ガーナの水銀汚染と感染症リスクにワンヘルスの視点で挑む

取材日 2025年9月29日(Bコース)

東京農工大学農学研究院では、2025年9月15日から10月5日の21日間にわたり、ガーナ大学から大学生、大学院生、研究者、計8名を迎え、日本の学生らと共に、ガーナで進行中の環境問題に挑むB.共同研究活動コースのプログラムを実施しました。

チョコレートの原料となるカカオ豆の生産を主要産業とするガーナでは、近年、金採掘による水銀汚染の問題が深刻化し、生態系への悪影響、動物・人間の健康リスクが懸念されています。「昨年度、東京農工大学で実施された、さくらサイエンスプログラムA.科学技術体験コースに参加したガーナ大学の2名の獣医師がこの問題を無視できない重要な課題として報告したことが、本プログラムを企画するきっかけとなった」と、実施主担当者のオブライエン悠木子准教授は語ります。

プログラムの目標は「生態系の維持」「人と動物の健康」「環境汚染」をワンヘルス(One Health)としてとらえ、研究者の技術向上も含め、課題解決に向けた第一歩を踏み出すこと。持続可能な環境改善策の提案を目指し、日本・ガーナ双方の学生たちは、3つの研究室に分かれて研究活動を行いました。

■オンウォナアジマン研究室(バイオマスを活用した環境改善の効果を検証)

サトウキビから砂糖を製造する際に排出された搾りかす(バガス)など、廃棄される資源を利用した「バイオマスボード」の研究を進めているアジマン准教授はガーナ出身。岐阜大学で博士号を取得後、日本とガーナの架け橋として活躍しています。本プログラムでは、参加者たちに、バイオマスボードの作成から農作地への敷設、そして環境改善効果の検証方法を指導しました。

<参加者の声>

  • ガーナの環境汚染はとても深刻な状況です。農家の主な収入源がカカオ栽培なのですが、損失を出す例をたくさん見ています。また、貧困から子どもたちが学校に通えず、金採掘などの就労を余儀なくされていることも問題です。日本でもっとたくさんの技術を学んで、地域のために役立てたいです。(ガーナ大学 研究者)
  • ガーナ大学農学部には、日本と繋がりがある教授陣がたくさん在籍しています。私の指導教官もアジマン教授のもとで学んだ一人です。バイオマスボードの効果は素晴らしいです。その製造過程を学べたことは大きいです。(ガーナ大学 研究者)
取材写真1
取材写真2
取材当日、参加者たちは、実際にバガスを圧縮し、バイオマスボードを作成する作業を実践していました

■オブライエン悠木子研究室(動物感染症のリスクとの関連を解析)

オブライエン研究室では鳥類の感染症を中心に研究を進めています。本プログラムでは、公衆衛生の観点から動物感染症のリスク分析を実践しました。参加者たちは、妊婦さんの死亡にも繋がる感染症のルーツを探るべく、野鳥が生息する現場へ自ら足を運んでフンをサンプリング。取材日当日は、その野鳥のフンを検体として、DNA抽出とPCRによる分析を行っていました。

<参加者の声>

  • 日本は非常に研究に適した環境が整っていると思います。野鳥のフンをサンプリングし、研究室で確認、分析する作業はとてもわくわくする体験で、励みになりました。日本のとてもきちんとしているところが好きです。これからも日本との共同研究を続けたいです。(ガーナ大学 研究者)
  • 私は岐阜大学で学び、博士号を取得しました。日本と日本の研究者の皆さんには良い印象しかありません。今回は里帰りのような感覚です。今回、私の学生や後輩たちに、日本の素晴らしさを体験してもらえたことが嬉しいです。ガーナが抱える問題に向けて、日本と協力できることに興奮しています。(ガーナ大学 教員*)*引率者
取材写真3
真剣な表情で実験に集中する参加者たち

■渡邊泉研究室(土壌、動物における水銀汚染の評価)

渡邊研究室では、重金属汚染に立ち向かい、自然を守る研究を行っています。本プログラムでは、土壌の総水銀量を測定する手順を学び、実際に測定したデータの解析を実践しました。参加者たちは、協力し合いながら、ときには徹夜をしてデータをまとめたとのことです。取材当日に会議室を訪れると、中間報告会の真っ最中。活発な意見交換が行われていました。

<参加者の声>

  • ガーナでは違法な金採掘によって水域が汚染し、植物や動物に影響を与え、病気を引き起こしています。このプログラムに参加して水銀汚染について知識を学び、サンプリングの方法から実践できたことが嬉しいです。そして、たくさんの研究室の仲間たちと助け合いながら作業をして、多くの機会が広がりました。(ガーナ大学 大学生)
  • 日本の研究環境が好きです。日本の皆さんは礼儀正しく、日本の文化も大好きになりました。ガーナの悲しい現実は、違法採掘の規制ができていないことが問題だと思います。将来、日本で共同研究に参加したいです。(ガーナ大学 大学院生)
取材写真4
中間報告会で活発な意見交換をする参加者たち
取材写真5

<東京農工大学の大学生、大学院生の声>

  • 研究分野の違うガーナの皆さんと素晴らしい経験になっています。
  • 単なる交流ではなく研究をとおしての交流なので、英語でのコミュニケーションが大変なのですが、ChatGPTも活用しながらお互いに真剣にディスカッションをしています。
  • ガーナの皆さんはとても勉強熱心で、同じ研究者の卵として見習う点が多いです。良い刺激になりました。元々はそれほど国際志向ではなかったのですが、このプログラムに参加して初めて、将来は国際的な共同研究をしてみたいと考えるようになりました。

本プログラム期間中、参加学生たちは、大矢悠幾主任研究員(海洋生物環境研究所)「沖縄県離島の座間味島および東京都小笠原諸島における沿岸陸域生物(海浜植物および陸棲甲殻類)に対する漂着プラスチックごみを介した微量元素(重金属)汚染」、渡邊健太准教授(山口大学)「ブルセラ属菌・抗酸菌による人獣共通感染症」、高島康弘教授(岐阜大学)「ガーナとの感染症に関する国際共同研究を通じた国際協力」などの特別講義を受講し、ガーナで直面している課題を日本の研究者とともに議論する機会も設けられたとのこと。

本プログラムが、ガーナの課題解決に向けた本格的な共同研究の第一歩となることを、心から期待しています。