2019年度 活動レポート 第56号:熊本大学

2019年度活動レポート(一般公募コース)第056号

ベトナムの若手研究者との地質古生物学分野における共同研究

熊本大学大学院先端科学研究部
准教授 小松 俊文さんからの報告

地質古生物学分野の研究や博物館の視察などを目的にベトナム国立自然博物館の若手研究者3名を招へいしました。研究目的は(1)ベトナムおよび西南日本産の新生代淡水生二枚貝類の分類学的な研究と研究成果の展示、(2)ベトナム産三畳紀クモヒトデ化石の研究と研究成果の展示、(3)ベトナム産デボン紀二枚貝化石の分類および古生態学的な研究などです。

(1)については、北九州市立自然史歴史博物館や天草市立御所浦白亜紀資料館、滋賀県立琵琶湖博物館、御船町恐竜博物館、熊本大学などに保管されている標本を観察した上で、九州での地質調査と非海生二枚貝化石の採集や琵琶湖での比較研究用の二枚貝類の採集を行い、それらの結果とベトナムで採集した二枚貝化石との分類学および古生態学分野の研究を行いました。その結果、北部ベトナムのランソン省やカオバン省で採集した二枚貝は、イシガイ類のUnioCristariaHyriopsis、シジミ類のCorbiculaなどが主体で、共産した巻貝化石のMargarya類から中新世の化石群集である可能性が明かになりました。

天草地域に分布する古第三系弥勒層群での地質調査の様子(上天草市松島町)
琵琶湖西岸にある堅田漁港内で琵琶湖産の淡水生二枚貝の貝殻を採集している様子。

(2)の北部ベトナム産クモヒトデ化石は、多くが印象化石であったため、熊本大学で抽出や整形作業を行った後、加圧器などを用いた特殊な型取り方法でシリコンゴム標本を作成して、実体顕微鏡や電子顕微鏡で観察を行いました。また、比較研究と展示用のクモヒトデの現生種(Amphiura vadicolaなど)を天草沿岸などで採集しました。その後、国立科学博物館の藤田敏彦氏や石田吉明氏の協力で博物館に保管されている現生標本や論文の図版と比較した結果、クモヒトデ化石は”Aplocoma類”の新属新種である可能性が高いことが明かになりました。

比較研究および展示用のクモヒトデ類を採取している様子(上天草市大矢野町)。
採集した堆積物試料中には,クモヒトデ類(Amphiura vadicola)やシャミセンガイ類などの底生生物が確認できました(右上)。

なお、クモヒトデ化石の産出は、ベトナムでは初の報告となります。さらに(1)と(2)の研究成果については、学会や論文などでの公表が可能であるため、それらの研究成果や化石を現生種の比較標本と並べて、解説パネルや展示を作成し、将来的にはベトナム国立自然博物館の展示に活用する予定です。また、(2)の研究試料と共産した二枚貝やアンモナイト、(1)と(2)の母岩に含まれていた花粉化石などについても研究を行い、地質年代などを決める上で重要なものが含まれていることが明かになったため、今後もベトナムでの調査や研究を継続することとなりました。

国立科学博物館分館の藤田研究室で、ベトナム産のクモヒトデ化石や天草で採集したクモヒトデ類を観察している様子。ベトナム産の三畳紀クモヒトデ化石の鋳型標本からシリコンゴムで型標本を作成後(右上写真)、
観察を行っています。

(3)のベトナム産デボン紀二枚貝化石については、化石を母岩から取り出すクリーニング作業がベトナムではできないため、(1)の淡水生二枚貝化石と共に熊本大学や国立科学博物館の重田研究室にあるクリーニング機器や真鍋・對比地研究室で管理している分析機器などを用いて作業を行い、蝶番や筋痕などの分類学的に重要な形質が観察できるまでクリーニング作業を進めました。その結果、ベトナムから持参した標本は、3種類の新属新種が含まれていることが明かになりました。

化石のクリーニングを終えたベトナム産の古第三紀およびデボン紀の二枚貝化石。
岩石から貝殻を単離し、分類学的に重要な殻内側の蝶番や筋痕などの特徴が分かる状態まで仕上げています。

なお、(1)~(3)までの研究と並行して、博物館の展示や標本などの保管、普及活動などについて見学を行い、常設展と夏休みの特別展の見学やバックヤードでの活動、標本の保管状況などを視察しました。これらの経験はベトナム国立自然博物館での展示の作成や活動、研究などの面で役立つことが期待できます。

国立科学博物館本館にて。
大型の脊椎動物化石の復元や展示の仕方について説明を受けました。