2015年度 活動レポート 第45号:高エネルギー加速器研究機構

2015年度活動レポート(一般公募コース)第45号

驚かされた招へい学生の旺盛な探究心と積極性
中国科学技術大学生のための加速器入門コース

高エネルギー加速器研究機構

上海から飛行機で西へ1時間の合肥にある中国科学技術大学の一行は梅雨も後半に入った7月5日(日)の夜、成田空港に到着しました。朝5時起きで自宅を出て、高エネルギー加速器研究機構の宿舎に到着したのが午後10時という長旅でした。

中国科学技術大学は中国でも屈指の名門大学ですが、彼らの大半はまだ加速器物理を勉強し始めたばかりの若者達です。経済発展の著しい中国では科学技術でも目覚ましい発展を遂げていることは言うまでもなく、加速器物理分野に於いても医療用加速器、テラヘルツFEL、次世代放射光施設等、多くのプロジェクトが計画中です。

さくらサイエンスプログラムの今回のKEKでの特徴は、受入担当者が助教の周徳民氏を中心とした中国人若手研究者の面々であったということでしょう。KEKには多くの外国人研究者が在籍していますが、加速器研究施設では10名を超える中国人研究者が働いています。彼らが一致団結して、事務局長の周氏を支え、母国からやってきた後輩達のために奔走しました。学生達のほとんどが日本はもちろん、外国に出るのは初めてということもあり、来日前から周氏の元には中国版LINEを通じて、大量の質問が寄せられ、周氏は事細かに対応していました。

まず学生達は、現在世界で活躍中の研究者による講義を受け、その後、2日間をかけてKEKが有する加速器施設を見学しました。まず我々が驚かされたのは、彼らの旺盛な探究心と積極性でした。講義でも施設見学でも、講師や説明者が学生達の質問攻めにあい、予定時間をオーバーしてしまうのです。彼らの新しいものに対する率直な興味や活発な質問が、おとなしい日本人学生に慣れた受け手には新鮮で、非常に好ましいものと映ったようです。今、世界の加速器分野では次々と新たな大型プロジェクトが計画中、建設中ですが、人的資源の不足が大きな問題となっています。そういう意味で未来の加速器の担い手を育てることは、世界最先端の研究と共に非常に重要な課題となっています。

加速器見学の様子

今回のプログラムの目玉は細山謙二名誉教授による”Feynman’s World of Physics”と銘打った実習でした。まずはファインマンの物理を周氏が中国語で講義した後、細山教授オリジナルの科学おもちゃ、「超電導コースター」「鉄球リニアック」「ころがりトロン」などを使っての実習が始まりました。学生達はまさに「おもちゃを与えられた子供」のように目を輝かせてファインマンの世界を楽しみました。「今までは本の上で、頭の中にしかなかった知識を実際に手で触れて、体で会得した」という一人の学生の言葉が印象的でした。

”Feynman's World of Physics”講義スライド
実習の様子

最終日には学生達はそれぞれ10分間で、10日間の日本滞在で学んだこと、感じたこと、将来の目標などをKEKの聴衆が見守る中で発表しました。その中で多くの学生が近い将来、必ずまたKEKに来たいと感じていました。中国と日本は隣国でありながら、日常生活で英語が通じないという言葉の壁もあり、これまでは海外での活動を希望する研究者の視線は欧米に向いていました。しかし、実際に訪日し、日本の研究所で世界最先端の研究が進んでいることを目の当たりにすると、彼らの考え方は随分と違ってくるようです。

報告会の様子

今回の訪問をきっかけとして、大きな可能性を秘めた中国の若い研究者達が日本に関心を持ってくれたことは、今後の日中の科学技術協力の発展に大きな弾みをつけることにつながると確信しました。