2018年度 活動レポート 第174号:中央大学

2018年度活動レポート(一般公募コース)第174号

ベトナムにおける水問題の解決と若い研究者育成のための交流プログラム

中央大学理工学部都市環境学科
教授 山田 正さんからの報告

2018年9月2日~9月9日にかけてベトナムトゥイロイ大学(ハノイ水利大学)の学生9名と教授1名を招へいしました。中央大学とトゥイロイ大学とは「アジアの水問題に関する共同研究」を15年以上にわたって実施しています。また、トゥイロイ大学は中央大学が2010年度から実施している「国際水環境理工学人材育成プログラム」の協定校でもあり、計8名の学生が中央大学大学院に留学している密接な関係にあります。

本プランでは、関連する研究テーマを実施している研究室、公的研究機関、治水利水施設、都市河川、日本科学未来館等の見学を通じて、日本の先進的な科学技術を学ぶとともに更なる両大学の交流を深めることと、中央大学の日本人学生においても交流を通して開発途上国の水環境問題を理解し、新たな研究テーマの創出および国際的視野や感覚を養うことを目的としました。

9月3日

前日に来日したトゥイロイ大学一行へ樫山理工学部長より歓迎の挨拶の後、申請者の山田正から「日本の河川計画」に関する講義を実施しました。午後は都市環境学科の有川太郎先生より、「海岸の防災技術」に関する講義を実施し、多重スケールに応じて離散化の手法を最適化する最も先進的な津波シミュレーション手法の紹介、及び、人の避難行動の研究に関する実験装置を用いた浸水路の状況を再現した実験ビデオを見せました。

ベトナムにおいても津波による被害は深刻であり、受講した学生は大きな関心を寄せていました。講義後には、後楽園キャンパスとその周辺(東京ドーム、シビックセンターの展望台、後楽園)の見学を行い、特にシビックセンターの展望台から見える都内の街並みを楽しんでいました。

写真1
津波シミュレーションおよび避難行動に関する講義

9月4日

当初、八ッ場ダム建設現場の見学を予定していましたが、台風21号の影響により、予定を変更しました。午前中は河川水文研究室の学生が「不確実性を考慮した水文極値統計理論」及び「日本の河川行政制度」について研究発表を行い、日本とベトナムの雨量、流量観測場の設置密度とそれに起因する流出計算する際に生じる不確実性について活発な議論を行いました。

午後は水質悪化が問題となっている江戸城外濠と日本橋川における研究発表及び現地見学を実施しました。日本人学生が現地にて実際に水や泥を採取している様子を見て、招へい学生は観測風景や採取したサンプルの写真を撮影したり、なぜ水質が悪化しているのかを議論したりしていました。

写真2
現地観測風景

9月5日

午前中は「平成27年9月関東・東北豪雨災害」に関する研究発表と当時の映像を紹介しました。行政の避難情報の提供、避難勧告の発令および市民の避難行動について、学生の関心が集まりました。

午後は河川の水面形に関する水理実験と後楽園キャンパスに設置されたレーダー雨量観測システムを見学しました。その後、都市環境学科教授である樫山学部長により「数値シミュレーション」に関する講義やVR、AR施設の見学が行われ、VR技術を用いた津波災害中街の状況の再現や、遮音壁の効果の再現などを学習しました。

写真3
樫山学部長から津波数値シミュレーションに関する講義

9月6日

つくばの土木研究所を訪問しました。土木研究所の水文チーム、水理チームとCAESAR、土質・振動チーム、ICHARMから実験装置の見学と研究テーマの説明を受けました。見学中、水理チームから潜行吸引式排砂管の原理を示した実験装置の紹介があり、学生は他のエネルギー源が必要なく、ダムの水頭差のみで機能できる排砂管の設計に驚いていました。

写真4
土木研究所の水文チームから高精度流速計測システムの説明

ICHARMの講演では、小池センター長からアンサンブル的な気象予測方法の紹介があり、学生はアンサンブル予測のデータベースについて活発な質疑がありました。その後、後楽園キャンパスに戻り、人間総合理工学科の山村寛先生から「膜技術」に関する講義及び実験施設を見学しました。山村寛先生は「膜技術」の水質浄化における伝統的な応用をはじめ、生物燃料の濃縮、抽出や、リンの回収などの最も先進的な技術を紹介しました。

9月7日

午前中は荒川下流河川事務所に訪問し、荒川知水資料館で「荒川の歴史」について説明を受けました。学生は洪水災害中に河川事務所の役割と対応の仕方及び人工的に作られた荒川放水路の防災効果について議論していました。その後、災害対策支援船「あらかわ号」に乗船し、荒川を見学しました。船上では荒川の堤防設計と東京湾の港湾施設について説明があり、特にスーパー堤防の建設理由や効果、東京湾の景観設計について多くの質疑応対が行われました。その後日本科学未来館を見学しました。

写真5
「荒川の歴史」について説明

9月8日

午前中にトゥイロイ大学の学生自身の研究内容の発表とディスカッションを行いました。午後はFarewellパーティを行い、さくらサイエンスプログラムの修了証書の授与が行われました。学生による日本での体験や印象についての発表では、「講義や見学を通じ日本の最先端技術にふれ、とても勉強になり、今後の研究に活かしていきたい」等の感想が話されました。その後、学科の学生が準備した記念品を授与し、皆でパーティを楽しみました。

9月9日

午前中にホテルから成田空港に向かい、帰国の途につきました。台風21号の影響により、八ッ場ダムの見学が中止となったことは残念でしたが、当初の本計画の目的を充分に達成できたと実感しています。