導ケーブルによるロスレス送電の実用化実験、学内でのスマートグリッドシステム等の見学をした。本学の大学院生による研究発表の聴取と質疑応答の後、植物プラント工場やバイオ発電実験室等を見学し活発な質疑応答が行われた。
5日目は、王子製紙春日井工場を見学し、臭気や廃水処理対策に加え、廃棄物の燃料化などにより、必要電力の80%を自家発電により確保していることを学んだ。名古屋特殊鋼株式会社の工場において、鋼材からNCデータによる加工・組付・仕上げ工程を見学し、熟練工の技術の素晴らしさを実感した。また、屋上緑化や太陽光発電に加え、デマンドコントロールの活用によるエネルギーの有効活用について見聞した。
6日目は、中部電力技術開発本部で、「安価で良質なエネルギーの安定的な供給」への取り組みに関し、ヒートポンプ試験設備、浮体式洋上風力の水理模型実験施設、住宅用環境実験棟、太陽光発電の出力把握・予測等の研究開発現場を見学した。また、東邦ガス技術開発本部技術研究所では、スマートハウス関連技術開発の状況、燃料電池車と水素ステーション整備に向けた技術開発等の取り組みを見学した。
7日目は、春日井市の大和エネルフ(株)を見学し、産業廃棄物からRPF燃料を製造・再利用するプロセス、Webカメラによる管理システムやリサイクル原材料のチェックシステムなどに対し、多くの質問が出た。午後の研修成果発表報告会では、招聘学生から中部大学における実学重視の研究教育内容や、訪問企業での環境に配慮した技術開発や運営が印象的であったこと、また、引率教職員からは参加学生たちの視野が確実に広がったこと、今後もこのような研修を継続したいことなどが述べられた。
得られた成果と今後の課題
招聘学生は、日本の産業技術と環境・エネルギーに関する最先端技術、及びそれらの技術を開発し支える大学の研究活動を見聞し、更なる学修意欲を掻き立てられたようである。帰国後に行った研修報告会を聞いて、その他6名の学生が本学大学院受験を希望しているとの報告を受けている。大学院留学については、2015年4月に送り出し機関の浙江学院から5名の留学生が本学に入学し、2016年4月にはこのプランに参加した学生の4名を含む6名が入学の予定である。今回も、本学大学院へ多数の留学希望が表明されたことは、大きな成果の一つである。また、浙江学院の教員との交流も、本学研究者との共同研究や短期の教員派遣を実施する方向で動き出している。さらに、プラン修了後に本学教員による特別授業の依頼を受け、11月21日に4名の教員が浙江学院で講義を行った。
今回のプランは授業期間中であったこともあり、本学の学生、大学院生との交流の機会が少なかったことが反省点である。今後は、さくらサイエンスプログラムの継続的な実施と反省点を踏まえたプランのさらなる充実に努めていきたい。また、工学部以外の学部でのプランの実施拡充、送り出し機関の拡充を図り、このさくらサイエンスプログラム事業を大学のさらなる国際化とそれに基づくグローバル人材の育成につなげていきたい。