特別寄稿 第4号
タイの学生との学生交流・ものづくりの基礎と科学の啓発活動を研修
黒木祥光
執筆者プロフィール
- [氏名]:
- 黒木祥光
- [所属・役職]:
- 国立久留米工業高等専門学校制御情報工学科・准教授
- [略歴]:
- 九州工業大学工学部電子工学科卒業。九州工業大学大学院工学研究科電気工学博士後期課程修了。博士(工学)。
国立鹿児島工業高等専門学校電気工学科助手を経て平成13年度より現職。
さくらサイエンスプログラム実施内容について
受入機関 | 国立久留米工業高等専門学校 |
送出し国・機関 | タイ・モンクット王工科大学ラカバン |
招へい学生数 | 10名 |
招へい教員などの数 | なし |
実施した期間 | 2014年7月6日~7月12日 |
1.さくらサイエンスプログラムのプログラムの目的について
九州沖縄地区にある9つの国立高等専門学校は、平成24年度より大学間連携共同教育推進事業「高専・企業・アジア連携による実践的・創造的技術者の養成」(略称:9高専連携事業)を実施しています。
久留米高専では、執筆者が平成24年度に国立高等専門学校機構在外研究員の区分B:協定校派遣として送り出し機関であるモンクット王工科大学ラカバン(以下、KMITL)に滞在したことをきっかけに、タイの大学との連携を行っています。
執筆者がKMITLでの在外研究に応募した理由は、工学を教える教員として、日本企業の工場進出が著しい東南アジアの現状を肌で感じ、それを学生に伝えたいというのが最大の要因でした。
ところがKMITLの学生と研究内容について議論を重ねるうちに、研究に取り組む熱心さに心を打たれ、学生交流によって互いの技術力向上を行いたいと思うようになりました。
このような背景の下、久留米高専は平成25年5月にKMITLのKuntpong Woraratpanya助教を海外研究員として約3週間招へいしました。また、夏休み期間に9高専の学生5名が約2週間の日程でタイの3大学を見学しました。
平成26年度に入って本プログラムを計画した時は、6月上旬から7月にかけてKMITLの3年生7名を特別聴講生として受け入れる準備をしていました。本プログラムに応募したのは、今後の学生交流をより発展させるために、日本の科学技術について、また、久留米高専について、KMITLの学生に知ってもらうことが重要と考えたためです。
2.実施内容について
招へいした学生は情報学部に所属する学部生5名と修士課程の学生5名で、年齢に幅があるため、高専の低学年から専攻科生まで幅広い学生と交流を行うように工夫しました。
本プログラムと同じ時期に9高専連携事業の国際交流推進コーディネータとしてKuntpong助教を2週間の日程で招へいし、様々な面で手助けをお願いしました。
交流内容は将来の再来日を希望してもらうため、特別聴講生として滞在中のKMITLの学生による高専の状況説明、久留米高専の学生との交流会や実験・実習の見学、KMITLの学生が行っているプロジェクト型教育や卒業研究の内容説明、などを実施しました。
そのほか、学外見学として福岡県青少年科学館、トヨタ自動車九州宮田工場および安川電機ロボット工場の見学を計画しました。具体的な内容について、以下に示します。
特別聴講生との交流では、機械工学科、電気電子工学科、制御情報工学科、材料工学科の研究室を訪問し、研究プロジェクトの紹介や寮での滞在の様子などについて説明を受けました。プロジェクトの内容はもちろん、寮での食事や学外の状況など、興味津々に話を聞いていました。
久留米高専制御情報工学科5年生との交流では、初めに互いの学校紹介をしてもらった後、KMITLの2名と高専の8名から成る班を作り、自由に交流を楽しんでもらいました。
学生同士でFacebookやLineなどのIDの交換を行い、専攻科2年生との交流では、技術英語の授業に参加してもらいました。授業はKuntpong助教が進行して国際会議と同様の形式で高専生が研究のプレゼンを行いました。
KMITLの学生に質問をしてもらい、専攻科の研究内容について知ってもらうことができました。また、KMITLの学生もプロジェクトや研究について説明しました。KMITLでは学生の研究を推進させるために、1年で修士課程を修了するプログラムを準備しています。参加学生がより高度な研究を行うため、日本の博士課程に興味を持ち、進学してもらえればと思っています。
各種プロコンでの活躍を目指すプログラミングラボ部との交流では、高専の3年生が部の活動状況や全国高専プログラミングコンテストにて特別賞を受賞した作品を紹介しました。KMITLの学生1名は大学生対象に世界規模で行われているプログラミングコンテストACM-ICPCの参加者であり、プログラミングラボ部も毎年挑戦しているため、IT技術の面でも交流ができたと思っています。
実験・実習の見学では、日本のものづくりを支える基礎技術教育の状況を知ってもらうため、ものづくり教育センターと総合試作技術教育センターにて機械工学科1年生の授業である加工実習を見学しました。
学外見学としては、日本で青少年に科学技術を啓発している状況を知ってもらうため、久留米市内にある福岡県青少年科学館を見学しました。
ジャイロ効果やベルヌーイの定理を直感的に学ぶ道具や、お絵かきロボットなどに大変感心したようです。7月10日は日本企業の工場について知ってもらうため、お絵かきロボットを作成した安川電機のロボット工場およびトヨタ自動車九州宮田工場の見学を計画しましたが、残念ながら台風8号の九州上陸が予想されたため、断念せざるを得ませんでした。
その代り学生交流で友達になった高専生が九州国立博物館を案内してくれました。学生交流の面では災いが転じて福となったように思っています。
プログラムの最後は上田校長先生にご挨拶に伺い、交流の感想や学校の印象などについて話をしました。プログラム参加者全員が大変喜び、感謝の印として校長先生に象のぬいぐるみが贈られました。校長先生は心のこもった贈り物を大変喜び、校長室に飾っています。
3.今後の国際交流について
国際交流を推進するためには、より長期かつ交互の派遣と受け入れが重要だと思います。久留米高専では平成27年度も特別聴講生としてKMITLを含むタイの大学から15名の学生を受入れる計画をしており、日本で学びたいタイの学生が多数います。
しかし、それとは逆に、海外に行きたい日本の学生数が少ないのが現状です。受け入れによる交流を通じ、タイに関心を持ち、派遣を希望する学生が増えることを期待しています。
また、今回は情報学部だけに対象を絞りましたが、今後は他学科にも交流を拡げていきたいと考えています。本プログラム終了後、執筆者は8月下旬にKMITLを訪問する機会を得ましたので、教職員および参加学生と会談することができました。
参加者は皆口々に「もう一度日本に行って勉強したい」と話しており、先生方からも深い感謝の言葉をいただきましたので、本プログラムを実施して本当に良かったと思っています。
4.さくらサイエンスプログラムに対する希望と期待
上述したように長期の派遣・受け入れがより良いでしょうが、その動機付けを行うためには先ずは互いを知ってもらうことが必要だと思います。
さくらサイエンスプログラムを通じてできた学校間、学生間の交流は今後ますます発展していくでしょう。英語を母語としない学生同士の交流は、互いに大きな苦労を伴いますが、技術者を志す学生として共通する話題や共感することが多く、親しみをもって会話する様子が微笑ましく感じられました。
8月にKMITLで再会した参加者は久留米高専での交流を懐かしむとともに、再来日の希望を話しており、さくらサイエンスプログラムの目的は叶ったと思われます。是非今後も事業を続けてもらいたいと考えています。