特別寄稿 第14号
モンゴルの大学生と環境対策の効率性評価に関する共同研究
様々な形で波及効果を期待
松本 亨
執筆者プロフィール
- [氏名]:
- 松本 亨
- [所属・役職]:
- 北九州市立大学 国際環境工学部・教授
プログラム | |
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1日目 | 来日 |
2日目 | オリエンテーション |
研究計画に関する議論 | |
3日目 | 北九州市環境局訪問(大気汚染対策レクチャー) |
北九州市環境局訪問(環境アセスメント制度レクチャー) | |
4日目 | 北九州市内の廃棄物処理業者視察 |
北九州市環境科学研究所訪問(大気汚染のモニタリング) | |
5日目 | 研究計画に関する議論 |
6日目 | 休日 |
7日目 | 休日 |
8日目 | 研究計画に関する議論 |
北九州エコタウン視察(蛍光管・自動車) | |
9日目 | 北九州市内の環境コンサルタント企業訪問(大気汚染の調査、分析業務) |
環境ミュージアム | |
10日目 | 水環境館 |
北九州エコタウン視察(廃木材・廃プラ、家電) | |
11日目 | ふりかえり研修(まとめと議論) |
研究計画の更新 | |
12日目 | ワークショップ(学内専門家を含めた議論) |
13日目 | 出国 |
1.送り出し機関の紹介
さくらサイエンスプログラム交流事業により、2014年11月10日~22日の日程でモンゴルの2大学(モンゴル科学技術大学、モンゴル生命科学大学)から6人の学生が来日した。
送り出し機関であるモンゴル科学技術大学(MUST)は、1959年に設立され、現在、土木工学、建築、地質・石油工学、コンピュータ科学・経営、数学、材料科学、機械工学、情報通信技術、社会技術、鉱山工学、工業技術・デザイン、食品工学・バイオテクノロジーの学部を有するモンゴル国内有数の総合大学である。
もう一方の送り出し機関であるモンゴル生命科学大学(MULS)は、1942年に農業大学として設立され、現在、7学部、4研究機関のほか、オルホン県、ドルノド省、ホブド県に3つのサテライトキャンパスを持つ総合大学に発展している。
2.プログラムの成果
本学部とモンゴル側2大学とは、2012年より、首都ウランバートル市の大気汚染と廃棄物問題を対象に、共同で現地調査を実施するなど、環境対策の効率性評価に関する共同研究を進めている。これまでの共同研究を通じた交流は主に教員同士に留まっていたが、今回はモンゴル側大学の学生に対して、北九州市立大学における研究紹介、共同研究に関するディスカッションのみならず、日本の中でも高い評価を得ている北九州市の環境対策に関する官民の取り組みを肌で感じてもらうことで、共同研究を遂行する上で重要となるイメージの共有を図ることを目指した。
滞在期間の前半は、日本の環境政策・対策について概略を理解してもらうことに時間を割いた。まず北九州市環境局に依頼し、日本及び北九州市における大気汚染対策や環境アセスメント制度についてレクチャーを受けた。また、北九州市環境科学研究所では、大気汚染や排水の観測技術・体制ついて視察を行った。さらに、アジア展開に熱心な市内の廃棄物の収集運搬・処理業者に依頼し、廃棄物収集・処理施設の見学及びインドネシア等で実施している事業についての説明を受けた。この業者は、訪問日に合わせて事務所玄関のウェルカムボードや、廊下、トイレ等の行き先表示や注意書きにもモンゴル語が用意されており、学生は日本の「おもてなし」文化の一端を垣間見たようである。
翌週は、環境コンサルタント企業の視察、環境学習関連施設(環境ミュージアム、水環境館)、資源リサイクル事業の集積地である北九州エコタウンの見学を行った。これらを通じて、北九州市の公害克服から現在の環境対策先進地となった経緯と、官だけでなく民の力も大きく貢献していることを理解してもらった。
また、研究交流会を開催し、3大学(モンゴル科学技術大学、モンゴル生命科学大学、北九州市立大学)から現在実施している研究の紹介を行った。モンゴルでは、博士の学位を保有していない若い講師が、研究実績を積みながら学位取得を目指していることが多いが、今回招聘した学生も半数はそのような講師で、彼らの発表はレベルの高いものであった。一方修士課程や学部の学生の発表は初々しいものであり、今回の国際的な活動への参加は大きな刺激になったようである。
13日間の滞在期間であったが、北九州市の官民の高い環境対策や実際の環境管理水準を体感できたことは、モンゴルの学生に大きなインパクトを与えたようだ。
3.受け入れ機関の効果
送り出し機関の1つであるモンゴル科学技術大学の応用科学部とは、以前から相談していた学部間学術交流協定の話が一気に進み、2015年1月末に無事締結された。また、今年の10月には文部科学省の国費外国人留学生に採用され、博士後期課程に学生が1名入学した。今後、短期・長期の学生の交換、研究者の交流等が一層進むものと期待している。
モンゴル生命科学大学とは、本年7月に先方が主催した国際会議に招待され、招待講演を行った。
なお、モンゴル生命科学大学の教授がさくらサイエンスプログラムの実施期間中に1人随行したが、彼女が兼務しているモンゴルの環境専門TV局が、さくらサイエンスプログラムの参加学生の様子、北九州市の環境対策の歴史、北九州市立大学における環境研究を取材し、番組を制作した。後日モンゴル国内で放映されたので、今後様々な形で波及効果が生まれるものと期待している。
4.将来の課題と展望
北九州市立大学では、ウランバートル市の大気汚染対策を含む、都市環境改善に関する研究を深化させているところである。研究対象を、大気汚染から廃棄物、水等に拡大することも着々と進めている。その際に両校との関係は極めて重要であり、今後さらに、教員、学生の交流を深めつつ、共同研究を進めていきたいと考えている。
なお、今回来日した6人は皆、いずれ日本に留学したいという希望を表明していた。今後1人でも多くの学生が北九州市立大学に入学するよう、奨学金獲得などの面で支援していきたい。