特別寄稿 第11号
さくらサイエンスプログラムを活用した海外の高校生との交流
大野 弘
執筆者プロフィール
- [氏名]:
- 大野 弘
- [所属・役職]:
- 東京都立戸山高校校長
都立戸山高校のスーパー・サイエンス・ハイスクール(SSH)事業
本校は平成16年度に都立高校として初めでSSHの指定を受けました。今年度は第3期の2年目にあたります。この10年間でSSH事業の中身を進化させてきましたが、昨年度に第3期の指定を受けてからは、本校のミッションである「国際社会で活躍できる人材育成」という視点から、海外の研究者にサイエンスメンターとして協力してもらうなどの国際化を推し進めてきました。
本校のSSH事業の国際化の具体的な方法は次の3つから構成されています。
まず、海外の研究者にサイエンスメンターとして協力してもらい、1年生が研究テーマを設定する段階から、国際的な視野に立った課題発見に関してアドバイスをもらえるようにするシステムの構築です。これはアメリカの大学との連携で可能にしています。
次に、研究発表の場を海外に求めるというものです。ISEFのような国際的な研究発表の場に参加することを究極の目標として、海外研修の訪問先である高校や大学において研究発表する時間帯を設けてもらっています。これは専門家ではない普通の学生たちに英語で説明をする力の育成が国際的に通用するプレゼン能力の育成につながると考えているからです。
最後に、海外の高校生との交流の規模と頻度の拡張を図ることです。この点に関しては、次の2つの課題がありました。
1つは、海外研修に参加すれば長時間の交流ができますが、参加者数が限られてしまうということ。もう1つは、姉妹校などが本校を訪問してくれた場合には、費用がかからずに本校生徒に交流する機会を提供できますが、来校してくれる先方の高校生の人数には限りがあるということです。これらの課題に直面していたときに出会ったのが「さくらサイエンスプログラム」です。
さくらサイエンスプログラムでの海外の高校生との交流
さくらサイエンスプログラムでは、100名近い海外の高校生を一時に招いてノーベル賞級の 研究者の講演を聴く際の会場や来日した学生の相手をしてくれる高校生を募集していました。本校ではSSHの全国大会にSSHクラスの生徒160名で参加していましたが、今年度は会場が大阪になった関係で160名全員が参加することができなくなりました。そのときに、前述のさくらサイエンスプログラムでの会場の募集を聞きつけ、早速申し込みました。
日程調整などを経て、全国大会のある時期に、本校に台湾とブルネイとインドネシアの生徒を迎えて、天野先生の講演を一緒に聴き、交流を持つことができることになりました。
準備として、会場の下見などをしてもらいましたが、交流の充実という視点から、来日する生徒たち70名を2名ずつのグループにし、本校生徒70名も2名ずつのグループにし、それぞれのグループを合わせて1日をともにする4人グループをつくることに力を注ぎました。
ノーベル賞受賞者として天野先生をお招きすることになり、失礼のないように準備を進めていきましたが、本校講堂での天野先生の英語でのご講演を海外の生徒たちと一緒に聴くことは本校生徒にとり、大変に貴重な経験になりました。英語の流暢さだけでなく、積極的に質問する姿勢や質問の中身の専門性の高さに大いに刺激を受けたようです。
生徒どうしは次のランチタイムになって打ち解けてきたようでした。打ち解けてしまえば言葉の壁はまったく感じないものでした。文化の違いも理解して本校の生徒たちはお弁当を持参していましたので、日本のお弁当文化を海外の生徒たちに紹介しているグループもありました。
午後は一緒に科学実験を体験してもらいました。化学は濃度の違う食塩水を2つ渡し、濃い方を3つ以上の方法であてるという実験を相談して行い、行った実験を全体にプレゼンするというものでした。物理は相談してより遠くまで飛ばせる飛行機をつくるというものでした。また生物は、校庭の土にいる生物を分類する作業をして発表し合うというもので、どれもかなりのコミュニケーション能力を必要とするものでしたが、活発に意見交換をして嬉々として実験などを行っていました。
実験での交流を経て最後はそれぞれの国や学校の紹介をしてもらいました。最初のぎこちなさは消え、海外の生徒の積極性に刺激を受け、科学実験という英語で交流しやすい場面を経て、最後にはおどけて他国の生徒たちと一緒に舞台に上る本校生徒も出てきました。
また、この閉会式の特徴は本校生徒の運営によるというものです。英語が得意というわけではありませんが、海外の生徒との交流の経験を積み重ねて来た本校生徒たちが、英語での閉会式の運営していたことは生徒たちの成長を確認できる出来事でした。
このように生徒たちが成長できたのも、さくらサイエンスプログラムなどの企画があるからに他ならないと強く感じています。最後にはわかれを惜しんで、会場のあちらこちらで交流の輪ができていました。