2015年度活動レポート(一般公募コース)第84号
研修と実習で積み上げた学術交流と友好関係
地域・国際教育研究連携センター長 松尾直規さんからの報告
中部大学
中部大学では、平成27年10月3日から10月10日の8日間、中国の同済大学浙江学院の学生10名、付添い教員3名を招聘し、環境・エネルギーの課題をテーマに、さくらサイエンスプログラムによる科学技術交流活動を実施した。送り出し機関の同済大学浙江学院は、浙江省嘉興市に在り、国家重点大学である同済大学のバックアップで設立された私立独立学院である。本学とは、2011年12月より交流を開始し、2014年3月には学術交流協定を締結している。
以下に、さくらサイエンスプログラム2015の活動概要、成果、課題等について報告する。
1. 活動の概要
1日目 10月3日(土)
大学到着後、記念撮影の上、図書館、屋内プール、グラウンド、ラーニングコモンズの場となる不言実行館等、特徴的な学内施設を歩きながら見学した。この後、工学部で環境・エネルギーを主としたこれからの研修プログラムのオリエンテーションを行うとともに、中部大学と同済大学浙江学院の参加者の自己紹介を行った。
夕方には、歓迎会が開催され、今回の研修受入に関係する教職員のほか、本年度から中部大学大学院に留学している浙江学院の先輩6名も参加し、それぞれの体験談を交えて活発かつ和やかに交流した。
2日目 10月4日(日)
この日は、日曜日であり社会見学を中心としたプログラムとし、最初に “ものづくり”の分野で代表的な施設のトヨタ産業技術記念館を見学した。当記念館では、繊維産業から自動車産業がどのように発展したかを実際に稼働する展示物や案内員による説明から学び、“ものづくり”の現場を知る良い機会となった。
特に、先人の“ものづくり”に対する工夫や気迫には眼を見張るものがあり、学生達にとっても大きな刺激となった。午後は、名古屋駅前の高層ビルの都市開発状況や市街地において、環境がどのように配慮されているかを見聞した。
3日目 10月5日(月)
午前中に、研修団一行の全員が、中部大学山下学長を表敬訪問し、学長からは今回の日本訪問は貴重な経験であり、これからの研究・教育に有益に活用して欲しいとの励ましがあった。
また、午前に中部大学の工学部・工学研究科、応用生物学部・応用生物研究科の紹介、午後に各学部での具体的研究内容の紹介を受け、環境・エネルギーに関連する中部大学の取組に関する理解を深めた。さらに、日本固有の建築手法による木造家屋の建て前を、中部大学建築学科の学生と一緒に体験した後、国際GISセンター、CAD教育施設等を見学し、各施設での研究・教育内容について説明を受けた。
4日目 10月6日(火)
この日は、学内9カ所の施設見学と本学大学院生による研究発表および交流会が行われた。午前は、超伝導・持続可能エネルギー研究センターでの直流超伝導ケーブルによるロスレス送電の実用化実験に関する説明を受けた後、GPP(グリーン・プラン・パートナーシップ事業)関連の施設見学では、本学が実施しているスマートグリッドシステムの説明および設備の見学をした。
そのほか、土質実験室、建築環境設備実験室、材料構造実験施設を見学した。午後は、大学院生3人が「地盤」「建築」「エネルギー」に関する研究発表を行い、発表後の交流会ではリラックスした雰囲気の中でざっくばらんな意見交換が行われた。
その後、応用生物学部の施設である植物プラント工場と温室を見学し、さらにバイオ発電実験室では、研究発表を行った大学院生の実験内容について実際に現物を目の前にして解説を受け、活発な質疑応答が行われた。
5日目 10月7日(水)
5日目は、日本の企業で環境・エネルギーについて、どのような取り組みがなされているかを実感してもらうために企業見学を実施した。午前中は、大企業の例として王子製紙春日井工場を見学し、臭気や廃水等においてさまざまな対策を講じていることを学んだ。
また、廃プラスチックや自動車用タイヤを燃料に使用するなど工夫を施し、工場で必要となる80%の電力を自家発電により確保してとの説明を受けた。午後は、金型メーカである犬山市の名古屋特殊鋼株式会社の工場を訪問し、鋼材からNCデータによる加工・組付・仕上げ野工程を順に見学した。
最終段階の仕上げでは、機械ではなく熟練した人間の手で造り込みがなされており、人間の熟練した技術の素晴らしさを実感した。また、事務建屋屋上での緑化や太陽光発電に加え、デマンドコントロールを活用するなどエネルギーの有効活用が図られていることを見学した。
6日目 10月8日(水)
午前は、中部電力株式会社技術開発本部を訪問し、「安価で良質なエネルギーの安定的な供給」及び「総合エネルギーサービス企業の実現」に向けた中長期的な技術開発に取り組んでいるとの説明を受けた後、ヒートポンプ試験設備、浮体式洋上風力の水理模型実験施設、住宅用環境実験棟、太陽光発電の出力把握・予測等の研究開発現場を見学し、開発状況に関する説明を受けた。
午後は東邦ガス株式会社技術開発本部技術研究所を訪問し、技術企画部、技術研究所、商品開発部の概要説明の後、スマートハウス関連技術開発の状況、燃料電池車の見学と試乗、水素ステーション整備に向けた技術開発、ガスエネルギー館でのエネルギー利用の現状と、将来に向けての取り組みに関してのデモンストレーション等を興味深く見学した。日本のエネルギー開発に取り組む代表的な企業2社の先端技術開発の現場を見学し、学生の皆さんは、大いにインパクトを受けた様子であった。
7日目 10月9日(金)
最終日である7日目は、産業廃棄物のリサイクルを行っている春日井市の大和エネルフ(株)を訪問し、産業廃棄物を回収し、RPF燃料を製造・再利用するプロセスなどの説明を受けた。Webカメラを利用した管理システムやリサイクルのための原材料のチェックシステムなどに対し、多くの質問が出た。
午後は、中部大学で研修成果の発表報告会が行われ、参加者一人一人が英語で1週間にわたる研修の感想を発表し、中部大学では、実学重視の学修研究環境、実験・実習施設・設備が充実していること、訪問した企業がいずれも社会的責任を果たすため環境に配慮した運営がされていること、日本が美しくきれいな国であることなどの感想が述べられた。また、引率の教職員からはこの研修によって参加学生たちの視野が確実に広がったこと、今後もこのような研修を行っていきたいことなどが述べられた。
この成果報告会には、同済大学淅江学院出身の大学院留学生をはじめ、工学部・工学研究科の在学生も参加し、交流した。最後に修了式を行い、松尾直規学監から参加者一人一人に修了証が手渡された。その後、名古屋市内で歓送会が行われ、参加者はこの1週間の研修を振り返りながらそれぞれの新たな目標などについて語り合った。
2. 得られた成果と今後の課題
招聘学生は、日本の産業技術と環境・エネルギーに関する最先端技術、及びそれらの技術を開発し支える大学の研究活動を見聞し、更なる学修意欲を掻き立てられたようである。
今回の招聘学生10名のうち、7名が本学大学院への入学を希望し、また10名が帰国後に行った研修報告会の宣伝効果により、その他6名の学生が本学大学院受験を希望しているとの情報がもたらされた為、さっそく本学関係者が浙江学院を訪問し13名と面談を行った。
大学院留学については、2015年4月に送り出し機関の浙江学院から5名の留学生が本学に入学し、2016年4月にはこのプランに参加した学生の4名を含む6名が入学の予定である。今回も、さくらサイエンスプログラムによる研修を通じて、本学大学院へ多数の留学希望が表明されたことは、このプランの大きな成果の一つである。
また、浙江学院の引率教員との交流にも大きな成果があった。今回の学生交流を通じて浙江学院の学生所長、また教務所長の要職を兼ねる教授2名との親交が深まり、今後の本学との教育交流に積極的に協力したいとの表明がなされた。さくらプラン終了後には、さっそく両氏の取り計らいにより若手教員6名の紹介を受け、本学研究者との共同研究や、短期の教員派遣を実施する方向で動き出している。さらに、本学教員による特別授業の依頼も受け、11月21日に4名の教員が浙江学院で講義を行うことになった。
このように、さくらサイエンスプログラムによる交流は両大学の教員交流、研究交流の促進も期待出来る為、今後も大いに活用したいと考えている。
今回のプランは授業期間中であったこともあり、本学の学生、大学院生との交流の機会が少なかったことが反省点である。今後は、さくらサイエンスプログラムの継続的な実施と、反省点を踏まえたプランのさらなる充実に努めていきたい。また、工学部以外の学部でのプランの実施拡充、送り出し機関の拡充を図り、このさくらサイエンスプログラム事業を大学のさらなる国際化とそれに基づくグローバル人材の育成につなげていきたい。
さくらプラン参加者7名と他6名の大学院受験希望者と面談(10月23日)