特別寄稿 第7号
スタディ・ツアー「アジアにおける都市再生」の実施
横浜市立大学グローバル都市協力研究センターの交流事業
藤岡 麻理子
執筆者プロフィール
- [氏名]:
- 藤岡 麻理子
- [所属・役職]:
- 横浜市立大学・グローバル都市協力研究センター特任助教
日程表 | |
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1日目 | オリエンテーション、講義:横浜の都市デザイン、日本の都市計画、学生の発表:仁川、ホーチミン、ペナンの都市計画 |
2日目 | 黄金町見学、みなとみらい地区見学 |
3日目 | 金沢シーサイドタウン、鎌倉見学、グループディスカッション |
4日目 | 六本木ヒルズ、丸の内再開発地区見学 |
5日目 | グループディスカッション、国際学生フォーラムでの成果発表、浴衣体験イベント |
6日目 | 国際シンポジウムへの参加、フェアウェルイベント |
26人の大所帯で活気あふれる1週間
横浜市立大学グローバル都市協力研究センターまちづくりユニットでは、科学技術振興機構JSTの日本・アジア青少年サイエンス交流事業「さくらサイエンスプログラム」の支援をうけて、ベトナム国家大学ホーチミン市校人文社会科学大学とマレーシア科学大学から学生を2名ずつ招聘し、「アジアにおける都市再生-持続可能な都市づくりのための技術交流-」をテーマとするスタディ・ツアーを9月7日から12日にかけて実施しました。JST招聘学生4名のほか、マレーシア科学大学からはさらに学生4名、韓国の仁川大学校都市科学大学から学生10名、本学から学生8名が参加し、総勢26名の大所帯で活気あふれる1週間となりました。
このスタディ・ツアーは、急速な発展の最中にあるアジアの都市が、過度な人口集中、環境悪化、乱開発、災害への脆弱性等さまざまな共通の課題に直面していることを背景にプログラム設計を行っています。横浜と東京の都市再生の最新事例の講義・見学を通して環境配慮技術や計画論、歴史的建造物の活用手法など日本の都市工学の一端を紹介し、その上で、アジアにおけるこれからの都市計画について、都市の持続可能性に特に焦点をあてながら、議論・発表する機会を設けました。
盛りだくさんの見聞・研修と講義
現地見学では、日本の都市計画の多様な段階と側面を自らの目で見るとともに、それぞれの地域や事業に直接関わっている本学教員や外部講師による講義をうけ、まちづくりの「生」の話を聞きました。
横浜の都市デザインの説明をうけながら歩いた関内では、歩行者空間が確保されていることによる歩きやすさ、所々に設けられているオープンスペース等に驚きをみせていました。みなとみらい、六本木ヒルズ、丸の内では、それぞれの再開発を手がけているデベロッパーから招聘した講師より、環境に配慮したエネルギーシステム、緑化、防災、エリアマネジメント、歴史的資産の保存活用等の取組みについて説明をうけました。開発志向の発展がもたらす環境負荷を懸念するアジアの学生たちの目には、学ぶべき先端的手法として映った様子でした。黄金町と金沢シーサイドタウンでは、地域再生・活性化の取組みを学び、より大きな社会的課題に対し、地域レベルでのまちづくりがいかに貢献しうるかを考える機会を得ています。特に金沢シーサイドタウンでは、少子高齢化に伴う人口減少という未だ経験していない課題にふれ、興味深く説明に耳を傾けていました。
グループディスカッション
現地見学後、5グループに分かれ、各々が環境、経済、社会、文化、防災の5つのテーマからひとつずつを担当し、担当テーマの視点から、持続可能な都市づくりについて議論を行いました。国の発展段階、経済状況、文化、災害リスク等が異なる中で、問題意識の共有に苦慮する一面もあったものの、コミュニケーションを重ね、徐々に互いの意思への理解が進んでいきました。
成果発表
本スタディ・ツアーは、本学が加盟するアジアの大学間ネットワーク組織「アカデミックコンソーシアムIACSC」の第6回総会の横浜開催に時期を合わせて実施しています。第6回IACSC総会ではプログラムの一環として国際学生フォーラムを実施しており、スタディ・ツアーの成果もその中で発表しました。横浜市開港記念会館講堂で開催された国際学生フォーラムでは、5グループ各々によるアジアにおけるこれからの都市計画についての発表のほか、ホーチミン、ペナン、仁川、横浜の都市計画とその課題についての大学別の発表も行っています。アジア諸国から参加していた教員・学生に向けて自らの意見を発表したことは貴重な経験になったと思います。
プログラムを終えて
海外の学生は皆、人と環境が配慮された日本のまちなみや都市計画に深い印象をうけたこと、また来日したいという希望を口にしていました。招聘学生の送迎、食事への付き添い等を担当した日本人学生は、多様性を身をもって体験し、「違い」を楽しんでいました。
今回のプログラムでは日本の都市計画のすぐれた面だけではなく、人口減少化にどう取り組むかといった、日本社会が抱える深刻な課題も伝えています。1週間にわたるプログラムの中で日ごとに交流を深めていった4か国の学生が、10年後、20年後も、こうした都市の課題にともに取り組む仲間であり続けてほしいと思います。
謝辞
今回のプログラムの中では、専攻を同じくする4カ国の学生が、それぞれの国の都市が抱える課題と対応策をその社会状況も含めて相互に学び合い、将来に向けた議論を行いました。現代は、同じアジアの住人として、アジア諸国が相互に学び合う現代です。
学生の学術交流は、招聘学生にとって貴重な体験となっただけではなく、本学の学生にとっても海外への関心を高め、「アジアに学ぶ」という姿勢をもつ重要な機会となりました。このような交流の機会をいただいたJSTに感謝申し上げます。
今後は、こうした短期研修を継続させるとともに、長期的プログラムと連動させていくことが受入れ側の課題であると感じています。さくらサイエンスプログラムに対しては、招聘対象国がさらにネパールやブータンなどへも広がることを期待しています。