さくらサイエンスプログラムを活用して、効果を上げているプログラムを紹介します。
Aコース:科学技術体験コース
天津大学建築学院から大学院生10人を招へいし、神戸大学工学研究科建築学専攻と天津大学建築学院と共同で、「港湾都市における建築と都市デザインに関する国際的な研究・教育プログラムの開発」を目的とした交流事業を、2018年6月9日から17日の9日間にわたり実施した。本事業は都市デザインに関するワークショップと両大学の交流建築設計展の2つのプログラムで構成されている。2016年度に本事業を神戸で実施し、2017年度は神戸大学が天津大学建築学院を訪問し、同事業を実施し、今年度で3回目の事業となる。
課題発見型の都市デザインワークショップの開催
初日から6日目までは、「神戸港開港180年の都心ウォーターフロントをデザインせよ」という設計課題を課し、ワークショップを実施した。両大学の教員の指導のもとで、両大学の学生の混成の4つのグループが提案を行なった。
2日目の午前中に神戸大学にて、神戸市都心ウォーターフロントの現状と課題に関する説明を行ない、午後には課題の対象敷地である神戸・都心ウォーターフロントの現地視察を実施した。3日目からグループワークを開始し、4日目の午前には中間講評会を開催し、各グループの提案の方針について質疑応答を行なった。
広い敷地を対象とし、かつ、今から約30年後のウォーターフロントの都市像を提案するという難易度の高い課題であったため、学生は毎日長時間にわたる議論と作業を行ない、かなり体力を消耗したようである。提案パネルは7日目から設計展で展示され、8日目の設計展の講評会の場で、ワークショップでの提案の発表を行なった。
交流建築設計展の開催
6日目から9日目の4日間に、KIITO(デザインクリエイティブセンター神戸)にて神戸大学・天津大学交流建築設計展を開催し、両大学の設計演習や卒業設計の優秀作品と本ワークショップの成果品の展示を行ない、神戸大学の外で成果を発信した。天津大学、神戸大学、東北芸術工科大学、龍谷大学の教授を講評者として迎え、講評会を実施した。
プログラムの成果
学生たちは、提案を計画する際の両国の考え方の違いに戸惑いながらも、専門分野での交流を通じて、短期間でありながらも濃密な交流ができたことが伺えた。
神戸大学工学部建築学科と天津大学建築学院は、1980年に学術交流協定が締結され、この交流は日中の大学交流で最も歴史のあるものだといわれている。2014年に本交流協定が改定され、神戸大学教員と学生、天津大学教員と学生の行き来が、訪問レベルで徐々に活発になった。
本ワークショップは、2016年から数えて3回目の開催となるが、その間に天津大学建築学院からの留学生の受入れが増え、9人もの留学生(8人の学部生と1人の大学院生)を本学では受け入れており、本プログラムを起因とした大きな成果だと考えられる。天津大学では神戸大学への半年間の留学への意欲がかなり高まっているようである。神戸大学から天津大学への留学生は、残念ながらまだ出てきていないが、留学を考えてみようという意欲をもつ学生が徐々に増えてきたという感触を得ている。
長期の留学に最初から挑戦するのは勇気がいるが、短期間でのワークショップの経験によって、留学への抵抗感の減少に寄与していることも、さくらサイエンスの成果だと感じている。
今後の展望
建築や都市デザインは、図やダイアグラムを使って意思疎通ができる。このことを学生には経験してほしいと思っている。英語で専門分野の話をして一緒に提案することは、難易度が高いという学生の思い込みを、今後も払拭していきたい。そして、国際交流の機会や共同研究に取り組みたいという意欲が学生に芽生えるよう、これまでの活動に関する情報提供を、本ワークショップに参加しなかった学生に向けても積極的に行っていきたいと考えている。また、国際共同研究への展開にもつなげていきたいと考えている。
Bコース:共同研究活動コース
プログラムの概要
茨城大学大学院理工学研究科量子線科学専攻は、2018年5月21日から6月8日までの19日間、インド、タイ、ベトナム、および台湾から、大学院生など9人を招へいし、「量子線分子科学の実験及び理論をつなぐアジア諸国ネットワークを生かした共同研究」をテーマにプログラムを実施した。
担当者が、長年構築した国際的な学術ネットワークの蓄積、大学の国際戦略に関する学長特別補佐であった経験、および科学技術研究機関が集中している茨城県の地の利と、量子線科学分野で世界を牽引する茨城大学の特徴を生かして申請した。
招へい機関は、インド化学技術研究所、タイのウボン・ラーチャターニー大学、ベトナム国家大学ハノイ校、台湾・新北市の輔仁大学であった。大学間交流協定のある大学(ベトナム国家大学)、学部間交流協定のある大学(ウボン・ラーチャターニー大学)、今後の協定締結の可能性の高い大学および研究機関であり、いずれも教育研究および国際交流に大変熱心な機関の優秀な大学院生および博士研究員を、指導教員や学部長から推薦の上、選抜した。
到着翌日には大学でガイダンスが行われた。そのとき招へい者に対しては実験・実習での安全講習のほか、日本の文化や慣習、公共交通の利用方法について説明した。その後、各研究室において、量子線分子科学に関連する課題に関する共同研究を実施した。
5月30日から6月2日までの間、量子線によってタンパク質等の生体分子やソフトマテリアルの構造と性質、およびその応用を調べることを主題とした”Quantum Beam in Biology and Soft Materials”に関する「第3回茨城大学量子線科学国際シンポジウム」に参加したほか、茨城大学量子線科学国際シンポジウム期間中の5月30日午後には、大強度陽子加速器施設J-PARC(茨城県東海村)を見学した。この見学にはNHKからの取材があった。
6月3日には「量子線分子科学の理論と実験に関するアジアワークショップ」を開催し、茨城大学の教員ほか、招へい者や引率者も含めた講演があった。招へい者は全員招待講演者としたので、特に大学院生には、その招待講演者としての待遇が今後の研究者としての自信につながるだろうと思われた。参加者数は30名と小さな規模であったが、活発な質問であふれた。帰国1日前の6月6日には、最先端の日本の科学技術が展示されている日本未来科学館(東京)見学を実施し、日本の科学技術を知ってもらった。
プログラムの成果および今後の展望
招へい者からは、「この国際学術交流が大変役に立った」、「新しい研究手法や研究のスタイルを学んだ」、さらに、「国同士のネットワークを拡大することができた」など満足度の高いアンケート結果を得た。
また、招へい者と受け入れ研究室の教員、研究者および大学院生との交流はもちろん、茨城大学国際交流会館に滞在した何人かの招へい者は、同会館に滞在中の留学生との交流が深まった。
選抜された招へい者は大変優秀で、研究も昼夜問わず行う方も多く、受入れ研究室の大学院生には、よい刺激になった。
今後も、これらの国々の方々と共同研究を進め、学術誌論文の掲載を目指すとともに、これらの送出し機関との学術交流を深化させ、受入れ研究室の教員の研究分野における各国との学術ネットワークを強化する。それにより、量子線科学に関する国際共同研究が進み、相手側にとっては、最先端の科学技術を通じた日本の学術文化の理解、我々にとってはアジア諸国の発展した学術文化の理解が進むだろう。
Cコース:科学技術研修コース
プログラムの成果
聖路加国際大学および国立感染症研究所は、アジア地域における研究者ネットワークを構築し、将来に渡ってアジアの感染症対策に資することをめざし、アジア諸国で感染症対策に当たる若手研究者を3カ年計画で招へいした。
招へい対象者は主に感染症疫学の分野で研究を行い、各国の実地疫学専門家養成コース(Field Epidemiology Training Program:FETP)の研修生や修了生とした。3年目となる2018年は、6月27日から7月6日の日程で、10か国1地域、27人の研修生が来日した。
アジア諸国と協力関係を強化し、強固な感染症対策ネットワークを構築していくためには、感染症疫学研究の最前線に位置するアジア地域の若手研究者が、各々の国での知見や経験について情報共有を行うとともに、相互の分析結果について深くディスカッションすることが必要である。
そのコンセプトのもと、1年目は「感染症分子疫学」をテーマに研修を開催し、ベトナム、タイ、シンガポール、韓国、台湾から9人を、2年目は「院内感染と疫学」をテーマに開催し、韓国、フィリピン、インドネシア、ベトナム、カンボジア、シンガポールから10人を、最終年度である3年目は、「生物統計」をテーマに開催し、モンゴル、タイ、ミャンマー、台湾から8人を招へいし、アジア21か国、1地域のうち、10か国からの研究者を招へいした。
これらの研修は、国内外で活躍している著名な疫学研究者からの指導により行われ、日本のFETPに所属する若手研究者等とともに受講し、活発な意見交換がなされていた。更に、両者の交流を図るため、当該分野に関するシンポジウムやワークショップを開催し、研究者間の交流を図った。これらのプログラムにより、アジア地域の感染症疫学研究を行っている若手研究者とのネットワークが構築された。
また、本プログラムでは、自治体における感染症対策の現場となる地方衛生研究所の見学を行った。これは、我が国の感染症対策における科学技術の活用の現状を知ることに直結するものであり、各国の参加者に感染症への対応の具体事例を示すことができた。聖路加国際大学では公衆衛生大学院の教員による「数理モデルと感染症」の講義を行うとともに、聖路加国際病院においては、我が国の最先端の検査診断技術や治療の見学を行った。これらのプログラムを通じ自国の感染症対策を振り返るきっかけになったと思われる。
3年間FETPという各国においてアウトブレイク対応などの感染症対策において最前線で対応する役割を担う若手研究者同士が、ディスカッションや意見交換、グループワークを実施することによって、各国の状況は異なるものの、感染症疫学における共通の課題を共有できたことは大きな成果であった。また滞在期間中、研修、シンポジウム、施設見学以外の交流においても、招へい者の各地域の文化の紹介があり、日本からも書道の実演やたこ焼きを振る舞うなど、文化的な交流を行い、お互いの国の理解も深まり、研修終了後も情報交換は続いている。さらに、国際学会や会議において再会する機会などがあり交流を深めるとともに、お互いの活躍を糧に切磋琢磨している。
アジア地域は社会経済的な状況が多様であり、各国によってその発展段階が異なることで、感染症について抱える問題も異なるものと考えられるが、さくらサイエンスプログラムで構築された若手研究者のネットワークはアジアにおける感染症対策に必要な情報共有とチームワーク、信頼感を熟成することに大いに寄与した。
今後の展望
本事業を通して構築された各国の若手研究者同士のネットワークが感染症疫学に関する共同研究や情報共有を促進し、日本を含め参加各国、地域における感染症対策の一つの有用なツールとして活用されることが期待される。