特別寄稿 第4号
有機EL研究現場などを見学しこれから展開される多様な可能性などを学習
山形大学工学部国際連携サマープログラム2014の報告
仁科 浩美
執筆者プロフィール
- [氏名]:
- 仁科 浩美
- [所属・役職]:
- 山形大学工学部・准教授
プログラム日程 | |
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1日目 | 到着、開講式・歓迎レセプション |
2日目 | キャンパスツアー、日本語レッスン 企業見学(千代田クリーンセンター、フジクラ電装株式会社) |
3日目 | 研究紹介、日本文化体験 |
4日目 | 研究紹介、3Dプリンター研究室見学 |
5日目 | 研究紹介、有機エレクトロニクスイノベーションセンター見学 |
6日目 | 地域交流 ホームステイ |
7日目 | 地域交流 ホームステイ |
8日目 | グローバル合宿(蔵王):テーマ「環境問題と、工学を学ぶアジアの私たち」 |
9日目 | |
10日目 | 修了発表会、閉講式・昼食会 |
11日目 | 東京見学(未来科学館、スカイツリー等) |
12日目 | 帰国 |
1.プログラム概要
2014年7月28日(月)から12日間の日程(表1)で、4か国・地域7大学の学生を迎え、「山形大学工学部国際連携サマープログラム2014」を実施した。来日したのは、タイ(ラジャマンガラ工科大学タニャブリ校、モンクット王ラカバン工科大学、泰日工業大学)、マレーシア(マレーシア工科大学)、中国(哈爾浜工業大学、吉林化工大学)、台湾(台湾大学)の海外協定校からの学部2年生・3年生12名であり、本学工学部の学生15名と共に有意義な時間を過ごした。
参加者らは期間中、工学部の研究を紹介する講義をはじめとし、最先端の研究施設、環境処理施設、企業への訪問等を行った。研究施設見学では、ソフト&ウェットマター工学研究室(古川英光研究室)を訪問し、ゲルに着目した3Dプリンターについての説明を受けた。また、有機エレクトロニクス分野における先端技術の実証研究拠点である有機エレクトロニクスイノベーションセンター(INOEL)では、その技術を自分たちの目で見、研究と産業との連携等についても認識を深めた。
日程後半には、「環境問題と、工学を学ぶアジアの私たち」をテーマに、山形蔵王においてワークショップ形式の合宿を行い、各国の環境問題や一国では解決できない地球規模の問題について、その対策等を討論した。翌日には、本学の学生、関係教職員、ホストファミリーの前で、討論の結果をまとめたグループポスター発表を行った。
本プログラムは2008年より実施しているが、今回、JSTの助成を受けることにより、海外協定校の参加者らは、東京に場所を移しての研修が初めて可能となった。最終日に、日本未来科学館を訪れ、最新の科学技術に触れることができた。館内には、体験型の展示が多く、量子コンピューターの世界やゲノムについて体感しながら、学習した。また、短時間ではあるが、高層ビルが立ち並ぶ日本の首都東京の都市文化も味わうことができ、大変充実した12日間となった。
2.プログラムの成果
参加学生の専門が一様ではなかったため、研究に関する見学に際しては、視覚的に理解しやすい分野を選択した。まず、ゲルに着目した3Dプリンター研究室では、実際にプリント中の様子や、できあがった立体物に触れ、3Dプリンターの特徴を実感した。また、本学の代表的な研究である有機ELに関する研究所では、Thin, Flexible, Printableという特徴を持つ有機材料やその技術を応用した製品等を見学し、原理や今後展開される多様な可能性について説明を受けた。
参加者らの国には多くの日本企業が進出していることもあり、企業訪問への関心も高かった。訪問した自動車電装関連企業での工場見学では、「カイゼン」、「ジャストインタイム生産方式」等について説明を受けると、皆熱心にメモをとり、真剣に説明を聞いていた。中には、母国にある当該企業に就職するにはどうすればよいのかといった質問もなされた。
本プログラムに参加した学生のうち、数名はこの研修により、日本への関心も増したためか、この1年の間に再来日を果たしており、リピート率も高い。
また、来日した学生の中にはこれまであまり外国の人と触れ合ったことがない者も多かった。そのため、日本に来て初めて、日本以外の他の参加国の文化・習慣を知るという一面も見られた。複数の国の参加者から構成された本プログラムは、文化や思考の多様性を学ぶことにも有益であった。
3.受入機関としての効果
本学の学生にとってアジア諸国の学生との交流は非常に刺激を受ける点が多かったようである。その1つは、コミュニケーション力の高さである。参加者全員が英語のネイティブ話者ではなかったが、アジアの学生らは多少の間違いなど気にせず、誰もが明るく積極的に英語で話しかけていた。これは、日本人学生にとって遠慮や躊躇する気持ちを払拭する良い手本となった。実施から1年経過したが、交流はSNS等を通して現在も続いており、仲間を訪ねて海外に出かけた者もいる。また、長期の留学に挑戦する学生も現れた。友人がアジア各地にできたことで世界のニュースや世界情勢にも一層強い関心が芽生え、視野拡大の点でも効果があったと言えよう。
本受入プログラムの実施は、海外協定校との連携強化にもつながる。今秋、参加校の1つであった大学へ今度は我々が訪問する。
4.将来の課題と展望
複数国の学生が集まるプログラムは、その多様性から日本人学生のみならず参加者全体が多くのことを学ぶ利点がある。しかし、その反面、学年暦が異なるため、日本人学生と海外からの学生が一定期間、密に関わる時間をどこに設定するか、日程の設定が難しい。夏季休暇中の実施が最も望ましいが、新学期開始が8月の大学もあり、悩ましいところである。開催時期によって対象国を絞る等の試行錯誤を重ね、より良いプログラムを提供していきたいと思う。
最後に、ご支援をいただいたJSTさくらサイエンスプログラムに心より御礼申し上げます。