2015年度 活動レポート 第16号:北海道札幌啓成高等学校 宮古昌 理科教諭

特別寄稿 第16号

生物多様性の保全を学ぶ研修を展開
マレーシア・サバ州の学生と科学交流
宮古 昌

執筆者プロフィール

[氏名]:
宮古 昌
[所属・役職]:
北海道札幌啓成高等学校 理科教諭
 
プログラム
1日目 夕方:到着、到着時オリエンテーション
2日目 午前:酪農学園大学合同研修(施設見学)、教会見学
午後:酪農学園大学環境GIS研究室合同研修(講義、実習)
夕方:ホームステイ文化交流
3日目 午前:北大地球環境科学研究院合同研修(講義、実習、施設見学)
午後:北大宇宙ミッションセンター合同研修(講義、実習、施設見学)
夕方:ホームステイ文化交流
4日目 午前:北海道博物館合同研修(館内見学、ワークショップ)
午後:野幌自然公園にて国際森林キャンプ(野外観察、ワークショップ)
夕方:バーベキュー、文化交流
5日目 午前:バードウオッチング
午後:ホストファミリーと市内見学、ホームステイ文化交流
6日目 高校生:本校での体験学習1
大学生:酪農学園大学環境GIS研究室研修(講義、実習)
夕方:ホームステイ文化交流
7日目 高校生:本校での体験学習2
大学生:酪農学園大学環境GIS研究室研修(講義、実習、啓成高校へ移動)
茶道部との文化交流、修了式、送別会
8日目 帰国
 

本校の紹介とプログラムの概要

9月19日(土)、科学技術振興機構主催による「さくらサイエンスプログラム」を通じて、マレーシア・サバ大学の学部生3名・大学院生2名、マレーシア・オールセインツ中等学校の高校生5名・教員1名を招へいし、8日間の科学交流を実施しました。

本校は、平成22年度よりスーパーサイエンスハイスクール(SSH)に指定され、今年度第2期がスタートしたところです。これまで、サバ大学で、オールセインツ中等学校の生徒と一緒に生物多様性の保全を核とする海外研修を行ってきました。このような関係から、本年8月、生物多様性の保全に貢献する人材育成を目的にサバ大学と学術交流協定を締結し、オールセインツ高校とは、双方向交流の実現を模索しておりました。

この流れの中で、この招へい事業のことを知り、両国の高校生、大学生が、互いに協力・刺激し合いながらアジア共通の問題である生物多様性の保全を学ぶ研修を行ってみようと思い応募しました。

プログラムは、大きく3つからなります。

①大学では、水の安定同位体比分析により水の循環をモニタリングする手法、衛星を活用したスペクトル分析により森林をモニタリングする手法及び、GISを活用して森林をモニタリングする方法を学びました。どの研修も実習が含まれていたので、協力しながら研修を受けることができた。マレーシアの学生は、日本の先端技術に目を輝かせながら、興味を持って食い入るように学んでいました。日本の学生は、英語の壁を感じながらもマレーシアの学生と協力して実習に積極的に取り組み、マレーシアの学生の英語力に刺激を受けていました。人工衛星を活用する研修では、マレーシア高校生が講師を質問攻めにする場面もありました。先端技術を活用した研究手法はとても興味深かったようで、マレーシアの生態系の保全に是非活用したいと意気込んでいました。

安定同位体比分析計の説明

ペアーで簡易スペクトル解析器を作製

シャチの標本を前に生態系の説明をうける

②森林キャンプでは、北海道の自然及びアイヌ文化を学び、冷温帯汎針広混交林の野外観察、環境の繋がりを考えるワークショップを行いました。バーベキューのときにはすっかり互いに打ち解け、ワイワイと語り合っていました。マレーシアの学生にとっては肌寒く感じる日でしたが、炭で暖をとりながら、「こうやっていると体が温まり、心の深くまでが温まるんだ。皆が繋がっているようで・・・」といいながら、合宿所へなかなか入ろうとしなかったのがとても印象的でした。準備は大変でしたが、友情を深め合うとても良いプログラムだったと考えております。

冷温帯汎針広混交林を五感を通して学ぶ

③学校種別研修では、英語の授業での文化交流、SSH科学実験、火山防災実習、調理実習、書道体験及び音楽交流を行いました。マレーシア高校生の親たちも、スマホを通して毎日の研修について子供たちと一緒に盛り上がり、満足していました。

最終日の午後は、大学生も本校に集まり、茶道部が開催してくれた「お茶会」に参加し、「おもてなしの精神や作法」を学んだ後、修了証授与式、送別会を行い、ぎりぎりまで別れを惜しんでいました。

火山灰地層で過去を読み取る実習

ホストファミリーとお別れ後、涙が

本校の効果について

今回の交流は、本校生徒にとっても、学校にとっても、とても貴重なものとなりました。 同年齢のマレーシア高校生が不自由なく英語を話していることに刺激を受け、英語学習への意欲をかき立てられたもの、マレーシアが好きになったもの、日本を意識し始めたもの、生徒の受け取り方は実に様々です。
本校は、SSHの指定を受けてから、留学生やJICA研修員を活用した科学学習プログラム、国際森林環境フォーラムなどを行い、国際性の育成にも力を入れてきました。しかし、海外の高校生を招へいし学校全体で交流する機会はありませんでした。今回の交流をきっかけに、オールセインツ中等学校とは双方向交流の実現に一歩近づき、国内及び国外の高校・大学の4教育機関が連携して生物多様性の保全に貢献する人材育成及び国際性を育成する試みができたのも大きな成果でした。

将来の課題と展望

将来的には、洞爺湖を会場として生物多様性の保全と火山災害をテーマとした国際的なユースキャンプを開催できたらと考えておりますが、まずは、このような招へい事業を活用させていただき、地道に本校の国際化を進めていきたいと考えております。複数年度継続して同じところから招へいできるような制度を考えていただけると、双方向交流が深まり、学校の教育活動に位置づけながら見通しを持って他機関と連携を取り継続した教育ができますので、高校の教育現場としてはありがたいです。
SSH2期目を迎えて、予期せぬSSH予算の減額による厳しい状況をなんとか打開したいと考えていた矢先、今年度のさくらサイエンスプログラムに本校を採択していただき、国際交流事業を一歩前進させることができました。次年度は、SSH重点枠に再チャレンジし、本校の国際化を更に進め、道内の高等学校科学教育の国際化に貢献しようと考えております。今後とも多方面からのご支援をお願いいたします。

さくらサイエンスプログラムの実施に当たり、ご支援をいただいた各教育機関の皆様には感謝申し上げます。また、JSTには、貴重な機会を提供いただいた事に、改めて感謝申し上げます。