2015年度活動レポート(一般公募コース)第100号
フィリピンの学生が日本式の薬学教育で学び、薬の製造から流通を体験
城西大学からの報告
城西大学
8月22日~9月6日の期間でさくらサイエンスプログラムによる交流プログラムを実施しました。タイのシラパコーン大学から学生2名、フィリピンのサンカルロス大学から学生2名(+引率教員1名)が来日し、研究や医療施設の見学を行いましたが、本学学生にとっても今回の国際交流を通し、文化の違いなどを学ぶことができ、良い経験となりました。
第1週目は学内において研究を行いました。本学学生・教員とディスカッション(プレゼンテーション)による情報共有を図るとともに、お互いの国の研究の知識・手法や創意工夫の修得を目的に実施しました。
8月25日の午前中は、フィリピンの留学生と本学学生、教員でディスカッションを行い、機器分析の測定目的や実験操作の情報共有を行いました。留学生にとってシクロデキストリンを用いた製剤創製の応用、混錬法などの各調製方法を学ぶ良い機会となりました。
午後からは、混錬法による固体分散体(アセトアミノフェンとシクロデキストリン)の調製を実施しました。機器分析センターを見学し、高度な分析機器について説明を行い、調製した試料の粉末X線回折測定、示差走査熱量測定を行いました。午前中のディスカッションで得た知識を体現し、分析機器に触れることで測定原理および物性評価について理解することは留学生にとって貴重な経験となったようです。
8月26日は、それぞれの国の研究規定(日本薬局方および米国薬局方)を活用し、溶出試験を実施しました。物質の定量を行うことで、紫外可視分光光度計の測定原理、手法について学ぶ機会になりました。調製法による溶出性の差異を議論することで、水分含量、希釈溶液の重要性、物理化学的性質について学び、留学生は様々な意見や考え方を聞くことができたようです。
8月27日は、製剤創製の応用、創意工夫について考え、ゲル化剤(κ-カラギーナン)を用いたゼリー製剤の調製を実施しました。本学学生間とゼリー製剤の調製方法についてディスカッションし、情報共有を行うことで、互いの国の研究手法や創意工夫について理解することができました。調製したゼリー製剤の物性を評価する方法として、スプレッドメーターを用いましたが、物質の流動性を評価することで、ゲル化剤の特徴について判断することができました。
8月28日は、研究室主催の卒業研究の進捗報告会に出席しました。そこで、本学学生の英語でのプレゼンテーションを聴講し、意見交換を行うことができました。午後には、がん細胞の培養・継代・浸潤アッセイを実施し、クリーンベンチやアッセイ手法について学びました。
研究においては最新の機器分析を用いた非破壊測定や生物活性測定の手技など、日本の最先端技術を学びました。また、学生間交流・ディスカッションを通じて、問題発見・問題解決能力の礎に多少なりとも貢献できたようです。
第2週目は、日本の医療環境や薬学教育、薬剤師の役割について興味関心のあるアジア各国の学生や教員を招聘し、日本の病院(群馬大学医学部付属病院)・薬局・ドラッグストア(セキ薬品)、そして製薬企業(武州製薬株式会社)の訪問見学を行いました。日本の薬剤師の職能を知り、また、日本の医療システムや医薬品の流通を修得することを目的としました。
8月31日午前中には、武州製薬(株)を訪問し、医薬品の製造ライン・品質管理体制や研究施設を見学しました。日本人でも圧倒されるようなシステマチックな環境を見て、参加者たちは驚きの声をあげていました。学生からは、流通に対する質問があり、武州製薬の方に丁寧に対応して頂きました。
午後にはセキ薬品(チューリップ薬局つきの輪店)を訪問し、地域医療における薬剤師の仕事を見学しました。患者さんからの処方箋受付、処方監査、取り揃え、調剤監査、服薬指導までの一連の流れを見学することができました。特に、薬剤師からの服薬指導でセルフメディケーションの考え方を学習したことは、留学生にとって貴重な体験となったようです。
9月1日は、地域における在宅医療について学ぶため、施設と患者宅を訪問した。施設にて、医師からの日本の在宅訪問の現状などの説明を受けたのちに、実際に患者宅を訪問しました。タイやフィリピンでは在宅医療の経験はないそうで、新鮮さを感じたようです。その後、大学に戻り留学生と本学学生と、日本の医療について議論しました。学生間でも薬剤師の仕事として、調剤業務だけでなく薬局の外へ飛び出して、積極的に活動することが大切だと学ぶことができました。
9月2日は、群馬大学病院薬剤部を訪問し、大学病院ならではの先端医療の一端を見学することができました。特に、最先端のがん治療を行っている重粒子線医学医療センターでは、がん病巣に集中して放射線を照射でき、短期間で治せるとの説明などを受けました。また、薬剤部の病棟への配薬システムや電子化された調剤師システムなどを興味深く見学していました。特に大学病院が研究施設であることを再認識していたようです。
8月31日から9月2日までの3日間を通じて、アジアの学生は、医薬品の創製、開発、製造等に従事する研究者・技術者、そして日本の薬剤師の調剤や服薬指導、医薬品管理などの業務を知ることができました。また、医療従事者チームに参画した患者中心の医療を体験し、多様な人材の職能を知ることができました。
9月3日は、城西大学近郊にて越生うちわの作成体験に参加しました。本学学生も参加し、地域の文化を楽しむだけでなく、学生間交流もますます充実したものとなりました。
9月4日は、2週間のプログラムについてプレゼンテーションを行いました。科学技術の交流だけでなく、学生間の交流により充実したプログラムを実施することができました。
最終日(9/4)にはfarewell partyを開催し、修了書の授与式を行いました。パーティでは本学学生・教職員との親睦を深めることもでき、今後の大学間連携を強化することにも成功しました。
今回のプログラムを通じて、訪問学生が日本をはじめとする他国の薬剤師の役割や最先端の医療システム・技術を知ることができて、さらに国際的な視野を兼ね備えた薬剤師へと育っていくことに本学が貢献できたと思われます。
今回引率した教員からは、今回の来日がきっかけで、自分自身が本学の来年度博士課程入学希望をするようになったとのコメント得ています。また、本学の学生にとっても他国の文化の違いなどを学ぶことでグローバルな視点をもった薬剤師の育成につなげることができたと思われます。さくらサイエンスプログラムの助成により、本大学の国際交流事業の拡充となりましたことに感謝申し上げます。