2019年度 活動レポート 第188号:東京理科大学

2019年度活動レポート(一般公募コース)第188号

東京理科大学火災科学研究所へようこそ
~アジアの火災安全を願って

東京理科大学からの報告

関東地方に甚大な被害を及ぼした台風の爪痕を残したまま、10月の終わりの早朝、タイからチュラロンコン大学の学生が成田空港に到着にしました。その日次々と台湾中央警察大学校、韓国からは湖西大学、ベトナム建設大学、マレーシアのチュラロンコン大学の学生達が到着するにつれ、彼らを歓迎するように太陽が輝き始め、久しぶりの晴天となりました。

私たちの願いは3つ。友情がいつか国と国との架け橋になることを信じ、5か国と日本を合わせた6カ国の若者が相互に良好な関係を築いてほしい。2つ目は火災安全工学の高度な知識を学び、あるいは学ぶ契機をもって帰ること。3つ目は、これをきっかけに日本を大好きになって、東京理科大学大学院火災科学専攻で留学生として専門的技術を本気で学び、将来母国で火災から命と財産を守るキーパーソンになってもらいたい。そんな思いを込めて実施した今回で3回目のプログラムは、過去の国数・人数を上回る5か国から15名を迎え、内容もより効果的で魅力的なものを計画しました。

参加者には事前に自国の火災状況、火災統計・法規制について自由に調査を行い、プレゼンテーションの準備をしてもらいました。自己紹介を兼ねた発表はまだ緊張で表情は硬いですが皆一生懸命準備してきた様子が伺えます。

ベトナムからは首都ハノイでのカラオケ店の火災事故の状況・原因や建築物の構造の他、ベトナムの文化的背景による影響も含めた詳細な状況報告がありました。今の日本では考えられないような建築設計、安全対策・法整備の不備による火災の惨状ですが、日本でも過去には同じような火災があって、そして、彼らの国では今でも現実に起こっているのです。私たちは過去に日本のたどってきた火災の経験を、急発展を遂げた結果、防災対策が追い付いていないアジアの諸都市の防災に生かすことが使命と考えています。

午後には東京木材問屋共同組合の木材会館の施設見学のため、事前知識として、木材建築物の専門家から木構造耐火についてレクチャーを受けて臨みました。木材会館は緻密に構成された美しい外観のみならず、館内はヒノキ、山さくら、杉などすべて国産の木材のよい香りが鼻梁を刺激し、美しい日本の伝統と技術が厳かに息づいていました。学生たちはおそるおそるそのやさしいぬくもりのある木でできた壁、柱、机、オブジェにそっと触れていました。

東京スカイツリーでの構造見学は、防災設計を行った企業のエキスパートから事前に説明を受けました。その後、実際にその場に立つことにはまた特別なものがあったようです。外壁側では東京オリンピック2020のためにライトアップ用照明を作業員が増設中でした。彼らが来年自国のテレビで目にすることがあったらきっとここに立ったこの瞬間を思い出すことでしょう。

最初は国ごとに固まっていた学生たちも、4日目に火災科学研究センター実験棟で実験・演習を行う頃にはすっかり国の垣根がとれて各国入り混じって話しあう様子が見られました。実験は、東京理科大学大学院火災科学専攻の学生が何週間も前から自主的に企画し、準備を進めてきたものです。火災実験では、水に浮かべたろうそくにガラス瓶をかぶせると水面が上昇する事象の原因を、国を超えて皆が頭をつきあわせて考え意見交換して学ぶ姿は頼もしく、世界のどこかで今も紛争が起こっていることなど想像もできないほど平穏な光景でした。

火山防災について学ぶフィールドワークに浅間火山博物館へ行き、火山ガス、噴火のメカニズムを学びました。ここには浅間の火口を模した展示物の他、映像を用いて日本や世界の火山分布のわかりやすく解説したものもあり、世界地図を前に自国の場所と火山帯を指し示して他国の学生に説明する姿がありました。秋晴れの続くなか、行く先々で見られる紅葉に、ベトナム、マレーシア、タイの学生には木々の葉の色が変わっていくことさえ珍しく、もみじをひろって大切に手帳に挟んだり、写真に収めたりして、日本の四季を満喫していました。

帰り途中、初めて手に取る伝統の丸頭こけしに、思い思いの絵柄をつけました。日本に留学している学生も含めて、国ごとに並べてみました。それぞれの国の特徴がよく表れています。

(上) タイ マレーシア ベトナム
(下) 台湾 韓国 日本

私たちはこれからも世界の火災被害低減を願って様々なプログラムを実施してまいります。