特別寄稿 第18号
モンゴル科学技術大学と原子力工学の実習と研修で有意義な交流
アジアの国として共通点が多いことに気づき
泉 佳伸
執筆者プロフィール
- [氏名]:
- 泉 佳伸
- [所属・役職]:
- 福井大学附属国際原子力工学研究所教授
さくらサイエンスプログラムの日程および実施内容 | |||
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1日目 | 来日、国内移動 | ||
2日目 | 開講式、ガイダンス、特別講義、研究所内施設見学、放射線測定体験実習 | ||
3日目 | 福井県原子力環境監視センター及び関西電力美浜発電所見学、博物館見学 | ||
4日目 | 福井県立敦賀高等学校の生徒との交流、発表会、閉校式 | ||
5日目 | 国内移動、離日 |
1.プログラム概要
福井大学附属国際原子力工学研究所とモンゴル科学技術大学の交流事業として、9名の参加者に対し、2015年11月23日から11月27日まで5日間の招へいプログラムを実施した。モンゴル科学技術大学とは、本プログラムの実施に先立ってカリキュラムや人材育成等における交流を模索していたため、今回のように学部学生や大学院生、若手教員、附属高校の生徒を招へいし、特別講義や研究所施設・設備見学、あるいは周辺施設等の見学の機会を提供することは、今後の彼らの来日・留学へのモチベーションを高める効果があると考え、実施したものである。本プログラムでは原子力人材育成を主目的とし、本学学生との交流や原子力発電施設、モニタリング施設の見学等を行った。
2.交流の成果
2日目は、安濃田良成所長による歓迎の挨拶、モンゴル科学技術大学のErkhembayar Tseveen(エッケンバイヤール・ツェヴィーン)さんからの挨拶、泉による研究所の概要やスケジュール等のガイダンスの後、有田裕二副所長から「世界のエネルギー情勢と原子力の現状」と題した特別講義を実施した。その後はグループ写真撮影、研究所の主要な実験装置等を見学し、日本の大学の施設の整備状況や研究・教育環境について積極的な質問があった。
午後は、NaIシンチレーション検出器を用いていくつかの食品中の天然に存在する放射性同位元素である40Kの濃度測定を体験した。試料のセッティングやパラメータ等の入力後、得られた測定値から濃度に変換する計算、食品の種類によってカリウム濃度が異なる理由について議論を行った。また、測定時間を変えることで測定誤差が変動していくことを実感してもらった。 3日目は、敦賀市内にある福井県原子力環境監視センターを訪問し、福井県での環境放射能モニタリングの仕組み・体制、設備などの概要説明を受けた。また、同センターのデータセンターでは実際に端末を見せていただき、参加者はリアルタイムで得られる空間放射線量率のデータや気象データに見入った。
さらには、関西電力美浜原子力発電所を見学し、福島第一原子力発電所の事故後の安全性強化対策の実施状況等の説明を受け、多くの学生らにとって初めて商用原子力発電所の実物を見る機会となった。このほか、上記2施設の立地地域である敦賀市、嶺南地域の文化や歴史を学ぶため、1940年にユダヤ人の難民救出に尽力した杉原千畝の「人道の港ムゼウム」や「若狭三方縄文博物館」を見学した。
内陸国であるモンゴルの学生にとって、道中に垣間見る海の景色は初めてのことで感動していた。なお、同日には夕刻に同研究所にて懇親会を開催した。モンゴルの伝統的な民族衣装でモンゴルの歌謡、舞踊が披露され、華やかな雰囲気の中、本学学生と文化交流を深めた。
4日目の午前中は福井県立敦賀高校を訪問し、同校の英語授業に参加し、双方による文化交流を行った。お互いに慣れない英語でのコミュニケーションではあったが、同じアジアの国として共通点が多いことに気づき、後半は会話が盛り上がっていた。
この後は研究所に戻り、移動日を除く3日間のプログラムを振り返り、参加者(教員、大学院生、学部学生、高校生)がそれぞれに感想や印象、今後の抱負などを語った。この発表会には、研究所所属の教職員、日本人学生だけではなく、数か月程度の予定で滞在中の外国人研究者10名も参加し、エネルギー事情の違いや原子力導入に対する考え方など、それぞれの国ごとに事情も異なるため、活発な意見交換ができ、非常に有意義なものとなった。最後に、本プログラムの修了証を泉から一人ひとりに授与し、プログラムを締めくくった。
3.受け入れ機関の効果
公式の行事としては数名の教員が中心となって同行・対応したが、この機会に交流会を開催し、本学学生・大学院生も参加して様々な情報交換ができ、非常に良い刺激になった。また、日本に滞在中の各国の外国人研究者らとも交流の機会を持つことができたのは、関わった全ての者に良い経験になり、まさに国際的な交流として発展していく良いきっかけとなった。
4.将来の課題と展望
福井県は国内でもとりわけ交通手段が限られている地域で、特に外国からの訪問者にとっては困難が生じる場合がある。本制度を地方大学や機関にも利用しやすいものとするためには、国内移動での添乗などにも制度的にサポートが得られるようになると有難い。
また、国際交流は単発で効果が見えてくるものではない。継続的に本制度を利用してより強固な国際交流へと発展させ、やがては正規の留学生を獲得できるように努力していきたい。そのためにも、現場の教員だけではなく、大学全体としての国際化及びその制度の見直しと改良が必要である。