2015年度 活動レポート 第39号:千葉大学大学院工学研究科

2015年度活動レポート(一般公募コース)第39号

電子科技大学学生が千葉大学で高周波・MEMSに関する研修を実施

千葉大学大学院工学研究科 教授 橋本研也

2015年8月16日(日)~2日(土)の7日間、中国成都にある電子科技大学(UESTC)から学部生9名と大学院生1名 (計10名)が、科学技術振興機構(JST)さくらサイエンスプログラムの支援を受けて来日し、千葉大学と東北大学において高周波並びにMEMS(微小電子機械システム)技術に関する研修を実施しました。

UESTCは電気電子工学を核とした非常に高名な大学で、今回の招聘の窓口である筆者は、以前より同大学と密接な交流を進めています。昨年度も同大学とさくらサイエンスプログラムを実施しましたが、実施内容について、全ての参加機関、参加者並びにJSTから高い評価を得ましたので、昨年度のものとからほぼ変更せずに実施することにしました。即ち、我が国の高周波並びにMEMS関連の教育・研究環境を体感することにより、将来大学院学生やポスドクとして再来日に対する憧れを誘発することを目的に据え、研究室見学や講演ばかりでなく、英語での講義や実習を実施しました。参加者は、公募に応じた者の中からUESTC側で選抜されています。その際の選抜基準は、上記の目的や研修内容と符合するように、学業成績に優れ、英語に堪能で、研修内容の高周波・MEMS技術に興味を持ち、さらに日本への留学に興味があるかです。中国の大学は全寮制で、学生指導の先生が学生全員の資質や学習の様子等を熟知しています。そのため、この選抜手法は極めて有効です。

前回と同様、今回参加した学生も皆優秀で活気があり、セミナーや講義、研究室見学に積極的に取り組み、鋭い質問を連発していました。提出を義務付けた英語での実習並びに感想のレポートも質の高いものでした。今回のプログラムにお手伝い頂いた先生方からの評判もすこぶる良く、来年度実施の際も喜んで協力致しますとの返答を受けています。

8月16日午後に成田に到着し、今回のプログラムのコーディネータを務めた筆者研究室のドクター学生が出迎えました。そして、千葉のホテルまで移動し、チェックインの後、日本での生活全般に関するガイダンスを実施しました。

8月17日朝は筆者がプログラム全体に関するガイダンスを実施した後、千葉大学 劉浩教授からバイオメカニクスに関するセミナーを受講しました。また、近くの寿司屋で歓迎会を兼ねた昼食会を実施し、千葉大学側メンバーとの親交を深めました。そして、劉教授研究室での羽ばたき飛行のデモンストレーションや空洞実験等を見学した後、筆者による高周波電子工学に関するセミナーを実施しました。

翌18日は伝送線路に関する講義を実施した後、筆者の研究室を見学しました。同研究室では携帯電話に多用されている弾性波を利用した電子素子を主に研究していますが、その推進に必要な最先端の研究環境が構築されています。参加者はその充実ぶりに驚いていましたが、東北大学へ行けばもっと驚くよと伝えておきました。引き続いてネットワークアナライザを利用した高周波ケーブル中の電磁波速度測定に関する実習を行いました。参加者の中には大学で伝送線路をまだ履修していない者も相当数居りましたが、皆興味を持って実習に取り組んでいました。

千葉大学における研究室見学の様子 (右端は筆者)

実習が比較的早めに終わったので、夕方に参加者全員で秋葉原に出かけたそうです。ちなみに、16,17日の夕刻はホテルのそばのヨドバシカメラとマツモトキヨシで一通り物色した様です。

19日に一行は仙台に移動しました。今回は、東北大学田中秀治教授の発案で、同大学資料館見学をスケジュールに新たに組み込みました。文豪魯迅は同大学の前進である仙台医学専門学校に留学しており、資料館にはその時の資料が展示されています。多くの参加者は魯迅が同大学へ留学していたことを知らず、感慨深く見学していました。余談ですが、日頃極めて多忙で面会さえも難しい田中先生が、資料館の前で参加者を待って下さったことに、参加者は甚く感激しておりました。

東北大学資料館前での記念撮影 (中央が田中秀治教授)

次に、田中秀治教授の研究室に移動しました。同教授はMEMSに関する世界的権威で、研究室には最先端の研究環境が整備されています。まず、田中教授にMEMSに関するセミナーを実施して頂き、引き続き、彼の広大な研究室を見学し、田中研究室での学習・研究環境について理解を深めました。また、夕刻には田中教授が懇親会を開催して下さり、研究室の教員・学生の方々との懇親会が開催されました。参加者のレポートによると、この機会に著名な先生方や先輩方に様々なことを質問し、率直な意見を伺えたことが極めて印象深かったとのことです。

その日は仙台に一泊し、翌20日に東北大学 末松憲治教授の研究室を訪問しました。こちらでは世界最先端の移動体通信技術を開発しており、関連技術まで網羅した卓越した研究環境が整備されています。末松憲治教授に特別講義をお願いし、それに引き続き、亀田卓准教授、本良瑞樹助教に3次元アンテナ、電波暗室等を中心に研究室を紹介して頂きました。UESTCにはそれなりの研究環境が整理されていますが、それでも世界第一線の研究・開発環境は彼らに大きな刺激を与えたようです。

東北大学 末松憲治教授による特別講義の様子

午後には戸津健太郎准教授の御厚意により東北大学試作コインランドリーを見学しました。これはMEMSを中心とした試作開発用の共用設備を企業等に開放し、実用化を支援するもので、田中研究室と密接に連携しています。参加者は世界最先端のMEMS研究・開発環境並びに産学連携とはどの様なものかを垣間見ることができ、大きな刺激を受けたようでした。

東北大学試作コインランドリーでの研修の様子(説明者は戸津健太郎准教授)

8月21日の朝に仙台を発ち、そのまま日本科学未来館を訪問し、2足歩行ロボットや会話ロボットなど、日本の科学技術の最先端を見学しました。その後、千葉大学に戻り、修了式を行いました。

修了式を終えて(中央は筆者)

最終日8月22日午後の飛行機で無事成都へ帰国しました。聞くところでは最終日午前も買い物に費やし、おみやげを持ち帰るのが大変だったようです。

修了式直後に実施したアンケート調査によると、参加者全員がこのプログラムに満足し、千葉大学や東北大学での教育・研究環境の素晴らしさが印象深かったようでした。何名かの参加者は日本への留学に興味を持ち、既に具体的な相談を受けております。

ちなみに、昨年度の参加者のうち、一人はこの9月から交換学生として千葉大学に留学し、別の一人は来年10月に日本で大学院へ進学すべく、準備しています。

将来大学院学生やポスドクとして再来日に対する憧れを誘発すると言う本プログラムの目的は、昨年度と同様、今年度も十分に達成できたと自負しています。