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日本・ケニア・エジプトの若手研究者らが
農作物の監視技術と基盤技術の確立に向け共同研究

取材日 2025年1月~3月(Dコース)

2024年度からスタートした「相補的年間交流コース」*に初めて採択された3件のうちのひとつ、九州大学では、ジョモ・ケニヤッタ農工大学(JKUAT、ケニア)、エジプト日本科学技術大学(E-JUST)との共同研究を2024年12月から2025年3月までの4か月間にわたって実施しました。テーマは「ドローンを使用した農作物の監視技術とその基盤となる無線通信・センシング技術の研究」です。JKUATはケニアにおけるトップクラスの農工系大学として知られ、E-JUSTは中東アフリカ地域での研究拠点・高等教育機関として急成長しています。九州大学とE-JUSTは「通信プロトコル設計」に関してすでに10年以上の共同研究の実績があり、今回、JKUATが新たに加わることで、連携基盤がさらに広がりました。

世界的な人口増加や気候変動に伴い、穀物生産量の増大と安定供給は持続的な社会を構築していくための課題のひとつです。これらの課題を解決するためには、ドローンなどで農作物の生育状況を効率的に監視する技術や、その基盤となる無線・センシング技術を確立することが不可欠となっています。

エジプトやケニアにおいて農業はGDPに占める割合が大きい主要産業であり、特にケニアでは、主食としての米の需要が高まっていることから、近年稲作が盛んに行われるようになりました。しかし同時に懸案事項となっているのが、害虫による農作物の被害です。なかでもジャンポタニシ(Apple snail、以下「タニシ」)による被害はかなり深刻で、効果的でかつ環境に負荷をかけない新しい検出・駆除方法が早急に求められています。そのような背景のもと、無線技術やドローンなどの最新技術を駆使することで、エコシステムに影響を与えることのない解決手段を探求するというのが今回の共同研究の目的です。

2024年12月のキックオフミーティングを皮切りに、翌1月にはJKUAT、E-JUSTから通信・農工分野の若手研究者たち、計6名を九州大学に招へい。九州大学のプロジェクトメンバーや関連分野の研究者たちと活発な意見交換、技術交流を行いました。

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その後、自国に戻った研究者たちとは2月に2度オンライン会議を実施、さらに議論を深めていきました。これらの活動を通じ、参加者からはさまざまなアイデア、技術提案がなされました。

そのいくつかを紹介すると、

  • RF波を使って熱でタニシを駆除する。ただし作物には害を与えない温度閾値を探し出す。
  • 年間産卵数3000個以上という繁殖力が高いタニシだが、幼虫のうちはまだ頑丈な殻ができていないので、比較的温度の低い熱で駆除できる。成虫になる前に駆除することが重要。
  • ドローンにマイクロ波センサーやRFセンサーを搭載して、タニシの活動や生息場所を正確にモニタリングする。
  • 集めたデーターを集積し、どの場所に出現する可能性が高いか、また農作物の被害はどの程度になるかをAIで予測するシステムを構築。
  • 電磁波や振動刺激も含め、タニシを農作物から切り離すために効果的な誘因物質の研究。
  • タニシ駆除による土壌への影響、全体のエコシステムに与える影響を査定する、など。
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そして3月には本プロジェクトのリーダー、牟田修教授(大学院システム情報科学研究院)を含む3名の九州大学メンバーがJKUATを訪問。広大な圃場でのドローンによる実験の様子や、タニシの被害の実情を視察、さらに農業関係の課題などについても関係者たちと広く意見を交換しました。また、現地で大学院生向けのセミナーを実施するなど、JKUATとの関係をより一層深めることができました。

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「将来的な共同研究の方向性や具体的な課題設定には、さらに議論の時間が必要ですが、E-JUSTも含め、3大学間で検討しながら連携を強化していきたい」と牟田教授は今後の抱負を語っています。

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JKUATにて。(右から二番目が牟田教授)

*「相補的年間交流コース」:さくらサイエンスプログラム(SSP)の一般公募プログラムに2024年度から新しく加えられたコース。インド・アフリカ諸国を対象とし、学生や若手研究者の相互交流(派遣・招へい・オンライン)を支援。従来のコースが短期間なのに比べ、最長1年間の長期交流プログラムとなっている。さらに海外から日本への招へいだけでなく、日本からも相手国に研究者を派遣するなど、相互交流による人材育成、頭脳循環が一層強化されている。