2021年8月のレポート

アルゼンチンにおけるCOVID-19の状況

Ami Watanabe
Faculty of Pharmacy and Biochemistry, Juan Agustín Maza University
(ファンアグスティンマザ大学、薬学・生化学部、アルゼンチン、メンドーサ)

アルゼンチンは世界で最も長い隔離期間を経験した国の一つです。COVID-19による最初の死亡例に直面した後の、早期の隔離の実施は、新規症例の大量増加を防ぎ、医療システムの崩壊を回避するための適切な判断ではあったのですが、このような広範囲に及ぶ厳格な強制隔離(2020年3月20日~2020年11月9日)により、COVID-19は健康問題だけでなく、社会・経済的な問題も引き起こすことになりました。貧困の増加、うつ病、不安の増加は隔離がもたらした影響の一部です。隔離の主な目的は、新規感染者や死亡者の大幅な増加を防ぐことでしたが、残念ながらそれらを防ぐことはできませんでした。

2021年8月27日、アルゼンチンでは新たに5,807人の感染者と153人の死亡者が出ており、これまでに確認された感染者数は合計5,167,733人、死亡者数は111,270人となっています。

2021年8月27日、アルゼンチンでは新たに5,807人の感染者と153人の死亡者が出ており、これまでに確認された感染者数は合計5,167,733人、死亡者数は111,270人となっています。

隔離終了後、マスクの使用や密閉空間への人の立ち入りを最小限にするなどの予防措置を講じた上で、徐々に業務活動が再開されています。当初、スポーツや文化活動は休止されていましたが、合唱のクラスのようにバーチャル授業を実施したケースもありました。その後、スポーツ活動の場合のように、屋外での授業が行われるようになりました。現在、これらの活動は、手順を守り社会的距離を保つことで、密閉空間で行うことができます。社会的集会も認められ、集会場所が住宅やアパートの場合には最小限の人数で行うことができ、公共スペースや屋外の場合では人数制限はありません。

アルゼンチン、メンドーサにあるサン・マーティン総合公園での野外活動

教育については、多くの学校や大学では遠隔教育が継続されていますが、対面式の授業が徐々に戻ってきています。まずは、最小限の人数でグループを作り、机を離し、換気された教室で、予防接種を受けた教師が授業を行っています。

ワクチン接種により、COVID-19の重症例や合併症は減少しています。現在、数種類のワクチンが無償で国民に投与されています。それらは、スプートニクV、シノファーム、アストラゼネカ、モデルナです。1回接種の合計は27,703,975人(全人口の61%)、2回接種済みの人は約13,704,714人(全人口の30%)となっています。現在、18歳以上と12歳以上で危険因子(糖尿病、肥満、心血管疾患、呼吸器疾患、慢性腎臓病など)を有する人は誰でも接種を受けることが可能です。

アルゼンチンで最も流行しているSARS-CoV-2の変異株として、ガンマ変異株(P.1、マナウス)、ラムダ変異株(C.37、ペルー)、アルファ変異株(B.1.1.7、イギリス)が挙げられます。最近、デルタ変異株(B.1.617.2、インド)がアルゼンチンに入ってきましたが、まだ主流にはなっていません。

アルゼンチンにおいて、COVID-19の診断法は、RT‐PCRとRapid Antigen Test(迅速抗原検査)です。ワクチン接種を受けた人やCOVID-19に罹患したことがある人で、生じた自己抗体レベルを知りたい場合には、SARS-CoV-2 RBD IgG検査やSARS-CoV-2スパイクタンパクIgG抗体検査があります。

研究室の同僚が高速抗原検査のための材料を準備している様子

最後に、アルゼンチンでは既に社会経済的な問題や健康上の問題が顕在化して、深刻化していたにもかかわらず、さらに隔離やパンデミックによって国民の意欲が低下して、不安感が高まってしまいました。しかしながら、国民一人一人の努力のおかげで、今日、私たちは新たな現実を生きています。習慣を変え、適応し、場合によってはライフスタイルを再構築し、予防策だけでなく、このような大規模なパンデミックがもたらす影響についても、はるかに高い意識を持つようになりました。今回の経験が、将来のパンデミックに対して、より強い決意を持って立ち向かい、パンデミックを健康問題としてだけでなく、社会・経済的な問題として捉え、国民のすべての活動分野にとって最善の方法を考える上で役立つことを願ってやみません。

注)原文からの和訳はJSTによるものです。正確な表現やデータについては、英語原文をご参照ください。(原文はこちら