脱炭素成長

日中ハイレベル研究者交流会
~脱炭素成長~

 日中両国の政府はいずれも2020年にカーボンニュートラルの目標を確立し、低炭素社会への転換を実質的に進めてきた。高炭素から低炭素、さらにゼロ炭素へとその理念を引き上げていくには、国家間の垣根を越えた連携が不可欠である。各分野におけるカーボンピークアウト、カーボンニュートラル、ゼロカーボン成長の実現を目指して、日中両国の科学者や企業家が多分野において共同で研究開発を進め、新しい研究体系を構築する必要がある。今回の活動を足がかりに、今後の協力関係がより深まることを期待したい。

開催日時 9月21日(水) 9:30~19:00(日本時間)
開催形式 Zoomによるオンライン開催
主催 科学技術振興機構経営企画部さくらサイエンスプログラム推進本部、中国科学技術部外国専門家服務司
言語 日中同時通訳
参加費 無料

交流会パンフレットは こちら

プログラム:

開会式
司会:賀克贺(中国工程院院士、清華大学環境学院教授)
09:30–10:00 開会式挨拶
  • 李昕(中国科学技术部外国専門家服务司副司长)
  • 岸輝雄(科学技術振興機構さくらサイエンスプログラム推進本部長)
  • 曾嵘副学長(清華大学)
  • 明日香壽川(東北大学東北アジア研究センター・同大学院環境科学研究科教授)
10:00–10:05 集合写真
Session 1:運輸部門のゼロエミッション
司会:王賀武(清華大学車両・運載学院教授)
10:05–10:25 Keynote Speech 1:電気自動車新エネルギー動力システム研究の進展
欧陽明高(中国科学院院士、清華大学車両・運載学院教授)
10:25–10:45 Keynote Speech 2:日本における燃料電池自動車の普及拡大に向けた戦略・課題および高齢化社会のニーズに対応するための次世代モビリティ(CASE & MaaS)の開発状況
TRENCHER Gregory(京都大学大学院地球環境学堂准教授)
10:45–11:05 Keynote Speech 3:新エネルギー自動車専用モータ駆動技術の開発
温旭輝(中国科学院電気工学研究所教授)
11:05–11:15 休憩
Session 2:脱炭素建築
司会:楊旭東(清華大学建築学院副院長・教授)
11:15–11:35 Keynote Speech 4:建築分野におけるグリーン・低炭素転換
江億(中国工程院院士、清華大学建築学院教授)
11:35–11:55 Keynote Speech 5:日本におけるネットゼロエネルギー建築
田辺 新一(日本建築学会会長・早稲田大学創造理工学部建築学科教授)
11:55–12:15 Keynote Speech 6:都市共通の3つの分野における炭素削減へのロードマップ
仇保興(中国城市科学研究会理事長)
12:15–12:35 Keynote Speech 7:2030年、2050年に向けて日本の建築分野で必要なエネルギー消費の削減を実現するために
澤地孝男(国立研究開発法人建築研究所理事長)
12:35–14:00 休憩
Session 3:脱炭素社会の実現に向けたロードマップ
司会:李政(清華大学気候変動・持続可能な発展研究院常務副院長)
14:00–14:20 Keynote Speech 8:日本の脱炭素転換にむけたエネルギー効率改善シナリオ
歌川学(国立研究開発法人産業技術総合研究所主任研究員)
14:20–14:40 Keynote Speech 9:カーボンニュートラルとクリーンエアの実現に向けたロードマップ
賀克斌(中国工程院院士、清華大学環境学院教授)
14:40–15:00 Keynote Speech 10:日本の再生可能エネルギーの供給シナリオ
槌屋治紀(株式会社システム技術研究所所長)
15:00–15:20 Keynote Speech 11:脱炭素成長におけるエネルギー転換の論理
李俊峰(中国エネルギー研究会常務理事、国家気候戦略センター初代主任)
15:20–15:40 Keynote Speech 12:日本の脱炭素シナリオの経済効果
明日香壽川(東北大学東北アジア研究センター・同大学院環境科学研究科教授)
15:40–15:50 休憩
先進事例ビデオ放映
司会:楊旭東(清華大学建築学院副院長・教授)
15:50–16:10 中国側ビデオ:「中建科技のダブルカーボンへの道」
解説者:王玺(中建科技グループ グリーン開発研究センター副総経理)
16:10–16:30 日本側ビデオ:「広がるカーボンニュートラル~中小企業の取り組み~」、出典(環境省)
https://www.env.go.jp/earth/carbon-neutral-messages/
パネルディスカッション
16:30–17:25 1. 運輸部門のゼロエミッション
司会:王賀武 清華大学車両・運載学院教授
  • 中国側パネリスト
    ● 廉玉波(BYD副社長)
    ● 方海峰(中国自動車技術研究センター首席専門家、中国自動車戦略・政策研究センター副主任)
    ● 劉永東(中国電力企業連合会副秘書長)
  • 日本側パネリスト
    ● TRENCHER Gregory(京都大学大学院地球環境学堂准教授)
    ● 歌川学(国立研究開発法人 産業技術総合研究所主任研究員)
    ● 内藤克彦(京都大学大学院経済学研究科特任教授、エネルギー戦略研究所株式会社シニアフェロー)
17:25–18:00 2. 脱炭素建築
司会:楊旭東 清華大学建築学院副院長、教授
  • 中国側パネリスト
    ● 徐偉(中国建築科学研究院建築環境とエネルギー研究院院長)
    ● 李暁江(中国城市企画設計研究院院長)
    ● 張傑(清華大学建築学院教授)
  • 日本側パネリスト
    ● 吉野博(東北大学名誉教授、重慶大学特聘教授)
    ● 伊藤一秀(九州大学総合理工学研究院教授)
    ● 天野賢二(大金(中国)投資有限公司シンセン研究開発公司総経理)
18:00–18:30 3. 脱炭素社会実現に向けたロードマップ
司会:李政(清華大学気候変動・持続可能な発展研究院常務副院長)
  • 中国側パネリスト
    ● 欧訓民(清華大学核エネルギーおよび新エネルギー技術研究院副研究員)
    ● 楊秀(清華大学気候変動・持続可能発展研究院副研究員)
  • 日本側パネリスト
    ● 高瀬香絵(一般社団法人 CDP Worldwide−Japan シニアマネージャー)
    ● 明日香壽川(東北大学東北アジア研究センター・同大学院環境科学研究科教授)
    ● 槌屋治紀(株式会社システム技術研究所所長)
閉会式
賀克斌(中国工程院院士、清華大学環境学院教授)
18:30–18:45 スピーチ、円卓会議の総括
  • 明日香壽川(東北大学東北アジア研究センター・同大学院環境科学研究科教授)
  • 賀克斌(中国工程院院士、清華大学環境学院教授)
18:45–18:50 閉会式挨拶
  • 科学技術振興機構北京事務所副所長 横山聡

開催報告

 2022年9月21日、「日中ハイレベル研究者交流会~脱炭素成長~」がオンラインとオフラインのハイブリッド形式で開催された。会議には、日中両国から研究者や企業の代表者ら約30名が出席した。

日中ハイレベル研究者交流会_写真

 今回の活動では、清華大学の環境学院、同大学車両・運載学院、建築学院、気候変動・持続可能発展研究院、核エネルギー及び新エネルギー研究院が共同で企画運営に携わった。そして「運輸部門のゼロエミッション」、「脱炭素建築」、「脱炭素社会実現に向けたロードマップ」の3つのサブテーマが設定され、日中両国の12名の専門家が同テーマに関する最新の研究成果についてスピーチした。

 交流会後半では上記3つのサブテーマに関してパネルディスカッションが行われ17名の専門家が意見交換を行った。

 第1セッション「運輸部門のゼロエミッション実現」に関するパネルディスカッションでは、日中双方の登壇者が自国の電気自動車普及率50%達成の年代を予測した。中国側参会者3名は共に、中国の電気自動車、水素燃料電池自動車、プラグインハイブリッドカーなど新エネルギー自動車(NEV)が新車販売50%を達成する年代について、国の計画より5年早い2030年と予測した。一方、日本は現状で電気自動車が新車販売に占める割合は1%、欧州の10分の一程度と非常に低い。日本側の登壇者からは、仮に政府が政策を加速しても、電気自動車50%実現は2035年前後になるという見方が提示された。また、国土の狭い日本ではNEV普及に伴う充電スタンドの拡充が困難で、これが普及のネックになるという懸念が示された。日本では業務ビルや集合住宅における充電スタンドの設置が普及拡大のキーになるとの指摘もあった。

 第2セッションでは、「脱炭素建築」における意見交換が行われ、東北大学の吉野名誉教授が過去50年における日本の脱炭素建築に関わる政策や取組の歴史について詳細を説明した。そして、日本では省エネ関連の技術開発において大手の建設会社が研究所を持ち、独自に或いは大学と共同で技術開発を進めていて、これが大きな推進力になっていると語った。また、ゼロカーボン発展のためのブレークスルーとして、次世代太陽電池など再生エネルギー利用効率を最大化するための技術開発推進及び既に補助金の対象である「LCCM住宅(ライフ・サイクル・カーボン・マイナス)」を広めることが重要であると指摘した。

 「脱炭素社会実現に向けたロードマップ」をテーマとした第3セッションのパネルディスカッションでは、本交流会の日本側座長を務める東北大学の明日香教授が日本の現状や課題を紹介した。氏は、石炭火力発電所が今日でも新たに建設されるなど、現状では日本の政策は不十分であるという見解を述べた。また、電力・建築・運輸など多くの分野において脱炭素化が遅々として進まないのは、温暖化問題に対する政府・国民の識見程度の低さが原因であると指摘した。

 閉会式では、中国側座長賀克斌教授が、本交流会で日中両国の専門家から「脱炭素社会実現には新しいシステムの構築が必要である」という強いシグナルが発せられたと述べた。氏は脱炭素社会の実現には省エネとエネルギー資源の高効率利用以外に、エネルギー機能とエネルギー使用を相互に作用させるシステムを構築する必要があると述べた。自動車はエネルギーを使用する設備であると同時にエネルギー貯蔵システムという機能をも備える点などを指摘し、車、建築などの分野でそれぞれネットワークの構築が重要になると語った。また、解決すべき課題として、風力や太陽光エネルギーを大規模に安定して利用する技術が不十分である点を指摘した。そして、水素エネルギー、アンモニアエネルギー等、本来は環境問題解決のために開発された新エネルギー自体が環境や生態系の新たな脅威になる可能性に触れ、アセスメント及び対応の重要性を強調した。最後に本交流会を通して日中双方が互いの脱炭素に関わる研究開発計画を知り、理解と交流を深め、実り豊かな交流が為された事を慶び、早期に対面の交流が実現することを期待すると述べた。

 イベントの模様は日中英の3カ国語で生配信され、北京を中心に日中両国で約一万の訪問数がカウントされた。