2015年度 活動レポート 第171号:宮崎大学

2015年度活動レポート(一般公募コース)第171号

「日本における最先端の魚介類養殖技術に基づいた現地適応型疾病防除技術の国際共同研究-健康(安全・安心)な魚介類の養殖を目指して-」
宮崎大学農学部からの報告

宮崎大学

宮崎大学農学部海洋生物環境学科では、2015年7月7日から7月21日までさくらサイエンスプログラムの支援を受けて、タイ王国ソンクラ県のプリンスオブソンクラ大学(PSU)の水産増養殖を研究している大学院生10名を招聘しました。

引率者としてPSUからは自大学負担で2名の教員が来日しました。同行したDr. Chutimaは当該学部の国際連携担当副学部長として本取り組みに高い関心を示していました。

本プランのテーマは日本とタイで共通する養殖魚介類の疾病について、其々の研究成果を持ち寄って議論をするとともに、研修生が日本の優れた研究・技術を学び、より一層の共同研究を推進することにあります。

7月7日に宮崎に到着して、翌8日に大学の施設見学およびオリエンテーションを実施しました。さらに、研修員が滞在中日本語で困らないために、「サバイバル日本語研修」を実施しました。半日の研修でしたが、彼らの日本語に対する学習意欲は高く、授業終了後も講師に多くの質問をしていたのが印象的でした。本プログラム終了時の感想では、この日本語研修は滞在中、大変役立ったとのことでした。さらに、日本語に興味が持てたので、帰国後も日本語を勉強したいとの感想もありました。

日本語研修-日本語教員(杉村先生)によるサバイバル日本語教室。楽しい授業でした。修得した日本語は日本滞在中に大変役に立ちました。

7月9日には宮崎県水産試験場小林分場を訪問して、温水域でも飼育できる「ニジマス」の特徴や、高級食材であるキャビアを生産するためのチョウザメ養殖を見学しました。とくに、キャビアに関しては関心が高く、タイの北部でこのような高付加価値の食品(\10,000~12,000/20g)が生産できれば地域の活性化につながると、若い研究者たちは意欲的に質問をしていました。

小林分場-宮崎県水産試験場小林分場での見学。特産の温水性ニジマスとチョウザメについて研修を受けました。

7月10日~11日に大分県佐伯市にある水産総合研究センター増養殖研究所上浦庁舎を見学しました。本訪問では、魚介類のウイルス検出法の先進的な取り組みを紹介していただくとともに、最新の機器と試験養殖施設を見学しました。

上浦分場-水産総合研究センター増養殖研究所上浦庁舎を訪問し、最新の分析機器と試験養殖施設を見学しました。

7月12日は日曜日を利用して、清武国際交流協会の支援のもと、お茶とお花を習いました。研修員たちも、直接日本文化に触れることができて、大変喜んでいました。

生け花のおけいこ体験-国際交流協会の支援でお花の稽古をしました。

7月13日には、学長を表敬訪問するとともに、研修生が準備した研究内容をポスターで発表しました。この発表会には、多くの日本人学生、教員、留学生が集まり、活発に議論をしていました。共通の課題をもつ日本人学生とタイの学生が活発に議論をしている様子は、今後の研究の発展を確信させるものでした。

7月14日には本学農学部の吉田照豊教授による魚類の細菌感染症に対するワクチンの有効性とこれに関する共同研究でした。研修員の中にタイでも同様の内容の研究を実施している学生がいたので、自らの研究成果と比較しながら、熱心に質問をしていました。(この成果は論文として発表される予定です。)

吉田先生の魚類の細菌性疾病に対するワクチンに関する講義

7月15日は、農学部伊丹利明教授によるエビ類の疾病防除に関する講義と実験が実施されました。タイは世界でも有数の養殖エビ生産大国ですが、近年は疾病のために生産量が激減しています。とくに、伊丹教授らが開発したエビのウイルス病に対するワクチンの有効性には興味を示していました。また、共同研究では、分子生物学的な高感度ウイルス検出法について議論をしました。

エビの共同研究の様子-クルマエビを用いた実験の様子。最新のウイルス検出法について学習しました。

7月16日は、農学部田岡洋介准教授による栄養面から見た魚介類の健康管理について研修しました。この研修では、微生物由来の物質が魚介類に対して免疫賦活作用があることを、広い視野からとらえた講義と実験でした。新たな疾病防除策として研修員にも大変評判が高かったようです。

7月17日は農学部香川浩彦教授による生理学的な見地から見た魚類の種苗生産に関する研修でした。香川教授はご専門のウナギを用いて実験をしたので、研修員たちには大変新鮮だったようです。現地ではウナギはいるものの、実際に実験に用いたことはなかったために、解剖等には意欲的に取り組んでいました。また、帰国後はこのような有用魚類の再発見にも意欲的に取り組みたいとのことでした。

ウナギの解剖-各自ウナギの解剖にトライしてみますが、ヌルヌルしていて勝手が悪そうです。

7月18日は宮崎大学における研修最終日として、研修に講師として参加した先生方を招いて、プレゼンテーションを各自行いました。皆、今後の共同研究に向けてどのような取り組みをしたいか、や今回の研修に対する意見等について発表しました。その後、一人一人が学長から修了証を受け取りました。最後に、さよならパーティーを関係者と日本人学生を集めて開催しました。このパーティーに参加した日本人学生は2016年3月にPSUを訪問して、共同研究をさらに深めるために、ポスター発表を行う予定です。

宮崎大学長から修了証書授与
宮崎大学の学生との交流

7月19日~20日には、東京の目黒寄生虫館を訪問しました。館長の小川和夫館長による特別講義を受講しましたが、小川館長は魚類寄生虫が専門ですので、大変興味深い話をしていただきました。研修員からは、是非1日分の講義をお願いしたいとのリクエストもありました。その後、日本科学未来等を訪問して、すべての日程を終了し、21日に羽田から帰国しました。

小川先生による特別講義

帰国後、参加者全員から送られた報告書では、JSTに対する謝意と、もう少し長期間かけて共同研究を実施したいとの意見が多くありました。さらに、今後もこのプランを継続して、このような素晴らしい体験を自分たちの後輩にも受け継がせることが出来れば、より一層厚みのある研究交流になるとの意見も多くありました。

このように、今回のさくらサイエンスプログラムが成功裏に終了したのもJST関係者および訪問先の皆様のおかげです。この場をお借りして厚くお礼を申し上げます。

この日の夕食は、回転ずしに行きました。はじめて体験する回転ずしに、日本食の美味しさや回転ずしのシステムに参加者は皆大喜びしていました。

回転寿司店にて

3日目は、本学の留学生の案内によるキャンパスツアーや、岩手大学オープンキャンパスに参加して、施設や研究活動の見学を行いました。その後、招聘学生の専門分野の研究室を訪問して、研究交流を行いました。夜は、交流会を開催して、本学の教職員・学生と参加者の交流を深めました。

4、5日目は、招聘学生に岩手の素晴らしい大地と海を体感してもらうと共に、被災地の現状を直接体感し、本学学生と共に学びあうことを目的に、一泊二日の日程で岩手沿岸部三陸ジオパークの見学をし、被災地学修を行いました。

キャンパスツアー(農業教育資料館前)

4日目は、午前に日本三大鍾乳洞の1つである龍泉洞を見学しました。非常に長い年月をかけて形づくられた独特な鍾乳石や非常に澄み切った地底湖に皆感動していました。午後は、約200mの断崖が5連に立ち並ぶ鵜の巣断崖を見学した後、東日本大震災の際、甚大な津波被害を受けた宮古市田老にて被災箇所の見学を行いました。

龍泉洞見学

震災遺構である"たろう観光ホテル"や無残に破壊された防潮堤を前に、被災当時の状況について皆活発な質問をしていました。当時の田老中心街を1時間かけて徒歩で周り、津波の威力を肌で体感しました。宿泊先である釜石・宝来館では、実際に津波被害を体験した女将のお話をお聞きするとともに、5日目の課題解決型学習(PBL)に向けた事前学習を行いました。

5日目午前は、「おらが大槌夢広場」のご協力の下、大槌町の被災箇所見学(旧大槌町役場、赤浜船着き場)とPBLを行いました。大津波襲来時の生々しい状況、当時及び現在の住民の心境についての説明の後、「震災遺構である旧大槌町役場をこのまま残すか、または取り壊すべきか」をテーマに、招聘学生と岩手大学生が共に活発な議論を交わしました。午後は、岩手大学釜石サテライトを訪問し、主に水産業に関して、復興への本学の取り組みについて学習しました。

PBLの様子(大槌)
岩手大学釜石サテライトにて

6日目午前中に、国立科学博物館を訪問しました。ここでは、恐竜や様々な動植物の標本や科学技術の歴史に皆、興味を示していました。午後は日本科学未来館を訪問しました。ここでは、最新の人型ロボット、宇宙・地球・生命の展示などの見学を行い、参加者は日本の最新科学技術に触れ、多くの写真を撮っていました。その後、帰国に向けて成田へ移動しました。

国立科学博物館の訪問
日本科学未来館の見学

最後に本プログラムを実施して、以下のことを感じました。グローバル化が求められるなか、国や大学が異なる参加者、本学教職員・学生が活発に交流を行い、短期間にとても親密になれて、少しではありますが国際感覚を養うことができました。準備から実施まで多くの費用や時間が必要でしたが、国際交流として大変有効な事業であると感じました。