日中ハイレベル研究者交流会
~石炭燃焼とその低炭素に向けた利用~
SDGs7番目の目標として「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」というテーマが掲げられている。これには「先進的かつ環境負荷の低い化石燃料技術などのクリーンエネルギーの研究」といった内容が含まれる。実現には石炭エネルギーの高効率利用及びクリーン利用技術の開発促進が不可欠だ。本シンポジウムを通して同分野における最先端の技術革新について日中両国の交流と協力が強化されることを期待したい。
開催日時 | 7月28日(金) 9:30~19:00(日本時間) |
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開催形式 | Zoomによるオンライン開催 |
主催 | 科学技術振興機構経営企画部さくらサイエンス推進本部、 中国科学技術部外国専門家服務司 |
言語 | 英語 |
交流会パンフレットはこちら
プログラム:
Opening Ceremony Moderator: Xu Minghou |
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09:30–10:00 | Opening Address
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Session Ⅰ Coal Combustion and Low Carbon Utilization Moderator: Yao Hong |
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10:00–10:20 | Keynote Speech 1: Control of Ash Deposition in Pulverized Coal Combustion Boilers
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10:20–10:40 | Keynote Speech 2: Advantages, Disadvantages, Opportunities and Challenges of Chemical Looping Combustion
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10:40–11:00 | Keynote Speech 3: A Deep−Learned Approach for the Classification of Fly Ash Particles in Coal Combustion
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11:00–11:20 | Keynote Speech 4: Building Carbon Neutral and Reliable Energy System on basis of CCUS
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11:20–11:40 | Plenary speech 5: Inorganic Nanomaterials to Achieve Efficient Hydrogenation Reactions
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11:40–12:00 | Break |
12:00–12:20 | Keynote Speech 6: CO2 Mineralization Curing Technology for Coal Based Industrial Solid Wastes
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12:20–12:40 | Keynote Speech 7: Development of Novel Highly Efficient Conversion Methods of Low−Rank Coals and Biomass Waste into Electricity or Useful Products Ashida Ryuichi |
12:40–13:00 | Keynote Speech 8: Research Progress on Low Carbon Emission Technologies: Gas and Liquid Ammonia Combustion
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13:00–15:00 | Lunch |
Session Ⅱ Carbon Capture,Utilization and Storage Moderator: Yamauchi Miho |
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15:00–15:20 | Keynote Speech 9: Low Temperature Catalytic Oxidation of Short−Chain Alkanes
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15:20–15:40 | Keynote Speech 10: Adsorption of CO2 onto biomass−derived activated carbons
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15:40–16:00 | Keynote Speech 11: Micro CT and SEM characterization of CO2−induced wellbore cement alteration under geologic CO2 storage conditions
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16:00–16:20 | Keynote Speech 12: New concepts toward low−cost and safe CO2 storage
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16:20–16:40 | Break |
16:20–16:40 | Keynote Speech 13: High Temperature Combined functional materials for integrated CO2 capture and utilization
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17:00–17:20 | Keynote Speech 14: CO2 hydrogenation selectivity shift over In−Co binary oxides catalysts
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17:20–17:40 | Keynote Speech 15: Carbon−negative and Resource−integrative Biomass Conversion Based on Pyrolysis, Carbonization and Gasification
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Virtual Research Moderator: Zhao Yongchun |
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17:40–18:00 | Chinese Pioneer Case Research: Opportunities and Challenges of CCUS in China and Engineering Practice of China Energy
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Roundtable Discussion Moderator: Yang Yang |
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18:00–19:00 | Attendees:
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Closing Ceremony Moderator: Saha Bidyut Baran |
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19:00–19:20 |
Closing Address
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開催報告
2023年7月28日、「日中ハイレベル研究者交流会~石炭燃焼とその低炭素に向けた利用~」が日本側オンライン、中国側オフラインのハイブリッド形式で開催された。会議には日中両国から研究者や企業の代表者ら約20名が出席した。
シンポジウムでは日中両国の専門家15名が「石炭燃焼の高効率化・クリーン化」、「CO2の回収・貯留・有効利用(CCUS)」をテーマにそれぞれ最新の研究成果について講演を行った。
講演に続いて中国国家能源集団(CHN ENEGRY)が「中国におけるCCUSの可能性と課題、中国国家能源集団の実践」をテーマにビデオを上映した。また、同企業のカーボンニュートラル研究センター主任の徐冬氏がアジア最大規模の錦界火力発電所(陝西省)の事例を紹介した。錦界火力発電所はCO2回収技術を活用して成功を収めているが、さらに改善の余地があるという。
シンポジウムの後半ではパネルディスカッションが行われ、イギリス、ノルウェー、日本、中国4カ国の専門家が自国における石炭エネルギー利用及びその低炭素化やクリーン化に向けた政府の政策を紹介した。これにより、アジアとヨーロッパには石炭利用とその低炭素化に向けた取組の進展に大きな開きがあることが浮き彫りになった。
イギリス・アストン大学のPaula Blanco−Sanchez教授によると、英国政府は比較的早い段階(2009年)で「低炭素移行計画(The UK Low Carbon Transition Plan)」を発表し、最近では「国家水素戦略」に基づいて、水素製造から利用までの全過程における低炭素化を推進している。また、イギリス北部に位置するドラックス発電所は大規模石炭火力から100%バイオマス発電への転換を遂げたという。
ノルウェー・エネルギー研究所のAntonio Oliveira博士によると、ノルウェーでは再生可能エネルギーがエネルギー消費量全体の50%を、発電分野では98%を占めるという(中国、日本共に20%台、英国は40%台)。また、同国では2000年代半ばからバッテリー使用の電気自動車に巨額の投資がなされたようだ。そして政府の減税措置なども功を奏し、現在ノルウェーの自動車販売台数の80%が電気自動車だという(2022年9月21日開催の日中ハイレベル研究者交流会~脱炭素成長~ のパネルディスカッションによると、2022年時点での日本の電気自動車販売の全体に占める割合は1%であった。また、中国で電気自動車を含む新エネルギー車が全体の販売台数の50%に達するのは2030年と予想された)。
そして、ノルウェーのグリーン輸送を実現するため、電気船舶がEV自動車と共に一役買っているという。フィヨルドに囲まれたノルウェーでは、湾岸部に孤立した村と都市を結ぶ移動手段として、電気フェリーが100隻以上導入されているようだ。
一方、中国や日本はヨーロッパとは事情が大きく異なる。パネリストの于敦喜教授によると中国では現在でも電力の60%が石炭の燃焼によるという。中国は世界最大の石炭生産国であり、消費国であり、中国のエネルギーミックスで石炭は常に支配的な役割を担ってきた。そしてこうした石炭へのエネルギー依存度の高さは当面続くと予想される。このような状況の中で、中国政府はクリーンな石炭技術を導入し、炭素消費を削減する様々な政策を推進し、低炭素エネルギーへの転換を目指しているという。
閉会式では日本側の座長を務める名古屋大学の成瀬一郎教授、中国側の華中科技大学の徐明厚教授が交流会の総括を行った。徐教授は、世界各国の専門家がオンラインで繋がり最新の研究成果や情報を共有する「日中ハイレベル研究者交流会」はカーボンニュートラルやエネルギーのクリーン化において重要な役割を果たしているとし、主催者側に謝辞を表した。成瀬教授は本交流会が「持続可能で革新的な解決策へのコミットメントを共有したことで成功をおさめた」と述べた。
イベントの模様はインターネットでライブ配信され、大学関係者を中心に日中両国でアクセス数が1万回を超えた。