バングラデシュにおける新型コロナウィルスのパンデミック
2020年5月1日
現在の状況
中国湖北省で新型コロナウィルスが発生したことを受け、政府の関係機関である疫学・疾病管理研究所(IEDCR)は、WHOのガイドラインに沿って状況観察を実施しました。WHOによる緊急事態宣言により、当初の懸念事項であったスクリーニングが行われないまま、学生を含む多くの人々が2月中旬までに中国からバングラデシュへと帰国し、その後、政府は新型コロナウィルスのパンデミックへの準備を進めました。新型コロナウィルスがヨーロッパ諸国、特にイタリアに甚大な影響を与えたとき、ヨーロッパや中東、そして近隣の東南アジア諸国からも多くのバングラデシュ人が3月に様々なルートを辿って帰国し、彼らはとても簡易な体温検査のみで通関しました。政府は帰国者のために機関による検疫を手配しましたが、彼らは滞在施設の不足を理由に検疫を拒否しました。その後、彼らは、引き続き検疫機関に隔離を指示され、拒否した者には外出自粛ガイドラインに沿って自宅で自粛を要求されるも、これらを拒否。政府は彼らの自宅における外出自粛を保証するために地方管理を強化しましたが、適切な検疫は維持されませんでした。これにより、バングラデシュはパンデミックの時期へと突入しました。
IEDCRは新型コロナウィルスの状況を綿密に観察し続け、2月初旬頃から新型コロナウィルスの唯一の検査機関として検査を開始しました。最初の症例は3月8日に報告され、最初の死者は早くも2020年3月21日に報告されました。最初に検出された3人のうち、1人はイタリア出身で、もう2人はその患者との濃厚接触者でした。症例数は4月中旬までは少なく、首都ダッカが中心でしたが、今では国内ほぼ全ての地域にて新型コロナウィルスの陽性患者が確認されています。IEDCRは、地域コミュニティでの集団感染をも確認したため、健康衛生に関する緊急事態を宣言し、ナラヤンガンジ(ダッカに隣接する)を国内での感染の震源地とすることを発表しました。
現在までに、合計8,238人の新型コロナウィルス感染者(検査数70,239人のうち)と170人の死者が報告され、その中で174人の陽性患者が回復しました。また、国内の約79%の患者が在宅で治療を受けているため(保健省発表)、実際の回復状況は記録されておらず、公式の回復状況データにも含まれていません。現在までの24時間の間に、641人の陽性患者と15人の死亡が報告されています。(陽性患者)全体の11%が医療従事者であり、治安部隊やその他第一線の行政職員が多くの患者を占めており、政府の懸念事項となっています。
時間の経過とともに、検査センターの数(現在は30以上に近い)と検査数も増加傾向にあります。検査数の増加に伴い、報告される症例数も増加しました。現在では、毎日約5,000件のPCR検査が行われていますが、人口密度の高い(1億6000万人)この国ではまだ不十分です。
検査数が限られているために、人々は現在の状況がパンデミックのピークであるかどうか未だ確信を持てていません。政府は、この国におけるパンデミックの状況を明確に見出すために、毎日最低でも1万人に対してPCRテストを実施する必要性があり、その実施のためテストセンターの数を拡大しようとしています。政府当局は、統計から5月の終わりまでには、1,000人の死者と計50,000人もの感染者で出ると予想しています。感染が拡大した当初、防護具やマスク、テストキットが不足していましたが、今では政府は十分な数の防護具、マスク、テストキットを保有していると発表しています。一部の現場作業員は、十分な防護用品を得られないと主張し、一部の医療従事者は、異なるニュースチャンネルを通じてマスメディアに供給された 防護具の品質についての疑問を呈しました。そのため、政府は現在、防護具やその他の防護用品の量と質を厳しくチェックしています。
政府がとった措置
国家委員会は、バングラデシュにおける新型コロナウィルス感染者の発見に伴い結成され、国民の危機意識強化と、状況観察を通じて必要な対策を講じます。まず、3月18日には、すべての教育機関の閉鎖が発表されました。最近では、シェイク・ハシーナ首相が記者会見で、このままでは9月開校を検討しなければならないと述べています。パンデミックの進展に伴い、感染の拡大を抑制し、ソーシャルディスタンスを保つため、政府は3月26日から4月3日までの間は休日とし、すべての人々に自宅待機を要請。また新型コロナウィルスに関する健康規則を遵守するよう国民に推奨しました。ウィルスの感染状況を考慮して、現在、外出自粛令は2020年5月5日まで延長されています。この発表を受け、国民はパニックに陥り、多くの人々がダッカから家族のもとに戻るため全国各地から移動し、さらに感染拡大のリスクを高めました(後に実施された接触者追跡の結果、他の地域で検出された患者の多くはダッカやナラヤンガンジから移動してきた人々であることが判明しました)。移動を制限するために、政府は3月26日から医療や食品、薬品配送など緊急を要するもの以外は、あらゆる種類の公共交通機関(道路、水路、航路)を封鎖し、家庭や公共、宗教施設でのあらゆる集会を制限、国境をも閉鎖しました。人々は(自粛)政策により自宅で待機し、礼拝も全て家で行っています。外出は、食品や薬品の買い出しのみ許可されます。3月25日にはショッピングセンターなども閉鎖されました。多くの地域では感染拡大を抑えるために、感染事例が報告された後、ロックダウンが実施されています。
政府と技術委員会は、最前線に立つ医療従事者を保護し、陽性患者に適切な医療施設を提供するため、防護服、マスク、検査キット、感染症専用病院、酸素ボンベ、ICU、人工呼吸器、全国の遠隔医療サービスの管理、死者のために適切な葬儀の手配など、かなり早い段階で対策を講じてきました。しかし、国民からすれば、膨大な人口の前ではこれらの対策だけでは不十分と考えています。国や地方の行政や治安部隊は、都市部と農村部でソーシャルディスタンスを保つよう日々働きかけており、市場や医療従事者も最善の努力をしています。
経済危機に対処するために、政府はアパレル部門や様々な産業、低・中・高規模農家、中・低所得・無収入の人々を対象に、約100万BDT(GDP全体の約3%)の財政支援策を実施することを宣言しました。さらに、政府は現場で働く労働者への激励補助金と財政保護を実施しました。
政府はボロ米を収穫し、早期の洪水から守るために、複合収穫機やリッパーマシンを農家に提供しました。すでに水田の約70~80%が収穫されています。これはパンデミック時の食糧危機問題を克服するための良い取り組みであり、国民としてもとても良いニュースです。
パンデミック後の経済危機と食糧危機に対処するために、首相は農業に目を向け、すべての人々に耕作可能な土地を隅々まで利用するよう促しました。操業停止の状況を考慮して、政府だけでなく、様々なNGO、政党、政治家、民間企業、個人が低所得者に対して食料を配布しています。国民から批判の声も上がりますが、アパレル産業は、適切な健康ガイドラインを維持することを条件に、2020年4月26日から生産を開始する許可を得ています。
新型コロナウィルスの影響
他の国と同様、バングラデシュもまた、主要な送金源(アパレル産業や駐在員の収入)が打撃を受け、経済危機に陥っています。また国内でも、多くの人々が職を失い、再び貧困ラインの下に割り入ることを恐れています。
このパンデミックでは、約4,000人の学生が授業に参加できなくなると予想されています。政府は高校生には録音された講義をテレビを通じて放送し、私立大学ではオンライン授業を実施していますが、ほとんどの公立大学での教育活動は完全に休止されています。
また、新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、バングラデシュの多くの開発プロジェクト(パドマ橋、メトロ鉄道など)も停止しています。
2020 年は「ムジブ・ボルショ」(国家の父の生誕 100 周年)と宣言され、バングラデシュの人々にとって祝賀の年になると期待されていました。しかし、新型コロナウィルスにより、政府はすべてのプログラムを中止しました。また「ポヘラ・ボイシャク」(ベンガルの新年)の祝賀会も全てキャンセルとなりました。ほとんどがイスラム教徒であるバングラデシュは、いまだラマダン(5月末)後の宗教的なお祭りを祝うことを期待しています。これらは、国民の精神的な健康だけでなく、社会にも多大なる影響を与えています。これを克服するために、人々は家族と時間を過ごし、栄養価値の高い食品を食べ、定期的に運動し、音楽を聴き、ヨガ、ガーデニング、読書などで時間を過ごすことを私はお勧めします。私は家にいて、家族との時間やソーシャルメディアを利用して、同僚、学生、友人、親戚と連絡を取り合い、運動をしたり、映画を見たり、科学雑誌を読んだり、高等教育を受ける機会を探したりしています。
ほとんどの人は政府の指示に従おうとしていますが、1ヶ月以上自粛をしていると飽きてしまう人もいれば、マスメディアの忠告にも関わらず、外出する人もいます。人々は仕事とお金を求めて外出しなければいけないと主張します。しかし、政府当局は、国民に自宅で自粛するよう何度も呼びかけています。他の多くの国と同様に、政府は現在、適切な制限と、ソーシャルディスタンスを保ちながら規制を緩和し、緊急を要する産業を再開することを考えています。
今回のパンデミックを受けて、バングラデシュの人々は、政府が医療分野や関連研究にもっと投資し、将来のパンデミックに備えるために、国全体で組織化された医療と監視システムを確立すべきだと考えています。
最後に、このパンデミックから人々を救い、国を救い、世界を救うために戦っているすべての人々に敬意を表したいと思います。どんなに空が暗く見えても、太陽は必ず再び輝きます。
Saifur Rahman
2017年さくらサイエンスプログラム参加者
注)原文からの和訳はJSTによるものです。正確な表現やデータについては、下記の英語原文をご参照ください。
COVID-19, The Pandemic in Bangladesh