2015年度 活動レポート 第2号:公益社団法人・新化学技術推進協会 貞本満 部長研究員

特別寄稿 第2号

化学を通じた「実学・見学」を実現
東南アジアの人たちの国民性に触れることのできたプログラム
貞本 満

執筆者プロフィール

[氏名]:
貞本 満
[所属・役職]:
公益社団法人・新化学技術推進協会部長研究員
 

1.はじめに

さくらサイエンスプログラムを利用して2015年7月4日から12日にかけて、マレーシア、タイ、フィリピン、中国の著名大学からの大学院生および若手の教職員、総勢19名を招へい者として日本に招きました。
内訳はペトロナス工科大学3名、マレーシア科学大学4名、マレーシア・プトラ大学5名(以上、マレーシア)、チュラロンコン大学2名(タイ)、デ・ラサール大学4名(フィリピン)、南京大学1名(中国)の主に東南アジアを主とした一行です。いずれもその国の化学部門に優れた研究成果を上げている著名大学ばかりです。その上、ペトロナス工科大学とマレーシア・プトラ大学からは二人の教官(准教授と教授)も行動を共にしてくださいました。

招へいの目的は2つです。
第1は、私が所属する公益社団法人・新化学技術推進協会が主催する国際シンポジウム(第4回JACI/GSCシンポジウム 第7回GSC東京国際会議<略称:GSC-7>)にて発表者として参加してもらいGSCの考え方を理解してもらうことです。
第2は、日本の化学系の著名企業を訪問し日本の良さをより知ってもらうことでした。

2.招へい者の楽しい雰囲気を堪能

企業訪問で招へい者と行動を共にすると、さっそく彼らの雰囲気に魅了されました。一緒にいると実に楽しいのです。ともすると日本人にありがちな無理してでも人生を楽しもうという感じではなく、その自然な振る舞いが周囲の人々を自然に楽しませてしまうという雰囲気なのです。

招へい者を2グループに分け、私が引率する形でDIC株式会社に向かいました。DICの中央研究所は、佐倉市郊外の豊かな自然の中にキャンパスを備えています。その中には大きな池があり、白鳥が住み着いていました。バスの中で、swan、swanという華やいだ声が響き、彼ら彼女らのこれからの期待感を感じることが出来ました。

会社及び研究所の説明を受けましたが、説明後に招へい学生から質問が相次ぎました。製品に関する技術的な内容や海外からのDICの採用状況などが主たる内容であり、彼ら彼女らの日本企業に対する関心の高さとその積極性感じることができました。

DICを訪問したグループは、マレーシア人とフィリピン人からなるグループでしたが、夫々が自分の国のエリート層であることを意識していることは彼らの話す内容から分かりました。
そこで、卒業したらどうするのかと質問したところ、国の発展に尽くすのだと言う気持ちを持っている人がいる一方で、自国には自分たちを受け入れてくれるだけの十分な産業がなく、できれば海外企業に就職したいと考えている学生がいることを知りました。

自国への愛着と自国の現実に照らし合わせ迷っている姿があることを知らされました。彼らが持つ楽しさと積極性、そして自分に対する自信に溢れている学生たちに、日本企業にも目を向けてほしいと願わずにいられませんでした。

学生交流会での様子

質問する招へい学生

DICの研究キャンパスには、川村記念美術館という絵画を中心とする美術館がありました。シャガールやルノアールも展示している本格的なもので、英語の堪能な説明員の話を真剣に聞きいっている姿も印象的でした。
午後からは錦糸町駅で三菱化学を訪問したグループと合流し、駅近くの花王株式会社の花王ミュージアムに向かいました。三菱化学グループは、マレーシアとタイと中国からの招へい者でした。

DICの展示コーナーを見学
DIC株式会社での説明後の質疑応答の様子

花王ミュージアムもとても素晴らしい印象を招へい者に与えたようでした。これらの企業訪問行動を通じて彼ら彼女達と親しくなる中で、彼ら彼女らの口から出てくる言葉は、日本に対する賞賛の声でした。招へい者が異口同音に日本人に良くして頂いたと感謝の気持ちを口にされることに、日本人として非常に嬉しく感じるとともに、日本人を誇りに思う気持ちになりました。

3.「おもてなし」を考える

「おもてなし」という言葉が東京オリンピック招致活動を通じて盛んに言われるようになっています。もし日本独自の「おもてなし」を海外の方が感じたのであれば、その「おもてなし」は国民性に基づくものであり単なる技術や訓練だけで身につくものではないようにも思えてきます。
同時に私たちが感じた東南アジアの方々に対して感じる温かい気持ちは、これもその国々の国民が有する財産でしょう。今回の私たちが用意したプログラムの中には、国際シンポジウムの初日(7月5日)に学生交流会があり、招へい学生と日本の学生のGSCに関する意見交換の場でありました。しかし、その後何らかの親交があったとの話を聞くことができませんでした。

もし、日本の学生にもこの企業訪問に同行してもらえたならば、彼ら彼女らの明るさ楽しさと、日本人のもつ優しさ親切さを相互に交換することができたのではないかと思いました。そして、またもっと別の日本の学生と海外の学生の交流の場を用意すべきではなかったかという思いにもなりました。

招へい者同士は今回のプログラムを通じて非常に仲良くなったようでした。これまで会うことのなかった人々が行動にともにすることで、相互交流が生まれる。東南アジアの各国同士にも複雑な歴史があり、自国の領土を拡張した国の英雄は他の国からすると単なる侵略者であると断じられることもあります。

日本もかってこれらの国を戦場とした歴史があり、あまり語られることはないものの、複雑な感情を日本に対して持っている人たちも少なくはないことも事実です。今回の私たちが用意した学生交流会などのプログラムでは、相互交流を日本の学生との間に十分持てなかったのではないかと言う思いも生まれ、少し残念だった気もいたしました。

ポスター賞受賞者のMr. Supthayakul Raksit (Chulalonglon Univ.)

日本科学未来館を見学

4.持続的発展における化学の役割りを考える

今回、企業訪問では、DIC株式会社、三菱化学株式会社、花王株式会社、資生堂株式会社、JX日鉱日石エネルギー株式会社に大変にお世話になりました。
企業訪問を終えた直後の報告会では、GSCの考えが招へい者に理解してもらえたことが分かる発言がありました。国際シンポジウムの内容に触れ、国際シンポジウムのプログラム構成の全てがGSCのコンセプトを具現化するためのものであったという感想を一人の招へい学生が述べていたのです。

GSCを如何に表現し参加者に理解してもらうかが国際シンポジウムの主眼であったのですが、そのことに気づき発言してくれたことを非常に嬉しく感じました。
また同様に、招へい者から三菱化学のKAITEKI SQUARE にて触れたKAITEKIのコンセプトに深い印象を受けたことが述べられました。KAITEKIの考えは、新化学技術推進協会が進めているGSCの考え方に似ているところもあると考えておりました。

GSCは環境に優しい化学を推進することが人類の持続的な発展に繋がることをその骨子としており、「人にとっての心地よさに加えて、社会にとっての快適、地球にとっての快適」を標榜し真に持続可能な状態の実現を目指すKAITEKIとその目指すところは共通しているところがあると私は考えています。花王でも「いっしょにeco」を標榜しており、目指すところは同じ方向にあると思われます。

5.謝辞

さくらサイエンスプログラムは招へい者だけでなく、受け手である私達にも得難い経験を与えて頂きました。今後も、このプランが多くの大学・企業・そして私たちのような団体においても利用され、相互の良い感情が生まれ続けることを希望いたします。