2014年度 活動レポート 第156号:東京藝術大学大学美術館(3)

2014年度活動レポート(一般公募コース)第156号

中国科学技術大学科技考古実験室の修士・博士課程の学生が研修 その3

東京藝術大学大学美術館
代表:原田一敏(大学美術館教授)
文責:芹生春菜(大学美術館助教)

2014年10月23日(木)関西見学旅行(京都)

本日から京都・奈良へ2泊3日の見学旅行です。新幹線で一路京都へ。
最初の訪問地、京都・鹿ヶ谷の泉屋博古館は、住友家収集によるすぐれた青銅器コレクションで知られています。あいにく全館休館中のところ、特別に展示室の観覧をお許しいただきました。

学芸員・廣川守先生の解説によれば、こちらの所蔵青銅器は長らく人手にあったいわゆる伝世品を主とし、時代や出土地は多岐にわたるとのこと。展示室は時代・内容ごとに分かれ、作品キャプションの横には文様の図解や、九州国立博物館との共同研究で撮影されたX線CTスキャン写真等が並置され、非常にわかりやすく見やすい展示でした。

泉屋博古館の門前で

泉屋博古館 廣川守先生の解説


こちらでは写真撮影をご許可いただき、皆十二分に調査できたと思います。廣川先生にはまた、器面の現状や合金の成分分析研究の実情について研修生からの質問にもお答えいただき、最後に図録や研究報告書も購入できて、大変有意義な見学となりました。
見学時間を予定より長く取っていただいたので、後に予定していたお寺の見学はやめにして、錦市場に少しだけ寄り道してから宿泊地である奈良に向かいました。

泉屋博古館 調査風景

2014年10月24日(金)関西見学旅行(奈良1)

素晴らしい秋晴れ。午前中は東大寺・春日大社周辺の散策をしました。研修生たちは鹿に大喜び。餌をやっているうちに持っていた紙袋を食い破られるなど、ハプニングもありました。大仏殿に入ると、その広壮さに圧倒されます。この規模の8世紀の鋳造仏が、再興を経たとはいえ現在に偉容を伝えることはやはり驚嘆すべきことです。大仏建立と同時期とされる鐘楼の大鐘も、下から見上げると驚くべき大きさでした。

東大寺大仏殿 大仏を背景に

東大寺鐘楼 大鐘を見上げる


奈良国立博物館の正倉院展はこの日が一般公開の初日で、混雑を避けて午後遅くから見学させていただきました。中国の唐代に相当する時代の文物がこれだけまとまって現存すること、保存状態がよく色鮮やかであることは、研修生にとっても新鮮な驚きであったようです。

奈良国立博物館前で

2014年10月25日(土)関西見学旅行(奈良2)

移動の多い一日です。朝一番に法隆寺見学へ。西院伽藍で金堂、塔を見学し、日本で現存最古の本格的な木造伽藍と仏像群を見ました。大法蔵館では橘夫人念持仏厨子や百済観音などを、持参した資料を手に熱心に見ていました。

東院伽藍まで歩き、夢殿の救世観音を拝観。藝大の礎を築いた岡倉天心らが、この像を発見したエピソードの説明も。奈良の大寺院とはまた異なる、飛鳥の寺院独特の雰囲気を満喫して法隆寺を後にします。帰り道、斑鳩らしい町並みに喜ぶ研修生たち。予定していた唐招提寺の見学は割愛し、奈良に戻って一路帰京しました。

法隆寺周辺の町並み

2014年10月26日(日)都内見学

最後の研修日、上野毛の五島美術館に伺い、「存星─漆芸の彩り」展を見学しました。中国は戦国秦漢の時代からすぐれた漆器の産地ですが、日本では室町時代頃から、茶器や室内調度品として中国から輸入されたいわゆる唐物(からもの)の漆器が珍重されてきました。

この展覧会では「存星」と呼ばれた作品群と、その受容史を概観するのがテーマです。古代漆器を専門とする学生はとりわけ熱心にノートを取り、引率の原田教授を質問攻めにしていました。火曜日に藝大で関連作品を見ていたことも、理解の一助になったと思います。

明日はいよいよ帰国。この日の夜は送別会で、皆でしゃぶしゃぶを食べに行きました!原田教授より本研修の修了証が手渡され、全員で中国の歌を歌うなど、楽しい会になりました。

送別会

2014年10月27日(月)帰国

あっという間の8日間が終わり、成田でお別れです。皆さんお疲れ様でした。駆け足の研修でしたが、皆さんには滞在中になるべく沢山の美術・考古遺物を実見してもらえるよう、各地で見学をふんだんに盛り込んだ日程になりました。作品そのものの観察、調査に加え、日本の美術館博物館における所蔵品の保管、展示のあり方なども、実際に訪れてみて実感できたことが多々あったことと思います。帰国後、皆さんのご研究にこの経験が活かされることがあれば幸いです。

藝大派遣チームが帰国後、中国科技大学の学内で行った見学報告会のポスター。楽しそうな写真の数々をご覧下さい。