2017年度 活動レポート 第414号:名古屋大学

2017年度活動レポート(一般公募コース)第414号

フィリピンの若者が水銀等重金属や有害物の汚染問題に対する取り組みと対策を学ぶ

名古屋大学大学院生命農学研究科からの報告

2018年1月23日から2月1日までの日程で、フィリピン共和国アテネオ・デ・マニラ大学の環境問題について学んでいる理工学部の学生9名(大学院生5名、学部生4名)と教員1名が、日本の公害問題の歴史を幅広く学ぶ、さくらサイエンスプログラム科学技術体験コースに参加しました。

その背景として、水銀の利用や移動を厳しくする国際条約(水俣条約)が発効したにも関わらず、フィリピンでは人力小規模金採掘において、未だに水銀が使用されており、水銀による環境汚染と人への健康被害が大きな社会問題となっているという現状があります。本交流計画では、アテネオ・デ・マニラ大学の学生に、水俣病問題の経験がある日本において、水俣の水銀汚染の歴史やその後の対策と現状を現地で見聞し、かつて大気汚染のひどかった四日市や、自然由来のヒ素汚染土壌問題を抱える岐阜などを訪問し、日本の公害問題の歴史と対策、現状を幅広く学んでもらうことを目的としました。

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水俣市立水俣病資料館訪問

福岡国際空港に到着した一行は、まず、新幹線で鹿児島に向かいました。鹿児島大学では、アテネオ・デ・マニラ大学における環境研究の紹介をしてもらい、また水銀分析の第一人者である冨安卓滋教授から、環境中での水銀の挙動に関する講義がありました。

次の日には、貸切バスで水俣を訪問しました。水俣では、まず加害者側のJNC(旧チッソ株式会社)を訪問し、現在の取り組みについて説明を受け、そのあと、水俣市立水俣病資料館、水俣病情報センターを見学し、過去の日本における水銀問題について理解を深めてもらいました。

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水俣のJNC(チッソ)での説明

名古屋に移動したあと、四日市公害と環境未来館において、四日市公害の歴史と対策について学び、また、未来の理想的な住宅や都市をイメージしたトヨタエコフルタウンでは、将来の生活のあり方を考えてもらいました。近年問題となっている自然由来の汚染物質であるヒ素の土壌汚染問題については、民間企業である大日コンサルタントの方々から、実際の岐阜のトンネル掘削現場で対策法について教えていただきました。

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四日市公害と環境未来館訪問
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トヨタエコフルタウンにて立ち乗り二輪車ウイングレットに試乗

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岐阜の自然由来のヒ素汚染対策地にて

最終日には、産業総合研究所の村尾智氏による水俣条約に関わる国際的な動向に関する講義がありました。最後の総合討論では、全員がテーマ別のグループに分かれて、日本とフィリピンを比較するという観点で、今回見聞した環境問題についてまとめ、成果発表を行いました。最後に全体を総括したアテネオ・デ・マニラ大の大学院生が、日本の伝統的な茶碗の修復方法である「金継ぎ」を取り上げ、一度壊れてしまった茶碗も丁寧に修復して金で飾れば、壊れる前よりも美しい茶碗にすることができる、という技法を環境問題に当てはめ、壊れてしまった環境も、みなの努力によって美しい環境に復元できるという言葉で締めくくってくれたことはとても印象的でした。

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総合討論
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お茶会に参加

短い時間でしたが、フィリピンの学生さんたちが多くのことを学んでくれたという達成感を感じることができたプログラムでした。