2014年度活動レポート(一般公募コース)第175号
先端科学から考える先端・科学教育でさくらサイエンス研究旅行
大阪教育大学 コーディネータ 村井護晏
ゴーギャンが1898年に「①我々はどこからきたのか ②我々は何者か ③我々はどこに行くのか」を描いた時にはこれらに対して、全く思考の外にあった。しかし、今日の最近の先端科学の発展でかなりの部分の解答が得られてきた。今日のアジア、世界の多くの人達がこのことの正確な把握なく、思いつくままにランダムに人類の生き方、あり方等を偏見的に模索し、世界を混乱させているように考えられる。
本研究旅行は将来科学教育の分野でアジアさらには世界の指導者をめざす若い中国の学徒とこのような観点で先端の科学教育を模索する研究旅行を試みた。
①の我々はどこからきたのか、に対してはかなり深い理解が得られてきた。
②我々は何者か、③我々はどこに行くのか、に対してドーキンスが利己的遺伝子を強調した。これが極解され世界は利己的を基本に動いており、競争の原理、能力主義、強者生存等が強調され、科学者からの発言として科学的根拠をもって正当化されてきた。
このことによって、社会の発展等が大いに進められたことは否定できない。しかし、このことの副作用も多く目につくようになってきた。競争に負けた落ちこぼれ問題、貧富の差の拡大、うつ病/精神病の増加、金儲けのためには平気でヒトをだます、何でも良いから多数をとって支配する論理、そして戦争の正当性までも主張され、何か生きずらさを感じる社会になってきた。
こんな中で、先端科学の一つとして、脳科学の発展から社会脳の研究も進んできた。これは利己主義に対して、利他主義の重要性が脳科学の観点から裏付けれそうなデータが出てきた。
脳科学的に言えばアドレナリンやノルアドレナリンがやる気ホルモンとして、利己主義、競争主義につながる脳内反応だと考えらるのに対して、愛情ホルモンとしての赤ちゃんをみれば可愛く思うオキシトシンの分泌、ドーパミンや麻薬物質類似のβアンドルフィン等が利他的行為で多く分泌することが分かってきた。恋愛等の行為にもこれら愛情ホルモンは多くでてくるが、利他行為にもそれ以上の分泌がおこるようである。
今日の社会が利己的側面のみが強調され、利他的側面が軽んじられている傾向にあるように感じる。このようなことを考えるとき、もう一度人類とは何かを基本的なところから見ていく必要があると考えた。
今日の先端科学では、この宇宙は138億年前に始まり、70億人の現世人類は1人の母ミトコンドリアイヴにつながっている親戚であること、また進化の過程で脳の利己的能力(競争の原理)の獲得以外に人間よりも強い動物に打ち勝つために協同するという利他的能力も獲得されてきたこと、さらには脳という機関を発達させ、自然にまかせて進化した以上に脳が進化をコントロールすることまで解明してきた。
そこで、今日、我々がなすべきことは利己的側面と利他的側面を止揚することを脳で考えることが重要ではないかと考える。つまり、利己的側面を否定するのではなく、これをも認めながら今日軽視されている利他的側面を強化する方略を理論構築することではないだろうか。つまり、利己的側面と利他的側面の止揚があって、はじめて遺伝子が生き残れるのだと考えられる。
そのことを多くの人達が納得出来るように理論構築ができれば社会はそのように変化していくだろうと考える。その理論が新しいパラダイムとしての「先端の科学教育」の意味するところである。
概略以上の観点から次のような講演旅行を考えた。
①宇宙の起源(大阪教育大学)、②現生人類70億人の起源(東京大学)
①教育学から考える社会性(大阪大学)、②大阪の小学校での理科・生活科教育(大阪教育大学)、③日本の高校科学教育での問題点(大阪教育大学)、④日本の道徳教育(大阪教育大学)、⑤保健室から見た子ども達の現状と課題(大阪教育大学)、⑥公文教室での50年の実践から気づかされたこと(大阪教育大学)、⑦幼児教育と利他性(東京・教育通信社)、⑧個人関係からみた社会文化の脳可塑性への影響(大阪教育大学)、⑨簡易法によるDNAの抽出(大阪教育大学)
①脳研究最前線(京都大学)、②脳科学からみた社会脳(京都教育大学)、 ③福島原発事故から考える(東京民間研究所)、③脳科学からみた臨死体験(京都平等院)
日程は11月17日~24日で訪問者は江漢大学学生5名、若い教員1名、付き添い者1名で、大阪教育大学で2日間、京都(京都教育大学、京都大学、平等院/銀閣寺訪問)で2日間、東京(東京大学、民間通信教育社、科学未来館訪問)で2日間、講演研修会をおこなった。訪問者も各会場で研究発表も行い、非常に積極的に質疑を繰り返した。全員非常に好意的な参加で、成功裡に修了した。