活動レポート

2019年度活動レポート(一般公募コース)第006号

肺炎球菌のゲノム情報に基づいた分子疫学情報の解析

大阪大学大学院歯学研究科
教授 川端 重忠さんからの報告

 2019年6月1日から6月21日、ミャンマーの大学院生である招へい者1名とともに、肺炎球菌について分子疫学的性状の解析を行い、肺炎球菌感染症の疫学情報および薬剤耐性化に繋がる遺伝情報を得る目的で交流計画を実施しました。

 肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)感染症は、乳幼児と高齢者の主な死因の一つです。また、インフルエンザウイルス感染後に続発する細菌感染症の主要原因菌であります。肺炎球菌は近縁の口腔レンサ球菌からDNAを取り込み、薬剤耐性や病原性を獲得してきました。東南アジア諸国では肺炎球菌感染症による死亡率が小児で極めて高いにも関わらず、疫学情報は充分に整備されていないという問題点があります。

ゲノムDNAの精製を行う招へい者

 肺炎球菌は、莢膜成分である多糖体の抗原性により、97種類以上の血清型に分類されます。この血清型別法は疫学や公衆衛生に重要であるだけでなく、ワクチン抗原の選択に必須の分類法です。薬剤耐性肺炎球菌の蔓延や病原性が高いクローンの発生に対処するため、近隣諸国を含む国外と日本国内の疫学情報に基づく疾病予防対策が急務です。本計画によって、Multi-plex PCRによる莢膜型決定、薬剤耐性遺伝子の検出、次世代シーケンサーを用いた肺炎球菌臨床分離株のドラフトゲノム配列の決定といった、遺伝疫学的解析手法をミャンマー側研究者と共有することによって、ミャンマーにおける疫学情報収集の能力が大きく進展しうると考えました。

菌株培養用の培地の準備を行う招へい者

 まず、肺炎球菌の臨床分離株について、スピンカラムを用いた染色体DNAの精製を行いました。次に、得られた染色体DNAを用いて、肺炎球菌臨床分離株の血清型の決定を試みました。具体的には、血清型特異的な莢膜合成遺伝子領域のDNA配列を標的にしてMulti-plex PCRを行いました。アメリカCDCの公開プロトコールと改良プライマーを用いて、複数のPCR 反応を同時に行いました。このMulti-plex PCRは、臨床分離頻度が高い40種の血清型を同定できます。PCR産物のサイズをアガロース電気泳動法により確認し、血清型を決定しました。さらに、特異的プライマーを用いたPCR法によって、抗菌薬耐性遺伝子の分布を検索しました。加えて、得られた染色体DNAについて、次世代シーケンサーを利用したドラフトゲノム配列の決定を試みています。

修了証を持つ招へい者(写真右は連絡担当者)

 このような実験内容に加えて、大阪市立科学館を訪問し、生命科学以外の日本の科学技術についても関心と理解を深めてもらいました。大阪市立科学館は、過去に中之島に存在した、大阪大学理学部の跡地にできたものです。生命科学よりも、理学や工学、化学分野の展示が多いものでした。招へい者は特に、伊能忠敬の測量機などの日本の歴史に関わる展示物や、精密機械の断面の展示などに興味を示していました。

大阪市立科学館見学中の招へい者

 今回の交流で招へい者が得た技術と知識は、今後のミャンマーにおける分子疫学分野の発展に貢献するものであると考えます。

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