2014年度活動レポート(一般公募コース)第147号
カンボジアの若手大学講師・大学院生を招へい
地雷被災地の社会復興の技術と知見について意見交換
京都大学東南アジア研究所
さくらサイエンスプログラムの支援を受けて、11月9~18日に、カンボジアの3つの大学機関(王立プノンペン大学、王立農業大学、王立工科大学)から10名の若手大学講師・大学院生を京都および仙台に招聘しました。1960年代末から1990年代初めまで国際的孤立と内戦を経験したカンボジアでは、現在も、国境付近を中心に地雷被災地が存在します。
この事業では、今後のカンボジアを担う若手研究者・学生に、その地雷の除去と、その後の農村の開発をどう進めたら良いのかを、長期的かつ学際的な視点から検討する機会をもってもらうことを狙いとしました。立案と申請は、京都大学東南アジア研究所の小林知が行いましたが、地雷除去に関する最先端技術の紹介などについて、東北大学東北アジア研究センターの佐藤源之教授にも多大なご尽力をいただきました。
3つの大学機関から集められた10名の参加者の専門は、開発学、開発経済、コミュニティ開発、土壌学、農学、自然資源管理、電気、土木工学など多岐にわたっていました。また、戦争が終息してから20年以上経つために、20歳代半ばの大学院生は地雷問題を実体験として感じる機会をもっていませんでした。
そこで、日本への招聘に先立ち、10月7日にカンボジアの王立プノンペン大学で事前講習会を開きました。講習会では、2000年代半ばからカンボジアのバッタンバン州で地雷除去活動に従事しておられる高山良二さんをお招きし、現在も続く地雷除去の現場に関する実情を報告していただきました。
11月9日から13日まで、参加者はまず京都にて活動を行いました。東南アジア研究所が所蔵する豊富な史資料を利用して、東南アジア地域で進行する開発現象に関する理解を深めると共に、京都大学と慶応大学の間で行われている学部生向けの遠隔ビデオ講義に参加し、日本の大学教育の現場に触れました。
また、カンボジア農村の開発の現状だけでなく、日本の農村社会が直面する過疎化の問題についても講義を行い、議論しました。カンボジアの学生らは、社会が発展すれば多くの問題が解決され、より良い社会が生まれると基本的に考えていました。しかし、実際には、社会の発展により新たに生みだされる問題もあります。日本の農村が直面する過疎化の例を通して、参加者は、カンボジア農村の未来を考える視野を大きく拡大させることができた、と述べていました。
11月13日は、東京を経由して仙台へ移動しました。東京では、日本科学未来館に立ち寄りました。宇宙開発に関するものなど、カンボジアの高等教育機関では触れることが出来ない技術開発の様子が、特に興味深かったようです。
11月14日から17日までは、仙台を拠点に活動しました。まず、東北大学東北アジア研究センターの佐藤源之教授のアレンジのもとで、地雷除去の最先端技術とその応用に関する講義を受けるとともに、新旧の地雷探知機のデモンストレーションを行いました。また同時に、東日本大地震の地震発生メカニズムと災害の概要に関する特別講義を受け、南三陸町などの被災地を訪問しました。
自然災害と、地雷による災害との間には相違点も多くありますが、その復興において、適切な科学技術を用いること、長期的な計画にもとづく取り組みを立案することが必要な点は、共通します。参加者のひとりは、東北地方での活動を通して、自国の発展のために、必要とされる技術と知見をどう見極め、どのように学術的活動を組織してゆけばよいのかという新しい問題意識を得たと述べていました。
今回の招聘を通して、10名のカンボジア人若手大学講師・大学院生は、自国では得ることができない様々な刺激と知見を獲得したといえます。今後のカンボジアの発展を担うリーダーになるべき人材の育成に寄与したという点で、事業担当者として、さくらサイエンスプログラムに深く感謝申し上げます。