2015年度 活動レポート 第155号:九州大学

2015年度活動レポート(一般公募コース)第155号

日本・アジア6カ国によるエネルギーに関する共同研究
九州大学からの報告

九州大学

九州大学はさくらサイエンスプログラムの支援を受けて、11月15日から12月5日まで、日本とアジアの6カ国の教員・学生によるエネルギー研究国際教室(以下、本プログラム)を開催しました。

本プログラムは、九州大学の学内共同教育研究施設である、エネルギー基盤技術国際教育研究センターと炭素資源国際教育研究センターがホストとなり、タイ・マレーシア・ベトナム・インドネシア・インドの5つの教育研究機関から、合計9名の学生、教員を招聘しておこないました。参加者は3週間の間、オリエンテーション等の全体での行事のほか、ホスト研究室での先端研究への参加で多くの新しい経験を積みました。

ホストの2つの教育研究センターは、九州大学内の他のエネルギー研究センターと連携して、全学のエネルギー研究を総合的に推進する役割を担っています。本プログラムでは、日本とアジアの教員学生の相互理解を促進するための全体での行事を企画しました。

まず、1日目にオリエンテーションを行い、九州大学の紹介および各国の機関、参加者の自己紹介、実験研究のための安全講習、ホスト研究室を訪問する筑紫キャンパスツアーをおこない、相互を知る機会を作りました。

オリエンテーション
筑紫キャンパスツアー

定期的な意見交換は、本プログラムの特徴であり、参加者たちは11月26~27日に両センターが主催した国際シンポジウムに参加しましたが、その際に中間ミーティングを開催し、自分の所属機関での研究と、現在従事している研究についてのプレゼンテーションをおこない、プログラムの進捗状況を相互に確認しました。

中間ミーティング

最終日には、九州大学の伊都キャンパスツアーをおこない、とくに水素エネルギーの研究施設でのデモンストレーション実験や、燃料電池の未来等の説明を楽しみました。ツアーの最後の最終ミーティングでは、プログラムの感想や改善点等の議論を行いました。

伊都キャンパスツアー

これらの全体行事は、日本と各国の1:1の交流ではなく、6カ国が同じ場でいろんな立場からいろんな意見を述べ合うよい機会であり、プログラムの最終日には、今度はうちの大学に来ないか、とか、次はどこの学会で会えるか、というエールが交換されていました。

エネルギー研究は日本が最先端の成果を出していますが、それを各国で普及していくのは参加者たちです。単に最新成果に触れるだけでなく、折に触れて、もしこの技術を自分の国で活かすとすれば、何が欠けていて、何が必要だ、という議論が参加者相互におこなわれていたのが印象的でした。

各研究室での研究体験と日本体験

参加者たちは、1~2名に分かれて各研究室での研究体験に臨みました。教員が研究室での研究に参加したケース、学生として研究経験をしたケース、教員・学生がペアになって研究をおこなったケースがありますが、いずれも、研究室に所属する日本の学生が、研究室の教員たちの指導のもとに、具体的な実験の支援をしています。

リートベルト法によるX線回折パターンの解析

ヒートポンプ、都市のエネルギー設計、触媒、エネルギー変換素子、資源開発の研究をおこなっている6つの研究室がホストとなりましたが、日本の最先端研究に触れることで、現在従事している研究を多面的に考えたり、最先端測定機器で自分の研究に関連したサンプルを測定する等、出身国ではできない経験を積みました。

継続的な日本・アジア環境エネルギー教室の活動に向けて

九州大学は東アジアと至近距離にあり、大学として「歴史的・地理的な必然が導くアジア指向」を標榜しています。本プログラムは、九州大学の教員・学生とアジアの教育研究機関の教員・学生との先端研究を通じた交流を目的としています。プログラムの基盤としては、平成20年から24年度まで文部科学省の補助金で実施された、グローバルCOEプログラム「新炭素資源学」での活動があり、補助金終了後も、炭素資源、エネルギー基盤技術の2つの国際教育研究センターで、様々な活動を継続実施しています。

その中で、さくらサイエンスプログラムにおけるこのプログラムは、「エネルギー」およびエネルギーとは切っても切れない関係にある「環境」をキーワードに、日本とアジアの教員と学生が同じ場で先端研究を体験することを通じて、次世代のサステイナブルな社会を作る「人材づくり」をおこなう「アジア環境・エネルギー教室」を目指しています。

エネルギー資源枯渇、環境汚染、地球温暖化などの環境・エネルギー問題は地球規模の課題ですが、その解決のためには、一つの国の努力ではなく、多くの国の協力が必要です。そのためには、アジア全体のネットワークを構築する必要があります。

本プログラムが、単なる学生交流ではなく、教員をも招聘したカリキュラムを組んでいる理由は、教員が故国に帰り、次の日本との交流、他のアジア諸国との交流を多くの教員・学生たちに進めてくれること、を目指しているためです。いいかえれば、次世代の「環境・エネルギー人材ネットワーク」を構築しようとしています。

昨年度のさくらサイエンスプログラムでは、中国、モンゴル、インドネシア、タイからの招聘をおこないました。今年は、インド、ベトナム、マレーシア、インドネシア、タイの5カ国です。今年の特徴は、自己資金で各送り出し研究機関のシニア教員・研究者を招聘し、将来の継続的な協力関係を確固とする意見交換をおこなったことです。一部のシニア教員・研究者は、さくらサイエンスプログラムの参加者、あるいは自らの九大での体験をもとに、九大との共同研究を実際におこなう、あるいは、共同研究プランを作る、大学間学術・交流協定を締結する準備に入る、等の具体的アクションを円滑に行うよい協力者となりました。

冷却システムの応用技術評価に必要な材料特性の計測手法を学ぶための研修:インドネシアからの参加学生に、効率的な冷却システム開発の基礎実験を指導しているものです。
ZnO薄膜の熱電物性測定の講習:ベトナムからの参加学生が熱を電気に変える材料開発の基礎実験を体験しているところ
原子吸光法によるリチウムイオンの定量:タイの大学の准教授が、タイではできない研究体験を通じて、将来の共同研究シーズを作る実験をしているところです。タイでの教育経験を活用して、九大の学生に効果的なアドバイスをいただきました。
福岡市内ツアー

参加者にとっても、自分の研修内容や本プログラムへの好意的な意見を、シニア教員・研究者を通じて送り出し研究機関に上申することができ、送り出し研究機関からの感謝の言葉が寄せられています。以下はその一例です。Jayashri と Rohiniさんは、インド環境工学研究所から参加した研究員と学生、Saravananさんはシニア研究者です。

Jayashri and Rohini are back to Nagpur (Saravanan will be back day after tomorrow) with nice memories of Kyushu and you all. Thanks a lot for all the help to them and I am sure their visit was very useful for them as well as for our collaboration. They could do good work as well as had excellent exposure to international programme which will certainly help them in their career.
(Nitin K. Labhsetwar インド環境工学研究所主任研究員・インド科学技術アカデミー教授)

国際人材ネットワークつくりは、長期にわたり、地道に信頼関係を築いていく作業の積み重ねです。JSTおよびさくらサイエンスプログラムの担当の方々に、この2年間の支援、心から感謝します。今後も継続した「アジア環境エネルギー教室」の実施に向けて、今後ともご支援をお願いします。継続することによる効果を活かす試みとして、現在、炭素資源、エネルギー基盤技術両教育研究センターは、2年間採択されたさくらサイエンスプログラム参加者の同窓会を作ろうとしています。

修了書授与式