2021年8月のレポート

マレーシアにおけるCOVID-19の状況、パンデミックが始まってからの最新情報

Nik Mohd Faiz Bin Nik Mohd Azmi、獣医師、博士
Universiti Putra Malaysia(プトラマレーシア大学)獣医学部、獣医臨床学科上級講師
(マレーシア、セランゴール州、セルダン)

今日、2021年9月5日、マレーシアで新たに感染が確認されたCOVID-19の1日あたりの感染者数は20,396人でした。数字は数週間前からこの程度で推移しており、1日の感染者数は約2万人で、パンデミックが始まってからの累積感染者数は約185万人となっています(図1)。総死亡者は約18,500人です。マレーシアは14の州に分かれていますが、患者数が最も多いのはセランゴール州と私が住む首都クアラルンプールです。このセランゴール州だけでも毎日約6,000~7,000人が感染しています。

ロックダウン

2020年3月に活動制限令(MCO: movement control order)が実施されて以来、マレーシアではCOVID-19の蔓延に政府が苦慮する中、様々なフェーズのロックダウンが行われてきました。ここでは、ロックダウン(マレーシアでは「活動制限令(MCO)」と呼ばれています)の様々なフェーズについて要約します。パンデミックの第1波が2020年の第一四半期に始まったときに、政府は活動規制令を実施しました。それは、全員が家にいなければならず、必需品の購入のために世帯のなかで一人だけ家を出ることが許されるというものでした。2020年の半ばには患者総数が1桁に減少したため、政府はMCOを緩和し、条件付き活動制限令(RMCO: Recovery Movement Control Order)を開始しました。

しかし、それも長くは続きませんでした。2021年1月には症例報告が急増し、病院が限界に達したため、2回目のMCOであるMCO2.0が全国で実施されました。一部の地域では、強化された活動制限令(EMCO: Enhanced MCO)が実施されましたが、これは特定の地域での症例数が非常に多くなった場合の措置でした。EMCOの実施地域は、有刺鉄線で閉鎖され、軍や警察が人々の移動を防ぐために警備を行います。EMCO施行中は、その地域に食料が提供されます。現在、MCOは州の状況に応じて実施されており、症例数の少ない州ではRMCOが、多い州ではMCOが実施されています。

経済的影響、政府の役割、援助

パンデミックは、マレーシアの経済全般、そして企業や個人に深刻な影響を与えました。多くの企業が破産を宣告しましたが、その様子はニュースやソーシャルメディアで見ることができます。多くのホテルが恒久的な閉鎖を発表しました。市民に関しては、多くが減給と職・収入の喪失に苦しんでいます。

マレーシア政府は、様々な非政府組織(NGO: non-governmental organizations)、企業や外国政府とともに、マレーシアにおけるCOVID-19パンデミックの経済的影響に対応するため、様々な財政援助や救済プログラムを導入しました。政府は影響を受けた家族にいくつかの資金援助を行い、すべてのローンの一時停止を容認し、さらに、市民は自身の従業員積立基金(EPF: Employee Provident Fund)からの引き出しが認められています。

また、多くのNGOが、募金や必要な物資の寄付を通じて、パンデミックの影響を受けた人々の苦しみを和らげるための支援を行っています。マレーシアの人々は、助けを必要とする隣人がいないかどうかを尋ね回ることで、お互いに助け合おうとしています。このプロセスを支援するために、市民によっていくつかの携帯アプリが開発されています。スマートフォンアプリの1つは、支援が提供できる家と必要な物資の支援が必要な家を表示することを目的としています(図2)。2021年初頭に、2回目のMCOがスタートした時、「白い旗」を意味する 「ベンデラ・プティ(Bendera Putih)」 と呼ばれる運動も行われました。食料や生活必需品が必要な家族は、屋外に白い旗を掲げることで助けが必要だと隣人に知らせることができます。この運動はマレーシアの人々に支持され、お互いの助け合いが行われました。

診断と治療

パンデミックが始まって以来、診断は主にPCRとRapid Test Kit(RTK)を介して行われています。これは公立病院や私立病院で受けられます。自分がウイルスにさらされたと思う人は、政府の診療所に行けば無料で検査を受けることができますし、民間の診療所に行けばより迅速に検査を受けることができますが、その費用は自己負担です。陽性反応が出た場合は、国に届け出て、自宅隔離が認められるのか、隔離センターに行かなければならないか、決定を待たなければなりません。その判断は、重症化リスクがあるか、重症化リスクのある人と同居しているか、アパートなど自力での隔離が不可能な場所に居住しているか、に基づいて行われています。現在のところ、ステージ4と5の患者はICUに、それ以外の患者は隔離センターに収容されます。

治療に関しては、病院では標準的な治療が行われ、患者は対症療法と支持療法を受けました。ソーシャルメディアでは、多くの人が、伝統的手法で症状を抑制するための様々な方法を共有しています。その一つが、クローブを煮てその蒸気を吸い込むというものです。マレーシアもまた、COVID患者へのイベルメクチンの使用を推進する世界的な動向の影響を受けています。マレーシア政府は、十分な科学的データが集まるまで、イベルメクチンの使用を許可すると発表しました。 しかし、多くの人がブラックマーケットでイベルメクチンを入手できる方法を自分で見つけようとしていました。マレーシア中の獣医師たちも、一部の人たちからイベルメクチンを売るように圧力をかけられていました。

マレーシアでのワクチン接種は順調に進んでいます。現在までに、人口の約48%がCOVID-19ワクチンの2回接種を受け、62.5%が少なくとも1回の接種を受けました(図1)。マレーシアは、ファイザー、シノバック、アストラゼネカの3種類のワクチンを輸入しました。当初、多くの人がワクチン接種をためらっていました。しかし、厳しいキャンペーンが行われ、接種した人からあまり悪い副作用が報告されなかったことから、多くの人がワクチン接種に登録しました。他の国と同じように、私たちも一部のグループによるワクチン接種反対運動に直面しています。政府はこの動きに対抗するために、ワクチンを接種した人だけが公共の場に出入りしたり、身体的に仕事に参加できたりすることを認めるという別のルールを設けています。私たちは、10月末までにすべての成人にワクチン接種を行いたいと考えています。

個人的な経験

私は大学で講師・研究者として働いていますが、パンデミックは私の仕事やパフォーマンスに大きな影響を与えました。研究に必要な生きた動物を飼うことができず、細胞培養も維持できないため、実験にも影響が出ました。皆が在宅で働いているので、仕事をやり遂げるのはとても難しい状況にあります。

教えることも大きな課題です。私の大学では全部で500人の獣医学学生を教えなければなりません。学生の中には、インターネット接続やオンライン学習機器などについての困難な問題に直面している人もいます。インターネット接続の問題でオンライン試験に参加できない学生もいますので、学生の都合に合わせて何度も試験を繰り返し行う必要があります。また、授業に出席してもらえるよう、金銭的な余裕のない学生には、私の古い携帯電話やノートパソコンを貸与しています。さらに、私たち学部の講師は、寄宿舎で孤立している学生を支援するために、教員から寄付金を募りました(図3)。

中にはオンライン教育ではあまり学べないと考え、学期を延期する学生もいます。私たちは彼らの決定を尊重しますし、それは彼らにとって最善の選択かもしれません。

要約

結論として、パンデミックは経済的、精神的、身体的にあらゆる角度から私たち全員に影響を与えています。パンデミックは、私たちがより強くなるための試練であり、私たちの自我と人間性を試すものです。パンデミックが、世界が恐怖や孤立主義を押し返し、代わりに希望や連帯感、グローバルコミュニティの共有意識に向かうきっかけとなることを期待します。

図1.マレーシアのCOVID-19症例とワクチン接種プログラムの統計。マレーシア保健省より入手("Juta "は百万の意味)
図2.これは、パンデミックの際にお互いに助け合うためのアプリのスクリーンショットです。赤い丸は生活必需品を必要としている人を意味し、青い丸は与える余裕があることを意味します。
図3.プトラマレーシア大学UPM(Universiti Putra Malaysia)獣医学部の卒業生とスタッフは、寄宿舎で孤立しているすべての獣医学部の学生にフードバンクと食料品を提供するために寄付を集めました。
図4.症例数が多い場所では、強化された活動制限令(EMCO)が施行されました。有刺鉄線が地域の周辺に設置され、人の出入りができないようになっています。
図5.父はCOVID-19のワクチン接種を受けました。
図6.ここにいる全員がCOVID-19陽性で、自宅での隔離か隔離センターでの隔離かを決めるために行われる、医師による健康診断の順番を待っていました。

注)原文からの和訳はJSTによるものです。正確な表現やデータについては、英語原文をご参照ください。(原文はこちら