2015年度活動レポート(一般公募コース)第265号
最先端のものづくりと大学院生の協働学習を通じた日台国際交流
九州工業大学からの報告
さくらサイエンスプログラムにより、2016年1月25日から2月3日までの日程で、国立台湾科技大学から、工業経営専攻、電子電気専攻、工業デザイン専攻の大学院生10名を招へいし、交流プログラムを実施しました。
本プログラムの目的は、北九州市を中心とした多様な企業の最先端工場の見学と、日台学生によるフォーラムや協働学習を通じて、日本の最先端の科学技術への理解を深め、アジアの未来を担う若者同士の国際交流を促進するというもので、2015年に引き続き、2回目の実施となりました。
<1日目>
九州地方は猛烈な寒波で記録的な大雪に見舞われ、交通機関が大きく乱れました。来日自体が危ぶまれましたが、台湾からの飛行機も無事に到着し、本学の飯塚キャンパスに迎えることができました。
<2日目>
ひよ子本舗吉野堂とトヨタ自動車九州の工場を訪れ、食品製造現場での厳しい衛生管理の仕組みや、自動車の製造工程や管理システムについて学びました。
ひよ子本舗吉野堂の工場では、地元飯塚発祥の「ひよ子」という商品が生まれたきっかけ(創業者が子供からお年寄りまで喜んでくれるお菓子を考えていたら、ヒヨコの形が夢に出てきた、という話)や企業理念に興味を示し、トヨタでは、作業効率と徹底した安全性の向上という、一見両立しがたいような取り組みの一端を知り、ものづくりにこめる「愛情」「真心」といったものに日本らしさを感じていたようでした。
<3日目>
新日鉄住金八幡製鉄所と、本学の戸畑キャンパスの研究室の見学を行いました。
八幡製鉄所では、日本の製鉄業が明治以降の日本の産業発展を支えた歴史などについて学んだあと、広大な敷地に広がる巨大な設備が動く様子を見たり、使用されている材料を実際に手に取るなど、学生自身の専門分野の学習ではほとんど機会がない体験ができました。
また戸畑キャンパスでは、人工衛星開発研究の現場や、環境デザイン研究室での水辺の環境保全についての研究、画像処理技術のデモンストレーションなど、本学で行われている多彩な分野の研究を見学することができました。
<4日目>
日台の学生の協働学習として、太宰府市内見学とワークショップを行いました。この日は本学の学生が帯同し、福岡の代表的な神社である太宰府天満宮を参詣し、参拝のしかたや天満宮の由来の説明、参道周辺の案内を英語で行いました。
そのあと、市民向けのデジタル工房であるファブラボ太宰府で、全世界にネットワークが広がるファブラボの取り組みについて説明を受けたのち、デジタル工作(オリジナルの名刺づくり)を体験しました。台湾の学生たちは、デザインの考案からグラフィックソフトを使用したデータの作成、素材の選択、レーザーカッターでの切り出しまでを自分で行い、完成した名刺を使用して、自己紹介と作品のプレゼンテーションを行いました。本格的なグラフィックソフトの使用経験がない学生がほとんどで、デザインのアイディア出しから苦戦している学生もいましたが、本学の同行学生の英語でのサポートを受けながら全員完成までたどり着き、自分で行うものづくりの楽しさを知ることができたようでした。
<5日目>
飯塚キャンパスの研究室見学とスチューデントフォーラムⅠを行いました。飯塚キャンパスの研究室では、自走式カプセルロボットなどのマイクロロボットの製作や、各種の金型加工装置を備えた先端金型センター、デザイン実践工房でのロボット制御などの研究現場を見学し、戸畑キャンパスとはまた異なる分野の研究に触れることができました。また各研究室では、学生が自分たちの研究について英語で説明、プレゼンテーションを行いました。
スチューデントフォーラムⅠでは、日台の学生が、各自で取り組んでいる研究についてショートプレゼンテーションとポスター発表を行いました。2015年の実施の際はポスター発表のみでしたが、今回はポスター発表の前のショートプレゼンテーションで研究の概略について説明したため、その後のポスター発表では、専門分野がまったく異なる学生同士でも互いの研究に興味を持ち、意見交換や質疑応答が充実したものになりました。
<6日目>
本学学生の案内で福岡市内を見学し、福岡ロボスクエア、櫛田神社、博多町家ふるさと館などを訪れました。福岡ロボスクエアでは、セラピーロボットなど身近にあるものでありながら高度な機能を持ったさまざまなロボットを見て、生活の中にある日本の先端技術に触れることができました。
一方、博多山笠で有名な櫛田神社ではちょうど節分祭が行われており、節分の意味や由来を学び、また博多町家ふるさと館では、博多織などの伝統工芸や町家という日本的な建築・生活様式を見学しました。
これらを連続して見学することで、先端技術に支えられた現代的な生活様式の中に、伝統的な祭事や文化が多く残っていることが印象に残ったようでした。
<8日目>
7日目にはスチューデントフォーラムⅡの準備を行い、翌日の8日目は、安川電機とTOTOの工場見学を行いました。
安川電機では、産業用ロボットの製造工程を見学し、ロボットがロボットを作る様子や、厳しい品質検査体制を見ることができました。また、新たに開館した「安川電機みらい館」では、高速で正確・繊細な動きができるロボットによるデモンストレーションを見学し、その高度な技術に驚いていました。
TOTOでは、衛生陶器の製造工程を見学したのち、企業の沿革や、洗浄機付き便座がどのようにして生まれ、普及していったかについての説明を受け、ウォシュレットがあまり普及していない台湾の状況と比較していたようでした。また、商品紹介の中で登場した携帯用の洗浄機に非常に興味を示し、機能やどこで入手できるかについて熱心に質問していました。
<9日目>
スチューデントフォーラムⅡと送別会を実施しました。
スチューデントフォーラムⅡでは、今回のプログラムで学んだことをまとめ、「来日後、日本の印象がどのように変わったか/日本で発見したこと」「訪問した工場や企業と文化施設を選択し、その概要や学んだこと」という課題で口頭発表を行いました。
前回同様、プレゼンテーションの資料を準備する時間があまりなかったにもかかわらず、うまく情報を収集・整理し、構成・デザインもすぐれた資料を作成していました。台湾科技大ではプレゼンテーション教育にも力を入れているとのことで、傍聴した本学学生にとっても、台湾科技大の学生のプレゼンテーション技術の高さが刺激になったようでした。
送別会では、さくらサイエンスプログラムの修了証とバッジの授与が行われました。見学同行や、スチューデントフォーラムに参加した学生も多数参加し、プログラムで一緒に活動する中でお互いにかなり打ち解けていたため、英語に自信がない学生も臆さずに交流を深め、別れを惜しんでいました。
2015年に引き続き本年も採択していただき、前回も好評だったさまざまなものづくりの現場や先端技術の見学、日本文化体験を取り入れたプログラム内容については、受入れ学生から満足の声と日本を再訪したいとの希望が聞かれました。
また今回は、学生同士の交流活動を増やすことを目指していたため、本学学生による見学同行や研究室見学での案内、スチューデントフォーラムへの参加者募集に力を入れたところ、参加学生が前回よりも増え、交流活動が充実したものになりました。また、これらの活動の中での学生の役割を明確にしたため、教職員からの指示なしに、学生が自主的に行動する場面が多く見られました。
本学と台湾科技大学とは、2009年の交流協定締結以降、短期相互派遣による学生交流を中心に継続的に交流を行ってきました。そのときに台湾科技大に派遣された学生を中心に本受入れ事業への参加への呼びかけを行ったところ、派遣時に歓待された恩返しの気持ちから今回の交流活動への関わり方も積極的になり、それが学生同士の親密な関係の構築につながったようでした。次回は、日台の学生が自主的に進めるような協働作業を増やし、短期でもさらに深い交流ができるようなプログラムにしていければと考えています。
最後に、本プログラム実施の機会を与えてくださった科学技術振興機構と、実施にあたり多くのご協力をいただいた企業様、関係者の皆様に心からお礼を申し上げます。